糸と蜘蛛

犬若丸

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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行

絡まる思慕 7

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 光弥・ケイと別れてからカンダタたちは彼らとは反対の方向に進んでいる。
 現在いるのは鬼の餌場だ。その前が肥溜め。光弥たちはその前のビニールハウスに向かった。
 全ての部屋は管で繋がっている。鬼の餌場の先、カンダタたちが行くそこはまだ足を踏み入れていない。
 光弥から情報を聞いとけばよかったと今更後悔する。
 この後も慎重に進み、鬼の餌場と隣の部屋を隔てる壁まで着く。
 そこでカンダタは離れていく瑠璃を待つ。
「調子は、どう?」
 清音なりに気を遣ったつもりだが、瑠璃はそれを邪険にしてあしらう。足元はふらついてる。治った頭痛うがぶり返してきたのだろう。
「この先も離れていくつもりか」
 瑠璃は小さく「平気」とだけ答えるとそこからまただんまりを決め込んだ。
「野良猫のほうが愛嬌があるな」
 そう言った嫌味にも瑠璃は返さない。それほど消耗しているらしい。その代わり舌打ちが出た。
「あの、服をつかんでもいいですか?」
 これからいく先に不安があるのか、唐突に清音がそう言ってきた。カンダタが有無を答えるよりも先に袖を掴んできた。
 肩が軽く触れ合わせるように寄せてくる。心なしか熱い目線の温度が高くなった気がする。
 向けられる高温の目線に目を逸らす。求めていない好意の躱し方を学んでなかった。
「いちゃつくなら他所でやって」
 瑠璃が苛立った棘を声に乗せてそしてきた。
「何?嫉妬してるの?」
 不安など微塵も思っていない清音が挑発するように瑠璃を見つめる。見つめ合う2人の間にあるのは静電気のような不快な刺激のある不快な目線だった。
 女性同士の不毛な戦いに巻き込まれたカンダタは動悸を激しくさせ、和やかにして速やかに事が終わるのを願った。
「歩きにくいから少し離れようか」
「嫌ですか?」
 目を潤ませると強く言えなくなる。
「腑抜け」
 瑠璃からポツリと漏れた憎悪の小言は聞こえないフリをした。
 カンダタを中心にそんな空気が流れているわけだが、自分は無関係だと主張したい。
 紅柘榴以外の女性に情愛は抱けない。清音には態度でそれとなく示しているものの、素知らぬ顔だ。恋愛に関しては鋼の心を持っているらしい。
 清音はともかく、瑠璃の対抗意識を持っているのが不思議でならない。
 蛞蝓以下の男と評価している瑠璃から恋愛感情近いものを感じたことはない。むしろ毛嫌いをしている。単に浮かれる彼女が気に入らないだけなのかもしれない。
「夢見草の根が刺さっちゃったからイライラしてるんですよ」
 傷ついたであろうと勝手に予測した清音がカンダタを励ます。胸を当てつけ、背を伸ばして顔を近づかせ、耳をくすぐる囁き声で喋る。あからさまな行為。
 奥手な性格をしている清音ではカンダタに対してそうした行為はできなかったはずだ。彼女はシャイな心をどこかに置いてきたようで代わりに男を落とす媚びた目つきをするようになった。
 改めて管を通す穴を見据える。
 二人が醸す修羅場の空気から逃れるように穴を潜る。
 未知の区域は闇に包まれていた。緊張する高鳴りに心を落ち着かせながら見渡す。
 歩む道でもある管は暗闇にぼんやりと浮かんでいるが、狭まられた視界は天井・床を隠す。どこかで囚人の呻き声が反響している。
「真っ暗」
 近くから清音の戸惑いが聞こえてくる。
「見えてるか?」
「見えないです。パイプの位置わかります?」
「俺はわかる。瑠璃は?」
「白い糸が」
 か細い声が返ってきたと思えば、そこで止まる。中途半端な返答も意味が伝わらない。
 短く答える瑠璃。ふらついた姿を思い出す。視界が悪い上に足が覚束ないので転倒しやすい。
 鬼の餌場より管の数は少ない。カンダタから暗闇の向こう側まで一本線に伸びている。
「転ぶなよ」
 軽口を叩いてみるがやはり返答はない。
「私が見てますよ。ね、瑠璃。手を繋ごうね」
 代わりに返したのは清音であり、カンダタの心配を見透かされているようで気恥ずかしい。
「行くぞ」
 羞恥を悟られたくないとカンダタは割り切るように言い放ち、歩み始めた。
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