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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
絡まる思慕 4
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痛みが治まらない重い頭を下げ、苦悶をする。座ればそれなりに気分が紛れるだろうにそれすらしない。それほどまでに意固地になる意味がわからなかった。
瑠璃が悟っている通り、カンダタには焦りがある。彼女との間に子供。カンダタの焦燥はそこから来ていた。
しかし、カンダタの焦燥は瑠璃に関わりがないものだ。
「それよりもカンダタに」
「カンダタさんっ!瑠璃っ!」
瑠璃が言いかけたところで呼びかけられ振り向く。いつの間にかケイと光弥が来ており、その道中で目覚めた清音が涙目になってこちらを見つめていた。
清音は根に刺されたりはしていないようで、体調の変化は見当たらない。顔色の悪い瑠璃を心配する余裕もある。
潤んだ瞳に涙を流し、カンダタを横切って瑠璃へと駆け寄る。走った勢いのまま瑠璃に抱きついた。自分を支えるのに精一杯の瑠璃は危うく倒れそうになるのをなんとか踏ん張り堪える。
「ごめんね瑠璃。あんなに怒るなんて思わなかったの」
「口喧嘩でもしたの?」
光弥が尋ねると清音が頷き「くだらないことで」と短く返した。
「瑠璃が根に刺されたんだ」
半ば無理やりに瑠璃と清音を引き剥がし、光弥に告げる。
「どこに刺されたの?」
「別に、平気よ」
「右脚だ」
瑠璃の刺創は小さい為、すでに血は止まっていた。皮膚の変色は今のところない。
「毒か?」
「いや、根っこが内側に侵入するんだ。すぐに抜いた?」
カンダタは頷く。
「体内に根っこが身体に入ると厄介で残っていたらヤバいけど、傷も小さいし、大丈夫じゃないか?」
「だから言ってるじゃない」
瑠璃はうんざりとした様子で愚痴り、肩を竦める。
「でも顔色悪そうだよ」
清音の台詞に瑠璃は彼女を睨み黙らせる。清音が抱きついていたので仲が良くなったのかと密かに驚いていたが、瑠璃はそう思っていないようだ。
「もし、根が残ってたら?」
「見た目の変化はないよ。問題なのは中身さ。猜疑心が強くなって、最終的には幻聴・幻覚症状が出て、それに従うようになるし、それ以外は信用できないから他人に対して攻撃的になる」
「今の心境は?」
尋ねてみると瑠璃は忌々しくカンダタを睨み答える。
「頭痛がするだけ。動けるわ」
強情になった瑠璃はここで休憩はしたくないようだ。
苦痛を隠し、強がる態度に困惑しながらも瑠璃の要求を飲んだのはカンダタに積もる焦りからだった。
「あたしのことはいいのよ。今はここはどこなのか知りたい」
瑠璃は未だに現状を掴めずにいた。
それもそうだ。エレベーターが不時着した時、瑠璃は気絶していた。第4層に行くはずが第7層にいるのだ。
カンダタとケイはこれまでの出来事なるべく簡潔に話した。
「その鏡なら私たち見たかもしれない」
光弥が次の層に行くための手段を説明したところで清音が声を弾ませ、瑠璃に確認するよう視線を送る。瑠璃は頷いただけだった。
「なら早くいないと。鏡は同じ場所には留まらない。移動するんだ」
「それで帰れるのよね?」
期待に胸を膨らませていると光弥が裏切って首を振る。
「あの鏡は大昔に使われていたものなんだ。エレベーターが作られてからは使われなくなったし、鏡で行けるのは一つ上の層までだ」
「そこからは?」
傷心し、閉口した清音の代わりに瑠璃が質問を重ねる。
「ほかの層にも鏡があるはずだから上の窓で鏡を探していく。それしかない」
次に瑠璃が嘆息し、閉口する。
「第7、6、5と経由していくしかないね」
「ちょっと待って。ここが第7?」
何か疑問に思ったのか瑠璃はそんなことを光弥に投げかける。
「そうだよ。さっきからそう言ってる」
眉を顰め、訝しんだ瑠璃だったが、納得したのか「そう」と言葉を溢しただけであとは何も言わなくなる。
「鏡は隣の部屋にあったんだろう。消える前に行くぞ」
カンダタが仕切ってみたものの、視線は瑠璃の様子を伺っていた。
立ててはいる。歩行もできる。頭痛は少し和らいでいるようだが、眉間の皺は未だ解かれていない。それに先程から瑠璃の訝しんでいるような言動が引っかかる。
カンダタの視線に気が付いた瑠璃は心配を跳ね飛ばすようにこちらを睨んでくる。怒気のある彼女の視線には「しつこい」と言葉が含まれていた。
瑠璃が視線を逸らし、カンダタを横切ると先頭に立って歩く。少し頼もしくない足取りだ。
光弥もケイも瑠璃の不調に気が付いているが、口に出さない。本人は大丈夫だと言い切っているのだから淡白な彼らはこの話を広げるつもりはないらしい。
そういうカンダタも口だけは心配を装い、先に進むと選択した瑠璃に安心していた。
瑠璃が悟っている通り、カンダタには焦りがある。彼女との間に子供。カンダタの焦燥はそこから来ていた。
しかし、カンダタの焦燥は瑠璃に関わりがないものだ。
「それよりもカンダタに」
「カンダタさんっ!瑠璃っ!」
瑠璃が言いかけたところで呼びかけられ振り向く。いつの間にかケイと光弥が来ており、その道中で目覚めた清音が涙目になってこちらを見つめていた。
清音は根に刺されたりはしていないようで、体調の変化は見当たらない。顔色の悪い瑠璃を心配する余裕もある。
潤んだ瞳に涙を流し、カンダタを横切って瑠璃へと駆け寄る。走った勢いのまま瑠璃に抱きついた。自分を支えるのに精一杯の瑠璃は危うく倒れそうになるのをなんとか踏ん張り堪える。
「ごめんね瑠璃。あんなに怒るなんて思わなかったの」
「口喧嘩でもしたの?」
光弥が尋ねると清音が頷き「くだらないことで」と短く返した。
「瑠璃が根に刺されたんだ」
半ば無理やりに瑠璃と清音を引き剥がし、光弥に告げる。
「どこに刺されたの?」
「別に、平気よ」
「右脚だ」
瑠璃の刺創は小さい為、すでに血は止まっていた。皮膚の変色は今のところない。
「毒か?」
「いや、根っこが内側に侵入するんだ。すぐに抜いた?」
カンダタは頷く。
「体内に根っこが身体に入ると厄介で残っていたらヤバいけど、傷も小さいし、大丈夫じゃないか?」
「だから言ってるじゃない」
瑠璃はうんざりとした様子で愚痴り、肩を竦める。
「でも顔色悪そうだよ」
清音の台詞に瑠璃は彼女を睨み黙らせる。清音が抱きついていたので仲が良くなったのかと密かに驚いていたが、瑠璃はそう思っていないようだ。
「もし、根が残ってたら?」
「見た目の変化はないよ。問題なのは中身さ。猜疑心が強くなって、最終的には幻聴・幻覚症状が出て、それに従うようになるし、それ以外は信用できないから他人に対して攻撃的になる」
「今の心境は?」
尋ねてみると瑠璃は忌々しくカンダタを睨み答える。
「頭痛がするだけ。動けるわ」
強情になった瑠璃はここで休憩はしたくないようだ。
苦痛を隠し、強がる態度に困惑しながらも瑠璃の要求を飲んだのはカンダタに積もる焦りからだった。
「あたしのことはいいのよ。今はここはどこなのか知りたい」
瑠璃は未だに現状を掴めずにいた。
それもそうだ。エレベーターが不時着した時、瑠璃は気絶していた。第4層に行くはずが第7層にいるのだ。
カンダタとケイはこれまでの出来事なるべく簡潔に話した。
「その鏡なら私たち見たかもしれない」
光弥が次の層に行くための手段を説明したところで清音が声を弾ませ、瑠璃に確認するよう視線を送る。瑠璃は頷いただけだった。
「なら早くいないと。鏡は同じ場所には留まらない。移動するんだ」
「それで帰れるのよね?」
期待に胸を膨らませていると光弥が裏切って首を振る。
「あの鏡は大昔に使われていたものなんだ。エレベーターが作られてからは使われなくなったし、鏡で行けるのは一つ上の層までだ」
「そこからは?」
傷心し、閉口した清音の代わりに瑠璃が質問を重ねる。
「ほかの層にも鏡があるはずだから上の窓で鏡を探していく。それしかない」
次に瑠璃が嘆息し、閉口する。
「第7、6、5と経由していくしかないね」
「ちょっと待って。ここが第7?」
何か疑問に思ったのか瑠璃はそんなことを光弥に投げかける。
「そうだよ。さっきからそう言ってる」
眉を顰め、訝しんだ瑠璃だったが、納得したのか「そう」と言葉を溢しただけであとは何も言わなくなる。
「鏡は隣の部屋にあったんだろう。消える前に行くぞ」
カンダタが仕切ってみたものの、視線は瑠璃の様子を伺っていた。
立ててはいる。歩行もできる。頭痛は少し和らいでいるようだが、眉間の皺は未だ解かれていない。それに先程から瑠璃の訝しんでいるような言動が引っかかる。
カンダタの視線に気が付いた瑠璃は心配を跳ね飛ばすようにこちらを睨んでくる。怒気のある彼女の視線には「しつこい」と言葉が含まれていた。
瑠璃が視線を逸らし、カンダタを横切ると先頭に立って歩く。少し頼もしくない足取りだ。
光弥もケイも瑠璃の不調に気が付いているが、口に出さない。本人は大丈夫だと言い切っているのだから淡白な彼らはこの話を広げるつもりはないらしい。
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