512 / 644
5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
逃走の果て 7
しおりを挟む
止まっていたあたしは動き出し、ホールの中心から近くの鏡を目指す。
ケイは頭上のものに目をやるとあたしを追いかけずに清音を担いで、あたしとは逆方向に走る。
あたしもハクも自身の感情に振り回されて、頭上でうるさくなるそれに鈍感になっていた。
ダンスホールの天井にあるのは大型のクリスタルシャンデリア。それが左端から右端へと大きく振られている。
シャンデリアに乗り、揺らしていたのは鉄夫人だった。第6層にいる限り、彼女はどこにでも現れる。
天井からすり抜けた鉄夫人はシャンデリアに乗りかかり、その重量で鎖が引き千切られる。
繋がりを失ったシャンデリアはあたしの近くで落下して、そこで生じた風圧や衝突した床の振動で身体を崩して倒れる。
砕けたガラスがあたしに飛んできて、無数の掠り傷をつけた。落下したときの衝撃音が聴覚を犯す。その耳鳴りのせいですぐに起き上がるのは困難だった。黒蝶の拒絶反応のせいだ。
世界が揺らぐ。いや、揺らいでいるのは世界じゃなくてあたしの目だ。
焦点がはっきりとしない視界にあたしを見下ろす影があった。そいつはシャンデリアの亡骸に立っている。ケイだ。清音が落とした仮面を律儀に拾っていたみたいで少し欠けた仮面をつけている。
その後ろにはケイよりも大きい鉄夫人がいる。
あたしは顔を隠せる物を持っていない。ケイも鉄夫人もあたしをターゲットとして捉え、あたしはすぐに起き上がれない。
「ハ、ク」
舌が回っていないように感じる。ちゃんと発音できたのかわからない。
ケイは沈黙してあたしを見下ろす。さっきみたいな怒声はない。けれど、首や腕には興奮し、力んでてきた血脈が浮きでていた。
静寂に佇むケイは内に憎悪を滾らせる。背後にいる鉄夫人は暗闇に隠れたあたしを手探りで探す。
頭がふらつく。不具合が生じた平衡感覚に立ち上がるのも困難だ。
ケイがシャンデリアから跳ねて、鉄夫人の手がこちらに伸びる。
そうした絶望的な風景が一変したのはハクが間に入ってあたしをさらったから。
百数十年分の怒りを晴らせと誘う本能を振り払い、あたしを選んでくれた。
清音からあたしの所へと駆けてきたハクは覆い被さり、そのままあたしを連れて、鏡まで駆け抜けようとする。
ケイにハクが見えていない。ケイからしてみれば立ち上がれもしないあたしが後方に引っ張られるように動いているように見えるかもしれない。
その様子に戸惑いはしたけれど、ケイは大理石の床に着地してそのまましゃがむ。
ケイの頭上を鉄夫人の手が通り過ぎる。鉄夫人もハクが見えていないけれど、関係ない。
鉄夫人の鋭く長い爪はハクの背を引っ掻いた。たったそれだけなのにハクの背は深く抉られた。
傷がついたハクは鳴き声すら上げることなく、あたしを抱き上げて、上へと向かう。
ぐらついて混乱するあたしはハクから流れる液体だけを見つめる。
ハクは手負いになるも鉄夫人が獲物を外したのは変わりない。もう一度、手が伸ばされる。
ハクは痛む背中を無視して身体を跳ばす。あと1、2歩のところで、最後に聞いたのはケイの雄叫びだった。
ケイは頭上のものに目をやるとあたしを追いかけずに清音を担いで、あたしとは逆方向に走る。
あたしもハクも自身の感情に振り回されて、頭上でうるさくなるそれに鈍感になっていた。
ダンスホールの天井にあるのは大型のクリスタルシャンデリア。それが左端から右端へと大きく振られている。
シャンデリアに乗り、揺らしていたのは鉄夫人だった。第6層にいる限り、彼女はどこにでも現れる。
天井からすり抜けた鉄夫人はシャンデリアに乗りかかり、その重量で鎖が引き千切られる。
繋がりを失ったシャンデリアはあたしの近くで落下して、そこで生じた風圧や衝突した床の振動で身体を崩して倒れる。
砕けたガラスがあたしに飛んできて、無数の掠り傷をつけた。落下したときの衝撃音が聴覚を犯す。その耳鳴りのせいですぐに起き上がるのは困難だった。黒蝶の拒絶反応のせいだ。
世界が揺らぐ。いや、揺らいでいるのは世界じゃなくてあたしの目だ。
焦点がはっきりとしない視界にあたしを見下ろす影があった。そいつはシャンデリアの亡骸に立っている。ケイだ。清音が落とした仮面を律儀に拾っていたみたいで少し欠けた仮面をつけている。
その後ろにはケイよりも大きい鉄夫人がいる。
あたしは顔を隠せる物を持っていない。ケイも鉄夫人もあたしをターゲットとして捉え、あたしはすぐに起き上がれない。
「ハ、ク」
舌が回っていないように感じる。ちゃんと発音できたのかわからない。
ケイは沈黙してあたしを見下ろす。さっきみたいな怒声はない。けれど、首や腕には興奮し、力んでてきた血脈が浮きでていた。
静寂に佇むケイは内に憎悪を滾らせる。背後にいる鉄夫人は暗闇に隠れたあたしを手探りで探す。
頭がふらつく。不具合が生じた平衡感覚に立ち上がるのも困難だ。
ケイがシャンデリアから跳ねて、鉄夫人の手がこちらに伸びる。
そうした絶望的な風景が一変したのはハクが間に入ってあたしをさらったから。
百数十年分の怒りを晴らせと誘う本能を振り払い、あたしを選んでくれた。
清音からあたしの所へと駆けてきたハクは覆い被さり、そのままあたしを連れて、鏡まで駆け抜けようとする。
ケイにハクが見えていない。ケイからしてみれば立ち上がれもしないあたしが後方に引っ張られるように動いているように見えるかもしれない。
その様子に戸惑いはしたけれど、ケイは大理石の床に着地してそのまましゃがむ。
ケイの頭上を鉄夫人の手が通り過ぎる。鉄夫人もハクが見えていないけれど、関係ない。
鉄夫人の鋭く長い爪はハクの背を引っ掻いた。たったそれだけなのにハクの背は深く抉られた。
傷がついたハクは鳴き声すら上げることなく、あたしを抱き上げて、上へと向かう。
ぐらついて混乱するあたしはハクから流れる液体だけを見つめる。
ハクは手負いになるも鉄夫人が獲物を外したのは変わりない。もう一度、手が伸ばされる。
ハクは痛む背中を無視して身体を跳ばす。あと1、2歩のところで、最後に聞いたのはケイの雄叫びだった。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる