糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

狂う計画 8

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 エレベーターの扉が開くとひらひらと舞う黒い羽が中から飛んで現れた。その黒い羽に誰もが絶句する。
 「ねぇ、蝶男と弥は手を組んだの?」
 黒い羽を見据えながらやっと口を開く。
 黒蝶が一羽、ハザマで飛んでいる。つまり、蝶男がハザマにいる。
 ハザマに来てから計画が狂いっぱなしね。たて続けに起きた予想外のせいで頭がパンクしそう。
 「まさか」
 光弥は驚きながらそう返した。
 あたしも自分で言っておいてそれはないと確信していた。
 黒蝶はあたしの頭上でひらひらと旋回しながらゆっくりと離れ、一定の場所に留まる。
 まるで「こちらにおいで」と誘っているみたい。
 「俺は黒蝶を追う」
 そう言ったのはカンダタで、そこにある感情は憎悪そのもの。
 あたしは首を振って否定する。
 「牢に入った時点で計画が台無しになってる。蝶男まで来られたら交渉なんかできない。一旦、退いて」
 「それか蝶男の誘いに乗るか、だ」
 あたしの言葉を遮るようにカンダタが言い放つ。
 「それは賛成できないわね」
 明らかに罠の臭いがする。
 「なら、瑠璃たちは清音と合流してハザマから離れろ」
 カンダタは黒蝶を追う。それは揺るがない覚悟があった。
 あたしは頭を抱える。
 「ケイと光弥は清音の所へ行って。あたしも黒蝶を追う」
 その判断にケイが迷ってエレベーターとあたしを交互に見た。
 「気を付けろ」
 迷った末、ケイは決意して光弥と一緒にエレベーターに乗った。
 「よかったのか?」
 確認をとってきたカンダタにあたしは呆れと苛立ちを見せて文句を言う。
 「あたしとカンダタは白糸で繋がっているのよ。カンダタがハザマに残るならあたしは現世に帰れない」
 言われるまで気付かなかったカンダタは目を見開いた後に申し訳なさそうに眉を垂らす。
 開きかけた口がその言葉をする前にあたしが止める。
 「謝罪も聞きたくない」
 それにはカンダタも黙るしかなかった。
 「急ぐわよ」
 「わかった」
 それぐらいしか言えなかった。あたしたちはひらひらと誘う黒蝶を追うことになった。



 エレベーターが地上に到着し、扉が開くと光弥たちの前に塊人が立つ。
 多くの塊人は地上での業務が多い。なので、光弥に出会す可能性も増える。
 慎重にならなければと思った矢先の出来事である。しかし、塊人は光弥に一礼し、何事もなく、横切った。
 妙な胸騒ぎを覚えた。
 光弥の裏切りにも近い行動はハザマ全体に広がっていると思っていた。だから、牢に閉じ込められた。
 寝殿造りの廊下を平然と歩くもすれ違う塊人は光弥に軽い会釈をするだけだ。
 何かがおかしい。
 一先ず、弥の書斎に着いた。
 書斎はいつも記録書や設計図などが散乱している。光弥の父である弥は部屋の中央で通常通りに業務を熟していた。
 「お前、なぜ?」
 設計図から顔を上げた弥が光弥を見て驚愕する。その顔は光弥がハザマに居ること自体驚いていた。
 どういうことなのか。光弥が考えるよりも先にケイの行動が早かった。
 ケイは風の疾さで散乱し、積まれた紙の山を超える。デスクの上に左足だけで立ち、右足で弥の肩を蹴る。後ろに倒された弥の上にケイが降り立った。
 息を呑む間さえなかった。
 弥から悲痛な叫びが上がるのも、容赦なく白刃の切っ先を向ける。
 「おや」
 親父と呼ぼうとして躊躇った。こいつを父親と呼んでいいのか、わからなくなっている。
 「キヨネはどこだ?」
 「何の話だ」
 ケイは弥から降りようとはせず、刃は眼球に移動する。
 「待て、説明しろ」
 「お前が指示した」
 ケイの答えに弥はますます訳がわからないと困惑する。
 「あんた、どこまで知ってるんだ?」
 弥の様子がおかしい。何かが変だ。
 「天鳥に指示しただろ。一人ずつ連れ出して面談するって。十如十廻之白御霊を瑠璃が持っているのに牢で放っておいて」
 「瑠璃が持ってる?あれがあるのかっ!」
 弥から恐怖がなくなり、白刃の切っ先も忘れて声をあげる。その反応に光弥は口を滑らしたと失態した。
 清音は弥の所に連れて行ったのかと思った。しかし、ここに清音はいない。弥はケイや光弥に困惑している。
 弥は何も知らされていない?
 ケイと光弥はどういうことかと違いを見合わせた。
 その時、3人の沈黙に響き渡ったのは警戒アラームだった。
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