糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

望まなかったもの 1

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 見上げれば天井が見えない暗闇、見下げれば底なしの暗闇。暗闇を囲むのは書物がぎっしりと詰まった本棚。
 歴史・魂の情報・塊人の設計図などとハザマのデータが収集された書物庫に光弥たちは監禁された。
 弥は座敷牢に監禁するつもりだったらしいが、光弥が自ら書物庫を所望した。ハザマの地下を侵食した胚羊水を再び収束させる手掛かりを探すと自ら買ってでたのだ。
 「何を考えてる?」
 協力的な光弥にケイは疑問を抱く。
 「もし瑠璃たちが戻って来れても胚羊水はもう一度封印しなくちゃいけないだろう。大書物庫には封印した大昔の史実が残ってるはずだ」
 ケイが聞きたいのは光弥がわざわざ書物庫での探し物を名乗りでたかだ。光弥はケイの意図が読めてはいたが、答えるつもりがなかった。
 そんな光弥にケイは質問を重ねる。
 「コウヤはハザマ側か?」
 適当に笑って誤魔化せばいいものを光弥は険しく眉を寄せ、唇を一文字に結ぶ。
 弥、親父の命令は絶対であり、逆らえない。弥の補佐が光弥の存在理由であり、に組み込まれたプログラムだ。
 塊人であることに疑いもなかった。まさか、自分自身が瑠璃とカンダタと同種だなんて。
 振り返ればおかしな点がいくつもあった。「親に従順であること」プログラムされているはずが親父の目を盗んだり、嘘をついたり。
 光弥は塊人としても異質だったのだ。
 弥が生体から魂を抜きとった時、「菅井  光」は5歳だった。未熟な脳だと施せる魂のプログラムは限られてくる。なので、塊人の魂とあの子の魂を合体させて光弥が作られた。
 信じていた事実が偽りであったことに怒りはなかった。
 親父と対面すればその感情が湧いたり、心変わりでもするかと思ったがそんなこともなかった。
 変わったとすれば、「菅井  光」に会いに来る母親の姿が頭から離れない。
 眠り続けて聞こえもしないのに今日の出来事を話したり、愛おしく我が子の頭を撫でたりと彼女の仕草が慈愛そのものだ。それでいて底無しの悲しみに溺れている。
 いつしか彼女と話してみたいと思うようになっていた。しかし、「光弥」としては会いたくない。
 なぜ、こんな感情が生まれるのか光弥にも分かっていない。ただ、彼女に会いたくて中途半端な感情をぶら下げて病院に通った。
 ケイに「ハザマ側なのか?」と聞かれ、口を閉ざしたのは自分の中で生じた感情に戸惑いがあったからだ。
 胚羊水の封印方法を探す気はない。光弥が探したいのは「菅井  光」を「光弥」に改変された際の資料を見つける。それが目的だった。
 書物庫は面倒な造りになっている。ハザマの地下は改築され、データ化も進んでいるが、書物庫は保存されている情報が多すぎて未だデータ化されていない。
 検索機能もないので、足と目を使って探さなければならない。
 幅・高さ2mの本棚が縦横に並び、移動できるように梯子と木板の歩道が本棚に設置されている。上に登れば年代は新しく、下れば古くなる。
 胚羊水は弥が管理者として立った時に作られたものだからかなり降りないといけない。
 「別れて探そうか。ケイは下、俺は上ね」
 光弥の目的は胚羊水の封印ではないのでそれはケイに任せる。瑠璃やカンダタはそれなりに心配しているから用が済めばケイを手伝うつもりではいる。
 ケイは無表情で頷くと梯子を降りていく。
 感情が読みにくい彼は光弥の言動に疑っているのかどうかもわからない。
 そもそも、ケイはどちら側なのだろうか。
 ケイは影弥とかいう蝶男に似た塊人から作られた。ならば、創造主に従うはず。
 影弥は夢園で出会ったおびとと共にハザマで反乱を起こしたらしい。光弥が持っている情報はそのぐらいだ。
 親父と敵対しているのなら蝶男側なのか。いや、それはないだろう。ケイは蝶男を追い、実際に白い刀で彼の腕を斬った。
 ハザマ側でも蝶男側でもない。
 ケイは光弥にどちら側なのかと聞いてきたが、光弥からしてみればケイこそどちら側なのか聞きたくなった。
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