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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
絡まる思慕 5
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瑠璃、光弥、ケイが歩いて行く背中を眺めながらカンダタもあとに続く。
「カンダタさん」
清音が袖の端を控えめ引っ張り、カンダタは振り返る。上目遣いにこちらを見つめる清音は怯えているようだった。
「瑠璃のことなんですけど、なんだか、変で」
躊躇いながらそう切り出す。
「頭痛のせいだろ」
「そうじゃなくて。なんて言えばいいのかな」
自分が持つ違和感を気を寝られる表現しようと試みているが、うまくいかない。「うーん」と首を傾ける。そのゆっくりとした様に僅かな苛立ちを覚えた。こうしている間に後を気にしない瑠璃たちは進んでいるのだ。
「機嫌が悪いんです」
「いつもだろ」
常に機嫌の悪い瑠璃がいつも以上に悪いとなれば、それこそ頭痛のせいだ。
「えっとですね、鏡を見つけた時、鏡を見た途端瑠璃が豹変したんです」
「どういう風に?」
「奇妙な鏡となって、私が最初に見つけて。その後に瑠璃が気がついて、しばらく鏡の中の自分と見つめ合っていたんです。そうしたら急に瑠璃が掴みかかってきて」
性格と口が悪い瑠璃だが、理不尽に暴力を振るうだろうか。そう考え、身に覚えがある出来事をいくつか思い出し、否定できない。
理不尽だと思える暴力には彼女なりの理由があるのだと信じ、清音の話を聞く。
「あの時の別人みたいで。それで怖くなって逃げたんです。でも途中で捕まって」
「それで2人して落ちたのか」
カンダタが言うと清音は神妙に頷いた。
「けど、瑠璃は別人になっていない。清音にも手を出していないしな」
「はい。元の瑠璃に戻っていて、それで安心してつい抱きついたんです」
清音の話に矛盾した点はない。カンダタが懸念している可能性を尋ねてみる。
「苔の玉に落ちた時、怪我はしたか?」
関係のない話に清音は不思議に驚くも「ないです」と答え、その後に自身の身体をまさぐりながら回る。夢見草の根に刺された痕はない。
清音は正常だ。彼女の猜疑心は夢見草の毒から生まれたわけではなさそうだ。
「わかった。ひとまず行こう」
清音が話したことは念頭に置いておくとして、瑠璃たちとは距離が空いている。置いていかれると清音を急かした。
管を伝い、肥溜めの部屋を出て隣の部屋へと移る。そこは鬼の餌場になっていた。
眼下で犇く鬼たちの饗宴は眺めるだけでも身が縮まりそうになる。瑠璃たちが鏡を発見したと言っていた場所まで来てみたものの、目的のものはすでになくなっていた。
「まぁ、ここまで来るのに時間かかったしな」
嘆息した光弥であったが、こうなると予想していたのだろう。
「次に出現するのはいつかわかるか?」
「さぁ?大昔のデータは頭にないから。場所も知らない」
「二手に分かれます?」
清音の提案は賛成できかねた。二手に分かれれば早いかもしれないが、カンダタたちには連絡手段がない。落ち合う場所を決めたとしても、待っている間に鏡は移動をする。
「わかれないほうが面倒が少ないと思うけどな」
光弥もカンダタと同じ考えのようだ。
「あぁ、そういえば」
徐ろに瑠璃が取り出したのは二台の液晶板。スマートフォンと呼ばれているものだ。瑠璃の生活で連絡手段として使用しているものだとカンダタは記憶している。
しかし、瑠璃が普段使っているものとは見た目が異なる。そもそも現代の物はこちら側には持っていけないはずだ。
「それは?」
「十手よ。2つともね。こっちに来る前に形が変わっててたのよ」
「何でもありだな」
何にでも形を変えられる十手十廻之白御霊は分裂するのも可能らしい。都合の良さにカンダタは苦笑うを浮かべる。
「けれど」
瑠璃はどこか納得できないように言葉を詰まらせた。
「どうした?」
問いかけてみるも何でもないように瑠璃が首を振る。
「ちょっとしたことよ。あとで話すわ」
気になる言い方をされた。瑠璃はそれ以上話すつもりはなく、それから口を閉ざす。
「ま、これがあれば別れても問題なさそうだな」
「なら、カンダタさんと行く」
振り分けの話になると清音が第一声を上げた。カンダタとしては断りたいところだ。清音の声には下心が見え透いていたが、断り文句が浮かばない。
清音がカンダタと行くとなればそれについて行きたくなるのが飼われている側の性と言うもので、ケイは自然と清音に続こうとした。
「ケイは光弥についてあげて」
そうしたケイの意思を両断する清音。彼女の言動に不信感を抱くが、見守ることにする。
逡巡しているようなケイは今も感情を表さない。それでも清音といたいというのは他人でもわかる。
「それでもいいでしょ?光弥だって安心するし」
ケイの反論を言わせないと清音が僅かに声を張って言った。
光弥も否定しなかった。確かにケイが隣いれば心強い。光弥が納得するのも頷ける。納得できないのはカンダタだけでありなんとかできないかと瑠璃に振ってみる。
「瑠璃はどうする?」
「あ、た、しは」
頼みの瑠璃は頭痛に悩まされていた。強い波がきているようでカンダタの問いにも答えるのが辛そうだ。
瑠璃は眉間に皺を寄せ、冷や汗を流す。目を眇め、ケイと清音を交互に見るとその後にカンダタと目を合わせる。訴えかけているような目線だった。
「瑠璃はこっちに来るでしょ」
答えを出さずにいたので、清音がしびれを切らして言い放つ。カンダタから目を離し、清音に目線を向ける。
しばらくの間、考えた素振りを見せると瑠璃は気乗りしない顔で頷く。
「清音はケイと共に行くべきじゃないか?」
カンダタなりの断り文句だった。何とか穏便に清音から離れられないか思案していた。
ケイがこちらにくれば、光弥は一人になる。そこにカンダタが行くと発言すればいい。
「いや、カンダタよりもケイのほうが頼れるし」
無情にもカンダタの思いを光弥が両断した。
「ケイは私がいなくても大丈夫ですよ」
付け足すように清音が言えば、こちらは何も返せなくなる。
「もしかして、私では役不足ですか?」
カンダタの思惑を察したのだろう。心底傷ついたと嘆く瞳が涙で潤み、カンダタを見上げてくる。こういう時、強く言えない自分が恨めしい。
清音がカンダタに恋心を抱いているのは気づいている。だからこそ困るのだ。どんなに強い想いを抱いてもカンダタは応えられない。
こういう時こそ、瑠璃の出番だと助けを求める。
「カンダタさん」
清音が袖の端を控えめ引っ張り、カンダタは振り返る。上目遣いにこちらを見つめる清音は怯えているようだった。
「瑠璃のことなんですけど、なんだか、変で」
躊躇いながらそう切り出す。
「頭痛のせいだろ」
「そうじゃなくて。なんて言えばいいのかな」
自分が持つ違和感を気を寝られる表現しようと試みているが、うまくいかない。「うーん」と首を傾ける。そのゆっくりとした様に僅かな苛立ちを覚えた。こうしている間に後を気にしない瑠璃たちは進んでいるのだ。
「機嫌が悪いんです」
「いつもだろ」
常に機嫌の悪い瑠璃がいつも以上に悪いとなれば、それこそ頭痛のせいだ。
「えっとですね、鏡を見つけた時、鏡を見た途端瑠璃が豹変したんです」
「どういう風に?」
「奇妙な鏡となって、私が最初に見つけて。その後に瑠璃が気がついて、しばらく鏡の中の自分と見つめ合っていたんです。そうしたら急に瑠璃が掴みかかってきて」
性格と口が悪い瑠璃だが、理不尽に暴力を振るうだろうか。そう考え、身に覚えがある出来事をいくつか思い出し、否定できない。
理不尽だと思える暴力には彼女なりの理由があるのだと信じ、清音の話を聞く。
「あの時の別人みたいで。それで怖くなって逃げたんです。でも途中で捕まって」
「それで2人して落ちたのか」
カンダタが言うと清音は神妙に頷いた。
「けど、瑠璃は別人になっていない。清音にも手を出していないしな」
「はい。元の瑠璃に戻っていて、それで安心してつい抱きついたんです」
清音の話に矛盾した点はない。カンダタが懸念している可能性を尋ねてみる。
「苔の玉に落ちた時、怪我はしたか?」
関係のない話に清音は不思議に驚くも「ないです」と答え、その後に自身の身体をまさぐりながら回る。夢見草の根に刺された痕はない。
清音は正常だ。彼女の猜疑心は夢見草の毒から生まれたわけではなさそうだ。
「わかった。ひとまず行こう」
清音が話したことは念頭に置いておくとして、瑠璃たちとは距離が空いている。置いていかれると清音を急かした。
管を伝い、肥溜めの部屋を出て隣の部屋へと移る。そこは鬼の餌場になっていた。
眼下で犇く鬼たちの饗宴は眺めるだけでも身が縮まりそうになる。瑠璃たちが鏡を発見したと言っていた場所まで来てみたものの、目的のものはすでになくなっていた。
「まぁ、ここまで来るのに時間かかったしな」
嘆息した光弥であったが、こうなると予想していたのだろう。
「次に出現するのはいつかわかるか?」
「さぁ?大昔のデータは頭にないから。場所も知らない」
「二手に分かれます?」
清音の提案は賛成できかねた。二手に分かれれば早いかもしれないが、カンダタたちには連絡手段がない。落ち合う場所を決めたとしても、待っている間に鏡は移動をする。
「わかれないほうが面倒が少ないと思うけどな」
光弥もカンダタと同じ考えのようだ。
「あぁ、そういえば」
徐ろに瑠璃が取り出したのは二台の液晶板。スマートフォンと呼ばれているものだ。瑠璃の生活で連絡手段として使用しているものだとカンダタは記憶している。
しかし、瑠璃が普段使っているものとは見た目が異なる。そもそも現代の物はこちら側には持っていけないはずだ。
「それは?」
「十手よ。2つともね。こっちに来る前に形が変わっててたのよ」
「何でもありだな」
何にでも形を変えられる十手十廻之白御霊は分裂するのも可能らしい。都合の良さにカンダタは苦笑うを浮かべる。
「けれど」
瑠璃はどこか納得できないように言葉を詰まらせた。
「どうした?」
問いかけてみるも何でもないように瑠璃が首を振る。
「ちょっとしたことよ。あとで話すわ」
気になる言い方をされた。瑠璃はそれ以上話すつもりはなく、それから口を閉ざす。
「ま、これがあれば別れても問題なさそうだな」
「なら、カンダタさんと行く」
振り分けの話になると清音が第一声を上げた。カンダタとしては断りたいところだ。清音の声には下心が見え透いていたが、断り文句が浮かばない。
清音がカンダタと行くとなればそれについて行きたくなるのが飼われている側の性と言うもので、ケイは自然と清音に続こうとした。
「ケイは光弥についてあげて」
そうしたケイの意思を両断する清音。彼女の言動に不信感を抱くが、見守ることにする。
逡巡しているようなケイは今も感情を表さない。それでも清音といたいというのは他人でもわかる。
「それでもいいでしょ?光弥だって安心するし」
ケイの反論を言わせないと清音が僅かに声を張って言った。
光弥も否定しなかった。確かにケイが隣いれば心強い。光弥が納得するのも頷ける。納得できないのはカンダタだけでありなんとかできないかと瑠璃に振ってみる。
「瑠璃はどうする?」
「あ、た、しは」
頼みの瑠璃は頭痛に悩まされていた。強い波がきているようでカンダタの問いにも答えるのが辛そうだ。
瑠璃は眉間に皺を寄せ、冷や汗を流す。目を眇め、ケイと清音を交互に見るとその後にカンダタと目を合わせる。訴えかけているような目線だった。
「瑠璃はこっちに来るでしょ」
答えを出さずにいたので、清音がしびれを切らして言い放つ。カンダタから目を離し、清音に目線を向ける。
しばらくの間、考えた素振りを見せると瑠璃は気乗りしない顔で頷く。
「清音はケイと共に行くべきじゃないか?」
カンダタなりの断り文句だった。何とか穏便に清音から離れられないか思案していた。
ケイがこちらにくれば、光弥は一人になる。そこにカンダタが行くと発言すればいい。
「いや、カンダタよりもケイのほうが頼れるし」
無情にもカンダタの思いを光弥が両断した。
「ケイは私がいなくても大丈夫ですよ」
付け足すように清音が言えば、こちらは何も返せなくなる。
「もしかして、私では役不足ですか?」
カンダタの思惑を察したのだろう。心底傷ついたと嘆く瞳が涙で潤み、カンダタを見上げてくる。こういう時、強く言えない自分が恨めしい。
清音がカンダタに恋心を抱いているのは気づいている。だからこそ困るのだ。どんなに強い想いを抱いてもカンダタは応えられない。
こういう時こそ、瑠璃の出番だと助けを求める。
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