糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

望まなかったもの 8

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 あたしは耳を塞ぎたい欲を我慢してキケイの腕を撫でる。落ち着かせようにもあたしの声は泣き声で消されてしまう。
    どうしようかと悩んでいると呆けているカンダタと目が合った。あたしはカンダタを睨み、顎でキケイを指す。
 金縛りが解けたカンダタは目線の意味を読み取る。それでも半ば混乱しているみたいで、困惑しながらもあたしとは反対の腕を撫でる。
 あたしを絞め殺そうとした鋭い憎悪の眼光はなくなり、あたふたとキケイをあやす。
 しばらくするとキケイの泣き声は治って「喧嘩は嫌」嗚咽で更に悪くなった滑舌で訴える。
 「してないわよ。絞め殺されるかと思ったけど」
 「それは、悪かった」
 冷静になってくれたのか申し訳なさそうに伏せる。
 カンダタの熱が覚めると化け物を引き連れているあたしに対して疑問が強くなる。
 「ルッルルゥ」
 涙は引っ込んでも不安は消えないようであたしの小指を握ってくる。
 「るる?」
 「瑠璃って言えないのよ」
 簡単に答えても疑問は解消されない。
 「随分、懐かれてるな」
 あたしを見て、キケイを見て、最後にキケイが握るあたしの小指を見る。カンダタはこの状況に頭がついていけていない。
 「ウー」
 キケイは大きな身体をあたしの小さな背に隠して、カンダタを見つめる。
 「随分、怖がられているわね」
 カンダタへの第一印象は最悪だ。怒鳴り、首を締める。それらの行為は「恐い男」と認識するには十分な要素だった。
 カンダタはばつが悪そうに目を泳がせる。
 そして、あたしに顔を向けずに告げてきた。
 「同じ覚悟と言ってくれたこと、心強かった」
 照れ臭く、それでいて芯が通った嘘のない声色。
 「そう」
 あたしが短く答える。
 正直に言うと、あれは衝動的に出た言葉だった。生半可なあたしから生じた生半可な言葉。
 「なら、良かった」
 生半可だったとしても軽い一言で済ませる気はなかった。
 その後、あたしたちは話し合って次の行動を決めた。
 目的は変わらず、十如十廻之白御霊の奪還と清音救出。清音は胚羊水に呑まれたから救出できる可能性は低くなった。
 それと、カンダタの子について。他の胎児たちと同じ障害物として捉えるようにとあたしは指示した。
 紅柘榴が妊娠し、その子は死んでいた。それはすぐに受け入れられず、完結できない感情。もう一度、対面したとしてもカンダタは困惑する。
 そうなる前にルールとして決めておく。
 カンダタもそれを理解しているようで、けれど頷く顔に暗い影を落とす。了承しても、心が追いつかないとあたしも理解している。
 まずは清音を見つけ、彼女が抱える赤子を取り上げ、呑まれた精神を取り戻す。白糸の能力でそれができるかわからないけれど、やれるだけのことはする。
 あと、天鳥についても話し合った。
 胚羊水に入ってから彼女の姿を見ていない。
 あたしたちは清音を脅して一緒に行動しているものだと推測していた。実際に見つかったのは清音だけ。
 発見した時、すでに清音は赤子に乗っ取られた状態だった。清音が呑まれた際に天鳥とは別行動になっていたとあたしたちは考える。
 天鳥は蝶男の手駒。何もしていないとは思えない。
 蝶男の目的はカンダタの子の回収。清音を利用して、それを達成している。だとしたら、子供は清音から天鳥に渡されるはず。
 あたしたちが見つけるのが先か、天鳥が清音と接触するのが先か。
 見つけたとしてもすんなりと清音を救出できるとは考えていない。天鳥は何か仕掛けてくる。
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