糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
416 / 644
4章 闇底で交わす小指

生命になれなかった子たち 4

しおりを挟む
 あたしは黙って子供たちを見ていた。
 川のせせらぎが冷たく聞こえて、石を積む音が悲しい静寂に響く。
 「瑠璃?」
 不意に呼ばれて、子供たちから目を逸らすと並んだ地蔵の合間からカンダタが顔を覗かせていた。
 「随分と長い休息だったわね」
 「迷惑かけた」
 「いつものことでしょ」
 眠っている間に怪我は治ったみたいで、立ち上がって歩いても支障はなかった。
 「病院にいた子とは違うとみたいだ」
 「あれでも色々と面倒よ」
 苦虫を噛んだような顔にカンダタは失笑する。
 「瑠璃も子供には手を焼くみたいだな」
 「嫌いなだけよ」
 あたしの心中を見透かしていると自信ありげなカンダタに腹を立たてる。なのに、素知らぬの顔であたしの横に並ぶ。
 「河原で石を積む子供、か」
 ポツリとカンダタが呟く。
 それからは河原の子供たちを眺めながら、あたしが得た情報をカンダタに話した。
 「清音は天鳥と一緒に行ったみたい。上流の更に上を目指してね」
 一通りのことを話し終えるとカンダタは頭に手を置き、長考する。
 「この状況を作ったのは蝶男だ」
 考えながら喋る。
 天鳥がいつ蝶男の手駒になったかは推測するのは後回しね。
 それよりも蝶男の目的と清音はなぜ天鳥について行ったのか。それらを考える必要がある。
 「蝶男が天鳥を使って清音を脅した。それが妥当よね」
 そのぐらいしか清音が大人しくついていく理由が浮かばない。
 「もしかしたら守られているのかもな」
 それをカンダタが否定する。
 「廃病院で襲われたのは瑠璃が生体を持っているからだ。それは清音も同じ」
 胚羊水に呑まれる前、天鳥が清音を牢から出した。次に2人を見たのは胚羊水が封印されていた襖の前。あの時、清音は怯えていた。
 多分、そこまでは脅されていた。
 廃病院の化物たちを目の当たりにしてから保守的な清音は自分を守ってくてる天鳥に縋るようになる。それが脅してきた相手だとしても。
 「天鳥が清音を守っているとして、どうするつもりなのかしら?」
 「どうするって」
 「守ってるのは清音を何かしらに利用するつもり、でしょ?」
 恐らく、それが蝶男の目的。
 何なのかはわからない。
 「行けばわかるだろ」
 天鳥と清音は川沿いを歩いて上流に向かった。だとしたら答えはそこにある。
 行き先が決まったなら留まる理由もない。河原の子供たちは黙々と石を積み上げる。
 「ここにいると気が滅入るわ」
 「そうだな」
 少しの間、沈黙を置いて返答した。
 塔を作って子供たちの手がピタリと止まった。ある方角を見据えている。
 1人の子供があたしの手を取る。死人の冷たい手に驚く。
 「おにが来るの。はさみで切られる前にかくれよ?」
 手を引く力は弱い。なのに、あたしは子供に導かれるままに、地蔵の裏で身を屈める。
 「安全じゃなかったの?」
 愚痴を零すと隣の子供が人差し指を口に当てる。
 地蔵の裏は窮屈で河原の子供たちは身を寄せ合う。余計なものが2人もいるせいで余計に狭そうだった。
 地蔵と地蔵の合間から河原の様子を伺う。地蔵と対面しているのは細波をたてる川。
 静かな細波が大きな波になって高く上がった。黒い波から巨大な蠍の鬼が砂利の地面に這って出た。
 廃病院にいたサイズとは比べものにならない。
 あそこにいたのは通路や階段を走り回れるぐらいのものだった。河原から現れたのは高さ5mを超えている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...