糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
424 / 644
4章 闇底で交わす小指

生命になれなかった子たち 12

しおりを挟む
 瑠璃が追いついたのはその時だった。大広間に着いた途端、目の前に転がってきたカンダタと秘密箱に驚愕する。
 「30、31、32、33」
 2人の様子を無視し、清音は数えながらながら仕掛けを解いていく。
 「起きれる?」
 一瞬の驚愕の後、瑠璃は訪ねた。カンダタは黙って頷き、身体を起こす。
 「35」
 「妙なカウントね。逃げたほうがよさそう」
 着いたばかりの瑠璃は状況が飲み込めていない。だが、清音の様子に彼女も焦燥を抱いた。
 「36」
 来た道を戻ろうと踵を返す。瑠璃の足が止まった。
 先程、くぐってきたはずの出入り口がなくなっている。瑠璃の前にあるのは冷たいコンクリートの壁だけだ。
 「37」
 「こっちだ」
 驚いている時間もない。カンダタが示したのは大広間の奥にある扉だ。
 カンダタと瑠璃は裸体の女性を超え、秘密箱の山を横切る。
 「38」
 呟く回数は秘密箱に仕掛けられた回数だった。全ての仕掛けが暴かれ、黒い箱の蓋が外れた。
 「あああああっ!」
 金切り声の悲鳴を上げたのは腹を裂かれ、屍となっていた裸体の女性たちであった。彼女たちのない泣き咽せる悲鳴が鍵であったかのように全ての秘密箱が一斉に開かれた。女性たちの悲鳴に耳が痛くなる。
 開かれた箱からは風が吹き荒れ、カンダタたちの行く先を拒む。
 立ち止まるしかなくなったカンダタは荒れ狂う風の中で清音の姿を見た。
 秘密箱の頂点に立つ清音。彼女の両腕には何かが抱かれている。その表情は慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
 カンダタを声がする。
 足止めされる強風の中、はっきりとした男の子の声でカンダタを呼ぶ。それは清音の方から聞こえた。
 ありえない。カンダタはその場の状況も忘れ、漠然とたち竦む。
 「カンダタ!」
 瑠璃の怒声で我に返る。風が止んだいたことにも気づかずにいた。その間に瑠璃は扉にたどり着いており、カンダタを凝視する。
 「後ろ!」
 怒声だと思われていた声を警告であり、凝視していたのはカンダタの背後にあるものだった。
 振り返り、背後にあるものを見上げた。
 間抜けなことに、この時になるまで自身に迫っていたそれに気付けなかった。
 カンダタの目前にいたのは大入道と言われるほど大きな赤子だった。
 赤黒い皮膚、鼻から上までが切断されている。切断面に盛られているのは無数の胎児の死屍。その隙間から貝紫色の泥が流れている。
 秘密箱から現れたのはこいつで、これが“子取り”なのだと悟る。
 一歩退がり、逃避の体勢をとったのも束の間、子取りが鳴き声を上げながら、カンダタよりも大きな手の平を振るう。
 子取りからしてみれば軽く払った程度だろう。それだけなのにカンダタは壁際まで飛ばされた。
 胸・腹は子取りの平手打ち、背中は壁に強打する。全身に走る衝撃に意識を失いかけた。
 激痛の余韻が残り、立ち上がれそうにない。すかさず、瑠璃が駆け寄ってくる。
 彼女の動きが子取りの視界に入り、カンダタから瑠璃へと移される。
 「マ、ママア」
 自分が狙われていると気付いた瑠璃は駆ける脚を止める。
 カンダタはすぐに起きれそうにない。子取りは瑠璃を標的と決めており、カンダタを抱えては逃げられない。
 瑠璃はカンダタに背を向け、ことりから逃げる。
 巨大な赤子が四つん這いで追う。膝と手が擦り合う度に床が振動する。
 振動の先では瑠璃がドアノブをひっきりなしに回す。しかし、扉は沈黙したままだ。
 床に手をついていたカンダタは痛む身体を起き上がらせようとする。
 「お前のせいだよ」
 頭上からカンダタを責める声を聞き、見上げる。
 そこには清音がいた。いつに間にかそこにいた清音の腕には大事に抱えられた赤子がいた。
 「お前なんか呼びたくなかった」
 責める声は清音から発せられていた。何を言われているのか、カンダタは怪訝に眉を顰める。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...