糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

生命になれなかった子たち 3

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 仕方がない。白糸で傷を塞ごう。
 カンダタをうつ伏せにして、黒衣を剥ぐ。
 「おねえちゃんは生きてる人?」
 「そうよ」
 「なら、早くかえったほうがいいよ」
 「危険だとわかってて来たのよ」
 子供たちと会話をしながら白糸の針をカンダタの肌に刺す。
 「探しものがあるの。白いペンか十手よ。あとあたしと同い年の子」
 情報収集ぐらいはしておこうと質問してみる。
 「見たよ。おねえちゃんとおなじ子がもってた。羽がついた背のたかいおねえちゃんもいたよ」
 あっさりと意外な返答が来たので、驚き、その拍子に誤って針を深く刺す。
 カンダタから苦情とも捉えられる唸り声が上がった。あたしはそれを無視する。
 天鳥と清音が一緒にいた?しかも十手を持ってる。
 「どこで?」
 「川だよ。あるいて行った」
 「歩いて、どこに?」
 「川の上だよ。あそこはもっとあぶないっておしえたのに聞いてくれなかった」
 縫合を再開させ、子供の話を聞く。
 子供たちの話では、清音は心ここに在らずといった様子で天鳥についていったそうだ。川に沿って上流を目指していという。
 「そこには何があるの?」
 「つぼがある。入ったらあぶないんだよ」
 「人は壺に入らないわよ」
 粗方の作業が終わるとカンダタは静かに寝息をたてる。
 一先ず、カンダタの目が覚めるまで待つことにする。
 隣を見てみれば子供と目が合った。子供は不思議そうに首を傾げ、あたしは目を逸らす。
 あたしと会話する気がないと諦めた子供たちは背を向けて、他と同じように河原で小さな塔を作り始める。
 手空きになると何をすればいいのかわからない。最近、退屈な時間というものがなかった。
 あたしの隣にはハクがいた。
 そのハクは胚羊水に入れなかった。単純に考えて拒絶されたんでしょうね。
 毎日のようにフライドチキンを強請ったり、興味あるものに目移りして騒いだり。うざがりながらもハクの相手をしていた。
 ハクがいない。それだけで胸が空いた。
 ぽっかりと空いたその感情に名前はつけなかった。
 カンダタの眠りは深いものになって起きようとしない。
 座り続けるのも飽きた。
 立ち上がって、地蔵の裏からでる。
 沢山の子供たちは石を探して歩き回り、拾った石で自分だけの塔を作る。
 遊んでいるようには見えなかった。真剣な眼差しで塔を崩さないよう慎重に積んでいる。
 それでいて、暗い影を落としていた。
 目と鼻がなければ眉もない。表情の変化は読みとりづらい。なのに、子供たちの仕草がどこか悲しげで、吐息は痛々しいほどに切ない。
 「何をしてるの?」
 身近な子供に近寄り、話しかけてみる。
 「石をつんでいる」
 「それは見ればわかるのよ」
 読解力の欠片もないわけ?と続けて言いそうになって慌てて口を噤む。
 泣かれるんじゃないかと怯えてしまう自分に呆れる。
 あたしは膝をついて、なるべく圧力のない言葉をかける。
 「石を積むの。楽しくもないのになんでやってるの?」
 「ばつだから」
 罰なのだとその子は言った。小さな身体に似合わない重々しい言葉だった。
 すると、周囲の子供たちがそれぞれ喋る。
 「かわはらとびょういんの子どもはね、流れちゃった子なの」
 「大人はね、ぼくたちにきたいしてたけどぼくたちはうらぎっちゃった」
 「でもね、だれのせいでもないんだよ」
 「流れちゃったのはしょうがないんだ」
 「石を積めば罰はなくなるの?」
 「変わらない。わたしたちはずっとばつを受けないと。ママとパパを泣かせたから」
 罰だと言い張るその行為が無意味にしか思えない。
 罰を受ける自分に哀れんで悦に浸っているみたい。
 それを口には出さなかった。
 責めたとしてもこの子たちは胚羊水からは出られない。弥が作った檻は闇底から脱出するのを許さない。
 深い闇底では罪を償えない。だから、子供たちは石を積む。それを罰として自分たちにかせる。
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