425 / 644
4章 闇底で交わす小指
生命になれなかった子たち 13
しおりを挟む
今すぐに身体を起こし、瑠璃の元へと向かわなければならないのに、清音から目が離せない。正確には清音が抱く赤子。
「本当はあの人を呼びたかったのにそれは駄目だって、蝶が言うから。お前なんかよりもあの人に会いたかった」
清音の声だが、口調は清音のものではない。
「お前は誰だ?俺を呼んでいたのはお前か?」
問うと清音の両手に抱えられた赤子がもぞもぞと動く。
「そんなこともわからないのか」
純粋な憎しみが込められていた。清音から発せられる別人の言葉は静かにそれでていて怒りの炎を抱く。
床の振動が大きくなった。子取りが「ママ、ママ」と泣きながら逃げる瑠璃を追いかける。
子取りから漏れる泥は裸体の女性に流れる。すると、泥は彼女を包みそして子取りの身体へと戻る。子取りが周囲のものを吸収している。
呑気に会話などしてはいられない。わかっているのに危機的状況よりも目の前の疑問を晴らしたかった。
清音が膝をつき、腕の中の赤子をカンダタに
見せる。
「お前のせいだよ」
再び言われたその台詞に強い衝撃を受けた。目眩がし、呼吸が浅くなる。
無垢な赤子とは程遠い。憎悪を滾らせ、顔を歪める。カンダタを仇として映す瞳の色は赤だった。カンダタと同じ瞳の色。
貝紫の泥が広がり、カンダタの脚に触れる。膝に熱が点る。肌が溶かされ、爛れる。
瑠璃が転び、子取りの手が彼女の胴体を握った。彼女の骨が軋む。
彼女の悲鳴よりもその赤子の真実に打ちのめされていた。
紅柘榴とカンダタの子が胚羊水にいる。胚羊水は胎児のまま死んだ魂が集められる場所。
お前のせいだよ。
責める言葉が反芻される。
「欲情にかられ無責任にできた結果がこれだよ」
清音の口を借りる赤子がカンダタを責める。
「たくさん鳴かせてどろどろに溶かして辱めて。ずいぶんと気持ち快かっただろうな。たかが一時の快感の為に」
あの時のあの行為に後悔はなかった。互いに満たされていた。決して一時の快感を満たすだけではない。家族が欲しかった。それを紅柘榴と築きたかった。それが間違いだった。
身籠っていたなどとカンダタが知れるはずがなかった。死んでいたのだから。
だとしても、これはあまりにも酷い。流産したのか死産したのか。それとも蝶男が何かしたのか定かではない。
身籠ったと知ったた時、死産または流産した時、紅柘榴は失った命に嘆き、悲痛に、孤独に、嘆いた。
なぜ、その時に傍にいられなかったのか。
カンダタと紅柘榴に抱かれるはずの赤子は他人である清音の腕にいる。その結果を招いたのはお前だと赤子が赤い瞳で睨む。
「俺は、どうすれば?」
不条理に押し潰されそうだ。手足から力が抜けていき、許しを乞うように問う。しかし、カンダタの子は更に憎悪を込めて言い放つ。
「どうしようもないよ。俺たちは蝶に従うしかないんだ」
言いたいことは全て言えたのか、清音では立ち上がると子取りや瑠璃、そしてカンダタに背を向けどこかへと歩き出す。
衝動的に取り返さないと、と思う。悲鳴を上げる瑠璃も助けに行かないととも思う。
しかし、足に力が入らない。混乱した頭では瑠璃の悲鳴も聞こえない。
はらり、とカンダタの頭や肩に粉がかかる。大広間の天井に亀裂が入っている。それは天井一面に広がり、深い溝を作り、瞬く間に天井は崩れた。
瓦礫と共に落ちてきたのは血の滝。決壊した天井から流れる血にカンダタは浸り、上がる水位さえも危機を感じなかった。
何も感じない。ただ、手で顔を覆い処理しきれない感情がカンダタを乱し、怒涛の展開する現状ですら頭に入ってこなかった。
「本当はあの人を呼びたかったのにそれは駄目だって、蝶が言うから。お前なんかよりもあの人に会いたかった」
清音の声だが、口調は清音のものではない。
「お前は誰だ?俺を呼んでいたのはお前か?」
問うと清音の両手に抱えられた赤子がもぞもぞと動く。
「そんなこともわからないのか」
純粋な憎しみが込められていた。清音から発せられる別人の言葉は静かにそれでていて怒りの炎を抱く。
床の振動が大きくなった。子取りが「ママ、ママ」と泣きながら逃げる瑠璃を追いかける。
子取りから漏れる泥は裸体の女性に流れる。すると、泥は彼女を包みそして子取りの身体へと戻る。子取りが周囲のものを吸収している。
呑気に会話などしてはいられない。わかっているのに危機的状況よりも目の前の疑問を晴らしたかった。
清音が膝をつき、腕の中の赤子をカンダタに
見せる。
「お前のせいだよ」
再び言われたその台詞に強い衝撃を受けた。目眩がし、呼吸が浅くなる。
無垢な赤子とは程遠い。憎悪を滾らせ、顔を歪める。カンダタを仇として映す瞳の色は赤だった。カンダタと同じ瞳の色。
貝紫の泥が広がり、カンダタの脚に触れる。膝に熱が点る。肌が溶かされ、爛れる。
瑠璃が転び、子取りの手が彼女の胴体を握った。彼女の骨が軋む。
彼女の悲鳴よりもその赤子の真実に打ちのめされていた。
紅柘榴とカンダタの子が胚羊水にいる。胚羊水は胎児のまま死んだ魂が集められる場所。
お前のせいだよ。
責める言葉が反芻される。
「欲情にかられ無責任にできた結果がこれだよ」
清音の口を借りる赤子がカンダタを責める。
「たくさん鳴かせてどろどろに溶かして辱めて。ずいぶんと気持ち快かっただろうな。たかが一時の快感の為に」
あの時のあの行為に後悔はなかった。互いに満たされていた。決して一時の快感を満たすだけではない。家族が欲しかった。それを紅柘榴と築きたかった。それが間違いだった。
身籠っていたなどとカンダタが知れるはずがなかった。死んでいたのだから。
だとしても、これはあまりにも酷い。流産したのか死産したのか。それとも蝶男が何かしたのか定かではない。
身籠ったと知ったた時、死産または流産した時、紅柘榴は失った命に嘆き、悲痛に、孤独に、嘆いた。
なぜ、その時に傍にいられなかったのか。
カンダタと紅柘榴に抱かれるはずの赤子は他人である清音の腕にいる。その結果を招いたのはお前だと赤子が赤い瞳で睨む。
「俺は、どうすれば?」
不条理に押し潰されそうだ。手足から力が抜けていき、許しを乞うように問う。しかし、カンダタの子は更に憎悪を込めて言い放つ。
「どうしようもないよ。俺たちは蝶に従うしかないんだ」
言いたいことは全て言えたのか、清音では立ち上がると子取りや瑠璃、そしてカンダタに背を向けどこかへと歩き出す。
衝動的に取り返さないと、と思う。悲鳴を上げる瑠璃も助けに行かないととも思う。
しかし、足に力が入らない。混乱した頭では瑠璃の悲鳴も聞こえない。
はらり、とカンダタの頭や肩に粉がかかる。大広間の天井に亀裂が入っている。それは天井一面に広がり、深い溝を作り、瞬く間に天井は崩れた。
瓦礫と共に落ちてきたのは血の滝。決壊した天井から流れる血にカンダタは浸り、上がる水位さえも危機を感じなかった。
何も感じない。ただ、手で顔を覆い処理しきれない感情がカンダタを乱し、怒涛の展開する現状ですら頭に入ってこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる