452 / 644
4章 闇底で交わす小指
交わす小指 1
しおりを挟む
洪水に呑まれても羊水はあたしを優しく包んだ。
最後に幻覚でも見せられるのかと身構えていたのに、その気配はない。
胎動もない完璧な静寂がそこにはあった。目を開けても暗闇しか映っていなかった。
羊水に漂い、ぼんやりと闇底を眺めていると薄らと影が浮かぶ。
裸体の女性があたしを見ていた。彼女に抱えられていた黒い箱がない。身が軽くなった彼女は寂しげに笑っていた。
彼女の笑みに見送られて、あたしは羊水から引き摺り出された。
あたしを引き上げたのはハクだった。
近くには清音を背負ったカンダタがいる。それ以外に人影はいない。
なんだか騒がしい気がする。あたしの身体は階段で横たわり、傘だった十手は刃渡り15cmのサバイバルナイフに変わっていた。
カンダタも引き上げられたばかりのあたしを見ずに、その後ろにあるものを凝視している様だった。
そんなことよりもあたしは白い隣人に安心感を覚えていた。
「ハク、少しだけ離れただけなのに懐かしいわね」
あたしが綻ぶとハクは眉を垂らす。戻ってきたのを喜んでいるようにも見えて、隣にいられなかったのを悔やんでいるようにも見える。
「戻ってきたんだから、もっと喜びなさいよ」
「寝惚けるな瑠璃!」
カンダタの怒鳴り声が耳を劈く。
階段が大きく揺れ、あたしの意識はハクから階段下に向けられた。
あたしたちは階段の上段まで避難していた。階段下には子取りがこちらに向かって這い上がろうとしている。
ハザマの通路や階段は子取りが通るには狭すぎて、腕ぐらいしか入れない。
子取りは聞き分けの悪い子供の唸り声を上げて、壁を壊してでも通ろうとする。その腕と階段の隙間から紫の泥が流れている。
乱闘を思わせる地響きと金属と牙がぶつかり合う甲高い騒音、そして塊人たちの逃げ惑う阿鼻叫喚が聞こえてくる。
子取りが通路を塞いでいるから状況が読めなかったけれど、下の階は酷く荒れているみたい。
多くの塊人は退路を断たれて、下の階の乱闘に巻き込まれていた。
「急げ!ここも危ない!」
カンダタがあたしの腕を強く引く。
危惧した通り、天井は軋んで粉が降り、壁や階段は亀裂が広がる。
あたしは起き上がり、段差を上がる。その後ろで階段と壁が崩れ、コンクリートの粉が周囲に舞う。濃霧に似た粉塵が広がる。
この粉塵に巻き込まれる前に階段を上りきる。走る速度を上げて通路を進む。
あたしたちが逃げるその先で弥と部下たち、部下に拘束された光弥とケイが騒ぎを聞きつけて来た。
「何事だ!」
胚羊水から戻って来たあたしたちに弥は驚きつつも騒ぎの原因を問いただそうとする。
その原因を知っているあたしたちはそれに答えられる暇はない。
切迫詰まったあたしとカンダタの表情に弥たちは疑問符が浮かぶ。
すると、あたしたちの背後で通路の壁が積み木みたく脆く崩れ、瓦礫と粉塵から子取りの頭が垣間見える。
それだけでも唖然となってしまうのに、ハザマを襲撃しているのは子取りだけじゃない。
床を崩壊させて現れた蠍の鬼が子取りを追い、地下であることも構わずに暴れる。
弥をはじめとした塊人が胚羊水から解放されたものたちを目の当たりにし、言葉を失う。
光弥とケイの腕を掴んでいた部下も握力が緩んでいった。
彼らの横をあたしたちは通り過ぎ、その際に光弥の腕を掴む。すると、ケイもあたしたちについて行く。
最後に幻覚でも見せられるのかと身構えていたのに、その気配はない。
胎動もない完璧な静寂がそこにはあった。目を開けても暗闇しか映っていなかった。
羊水に漂い、ぼんやりと闇底を眺めていると薄らと影が浮かぶ。
裸体の女性があたしを見ていた。彼女に抱えられていた黒い箱がない。身が軽くなった彼女は寂しげに笑っていた。
彼女の笑みに見送られて、あたしは羊水から引き摺り出された。
あたしを引き上げたのはハクだった。
近くには清音を背負ったカンダタがいる。それ以外に人影はいない。
なんだか騒がしい気がする。あたしの身体は階段で横たわり、傘だった十手は刃渡り15cmのサバイバルナイフに変わっていた。
カンダタも引き上げられたばかりのあたしを見ずに、その後ろにあるものを凝視している様だった。
そんなことよりもあたしは白い隣人に安心感を覚えていた。
「ハク、少しだけ離れただけなのに懐かしいわね」
あたしが綻ぶとハクは眉を垂らす。戻ってきたのを喜んでいるようにも見えて、隣にいられなかったのを悔やんでいるようにも見える。
「戻ってきたんだから、もっと喜びなさいよ」
「寝惚けるな瑠璃!」
カンダタの怒鳴り声が耳を劈く。
階段が大きく揺れ、あたしの意識はハクから階段下に向けられた。
あたしたちは階段の上段まで避難していた。階段下には子取りがこちらに向かって這い上がろうとしている。
ハザマの通路や階段は子取りが通るには狭すぎて、腕ぐらいしか入れない。
子取りは聞き分けの悪い子供の唸り声を上げて、壁を壊してでも通ろうとする。その腕と階段の隙間から紫の泥が流れている。
乱闘を思わせる地響きと金属と牙がぶつかり合う甲高い騒音、そして塊人たちの逃げ惑う阿鼻叫喚が聞こえてくる。
子取りが通路を塞いでいるから状況が読めなかったけれど、下の階は酷く荒れているみたい。
多くの塊人は退路を断たれて、下の階の乱闘に巻き込まれていた。
「急げ!ここも危ない!」
カンダタがあたしの腕を強く引く。
危惧した通り、天井は軋んで粉が降り、壁や階段は亀裂が広がる。
あたしは起き上がり、段差を上がる。その後ろで階段と壁が崩れ、コンクリートの粉が周囲に舞う。濃霧に似た粉塵が広がる。
この粉塵に巻き込まれる前に階段を上りきる。走る速度を上げて通路を進む。
あたしたちが逃げるその先で弥と部下たち、部下に拘束された光弥とケイが騒ぎを聞きつけて来た。
「何事だ!」
胚羊水から戻って来たあたしたちに弥は驚きつつも騒ぎの原因を問いただそうとする。
その原因を知っているあたしたちはそれに答えられる暇はない。
切迫詰まったあたしとカンダタの表情に弥たちは疑問符が浮かぶ。
すると、あたしたちの背後で通路の壁が積み木みたく脆く崩れ、瓦礫と粉塵から子取りの頭が垣間見える。
それだけでも唖然となってしまうのに、ハザマを襲撃しているのは子取りだけじゃない。
床を崩壊させて現れた蠍の鬼が子取りを追い、地下であることも構わずに暴れる。
弥をはじめとした塊人が胚羊水から解放されたものたちを目の当たりにし、言葉を失う。
光弥とケイの腕を掴んでいた部下も握力が緩んでいった。
彼らの横をあたしたちは通り過ぎ、その際に光弥の腕を掴む。すると、ケイもあたしたちについて行く。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる