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4章 闇底で交わす小指
決断 10
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踊り場から落ちるあたしの腰を誰かが掴み、強く引かれた。視界の端で子取りと蠍の鬼が落ちていくのを見て、あたしと清音は再び階段の踊り場に戻された。
間一髪のところであたしたちを助けたのはカンダタだった。
鬼の背にしがみついていたカンダタは壺が破裂したのと同時に踊り場へと着地し、あたしたちを抱き寄せた。
「遅い」
踊り場に転がって、カンダタに文句を言う。あんなことがあっても清音は目を覚さない。
「無茶言うな」
これでも急いでくれたようで、カンダタは肩で息をしていた。息を整えながらあたしの代わりに清音を背負う。
「走れるか?」
「当然」
即答して、口調を強めてもふらつく身体では説得力がない。
体力が限界でも満身創痍でも休んでいられない。
踊り場が揺れる。階段下の湖では大蛇と蠍の鬼の乱闘が開始されている。その中で子取りがもがき、湖から脱出しようとする。
あたしたちは赤の青の螺旋階段を降りきる。カンダタが清音を背負ってくれているから、その分身体は楽になった。けれど、脚は重いまま。
長い階段を降り切ってボロい橋を渡りはじめる。
湖では鬼と大蛇の乱闘が激しくなり、大きな波を作っている。
ボロい橋を慎重に進んでいくと大蛇の頭が柱に激突し、その振動が行く先を妨げる。
こんな乱闘の最中、橋を渡るのは無謀のように思えた。だからと言ってモタモタすれば橋が壊れそう。
揺れる橋に苦戦しながらも進む。橋の終盤まで来て、湖を見渡す。そこで子取りと目が合った。
恐慌するむ湖に投げられた子取りは縋る人物を探し、あたしを見つけた。その叫び声は歓喜しているようにも聞こえるし、怒っているようにも聞こえる。
そんな子取りの声に反応したのか一部の大蛇が岸まで押し流す。
あたしたちが橋を渡り切るのと子取りが岸に着いたのは同時だった。
揺れることのない安定した地に着き、子取りの位置を確認しつつ、上流の下り坂をかける。
子取りとの距離は保っていたのに大粒の岩が敷き詰められた下り坂のせいで歩調が覚束ない。
重量のある子取りは下り坂を転がってくる。匍匐で降りるよりも転がったほうが速い。
そうなるとあたしたちが追い詰められる。
一定の距離を保つのでさえ、限界が近いのにこれ以上速く走れない。
子取りが迫り、地面の小石が弾ける。飛んでくる小石があたしの頭を掠めて、近くまで迫っているのだと知らせる。
どこまで近くなっているのか、蠍の鬼や大蛇は迫っているのかと確認したかったけれど、振り返る時間も惜しい。
ついにあたしの足がもつれ、砂利の上で転倒する。
カンダタが怒鳴っている。「速く」とか「起きろ」とか言っているのかもしれない。
ちゃんと聞こえないのは転倒した焦りと疲労困憊によって意識は朦朧としていたから。
すぐに立ち上がろうとしているのにあたしの焦りとは裏腹に身体はゆっくりとした鉛のような動きをする。
あたしの身体だけでなく、カンダタの怒声や子取りが飛ばす小石、川の流れ、周囲のもの全てがスローモーションで時間が流れる。
全ての音が遠ざかり、静寂に包まれる感覚を知る。
立ち上がりかけたあたしの脚は再び膝をつく。カンダタが近づいて、腕を引っ張るも意識が半分閉ざしたあたしは立ち上がれそうにない。
間一髪のところであたしたちを助けたのはカンダタだった。
鬼の背にしがみついていたカンダタは壺が破裂したのと同時に踊り場へと着地し、あたしたちを抱き寄せた。
「遅い」
踊り場に転がって、カンダタに文句を言う。あんなことがあっても清音は目を覚さない。
「無茶言うな」
これでも急いでくれたようで、カンダタは肩で息をしていた。息を整えながらあたしの代わりに清音を背負う。
「走れるか?」
「当然」
即答して、口調を強めてもふらつく身体では説得力がない。
体力が限界でも満身創痍でも休んでいられない。
踊り場が揺れる。階段下の湖では大蛇と蠍の鬼の乱闘が開始されている。その中で子取りがもがき、湖から脱出しようとする。
あたしたちは赤の青の螺旋階段を降りきる。カンダタが清音を背負ってくれているから、その分身体は楽になった。けれど、脚は重いまま。
長い階段を降り切ってボロい橋を渡りはじめる。
湖では鬼と大蛇の乱闘が激しくなり、大きな波を作っている。
ボロい橋を慎重に進んでいくと大蛇の頭が柱に激突し、その振動が行く先を妨げる。
こんな乱闘の最中、橋を渡るのは無謀のように思えた。だからと言ってモタモタすれば橋が壊れそう。
揺れる橋に苦戦しながらも進む。橋の終盤まで来て、湖を見渡す。そこで子取りと目が合った。
恐慌するむ湖に投げられた子取りは縋る人物を探し、あたしを見つけた。その叫び声は歓喜しているようにも聞こえるし、怒っているようにも聞こえる。
そんな子取りの声に反応したのか一部の大蛇が岸まで押し流す。
あたしたちが橋を渡り切るのと子取りが岸に着いたのは同時だった。
揺れることのない安定した地に着き、子取りの位置を確認しつつ、上流の下り坂をかける。
子取りとの距離は保っていたのに大粒の岩が敷き詰められた下り坂のせいで歩調が覚束ない。
重量のある子取りは下り坂を転がってくる。匍匐で降りるよりも転がったほうが速い。
そうなるとあたしたちが追い詰められる。
一定の距離を保つのでさえ、限界が近いのにこれ以上速く走れない。
子取りが迫り、地面の小石が弾ける。飛んでくる小石があたしの頭を掠めて、近くまで迫っているのだと知らせる。
どこまで近くなっているのか、蠍の鬼や大蛇は迫っているのかと確認したかったけれど、振り返る時間も惜しい。
ついにあたしの足がもつれ、砂利の上で転倒する。
カンダタが怒鳴っている。「速く」とか「起きろ」とか言っているのかもしれない。
ちゃんと聞こえないのは転倒した焦りと疲労困憊によって意識は朦朧としていたから。
すぐに立ち上がろうとしているのにあたしの焦りとは裏腹に身体はゆっくりとした鉛のような動きをする。
あたしの身体だけでなく、カンダタの怒声や子取りが飛ばす小石、川の流れ、周囲のもの全てがスローモーションで時間が流れる。
全ての音が遠ざかり、静寂に包まれる感覚を知る。
立ち上がりかけたあたしの脚は再び膝をつく。カンダタが近づいて、腕を引っ張るも意識が半分閉ざしたあたしは立ち上がれそうにない。
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