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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
逃走の果て 6
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あたしは見渡して道を探す。いくつもの鏡がホールの壁にずらりと並んでいる。逃げ道はたくさんある。たくさんあるからどこに行けばいいか迷う。
今までビルからビルへの移動だったのにここにきて、オフィスとは程遠いダンスホールに着いた。次はに行くのかわからない。
迷うなと本能が警報を鳴らす。身体を回転させて、清音に背を向ける。
「いいったっあああっ!」
後から聞こえてきたのは清音の悲鳴。
驚いて足を止め、振り返る。
「あああっ!いだいいだいっいだあいっ!」
遅れない上げた清音の悲鳴は痛みを訴えて、あたしを睨む。
まるであたしに憎しみを込めているかのよう。清音の頭や腕はあたしのせいじゃない。
清音が大声で訴えていると壁際の鏡からケイが現れた。あたしたちを追いかけてきた。
傷だらけの清音と絶妙のタイミングで現れたケイ。自傷行為の意図を知るには充分の要素だった。
「助けてっ!瑠璃がっ!」
無惨な痕を見せられて、ケイは激昂する。
「るううりいいいい!」
首の血管が浮き出るほどの怒声を浴びせて、清音を追い越して向かってくる。
迷っていられなくなって、あたしは目先に入った鏡へと走り出す。
「清音を放置していいのっ?」
僅かでも思いやりが残っていることを祈り、ケイに訴える。
自称行為でやったと信じてもらうより清音の保護を優先させようと訴えたけれど、あたしの声は虚しく届かなかった。
走っていても追いつかれるのは時間の問題で、ケイはあたしの襟首に触れる。
「ハク!」
その合図を待っていたハクはあたしが息を吸いかけた時にはケイに牙と鉤爪を向いて襲いかかっていた。
肩に牙を、脇腹に鉤爪を食い込ませて、あたしから離す。ケイからしてみれば見えない敵からの攻撃に戸惑っているはず。彼は成す滑りもなく投げらる。
これには痛い演技をしていた清音も演技していることを忘れて、目を見開く。
ハクはあたしにしか認識できない存在だ。あたし以外の人がハクを見ることはできないし、触れない。ハクもあたし以外の人は触れない。それは蝶男も知っている。
けれど、それが無効になる条件がある。それは対象物に白糸が括ってあること。
白糸で繋がれば、ハクは対象物に触れることができる。
ケイの異変は清音が黒蝶化していると知った時からわかっていた。
嗅覚は機能しなくなっているし、“白い刀をあたしに託す”という存在理由も失っている。
ケイに責められた時、密かに白糸を括っておいてよかった。
清音の差し金でいつ襲ってくるかわからない。だから、あたしは切り札としてハクに合図を出す機会を窺っていた。
ケイは大理石の上を滑って行き、鏡に衝突する。鏡はクモの巣状の罅を作って、横倒れになったケイの上に欠片が散らばる。
塊人だからこの程度では消滅しないけれど、大ダメージを与えた。今のうちに別の鏡へと移動しないと。
「ハク!行くわよ!ハク!」
あたしはハクに呼びかけて戻ってくるよう促す。
ハクは鼻息を荒らげて、清音と対峙する。白い背中から湯気が上がっていた。興奮して体温が高くなっている。
「ハク!」
あたしの呼びかけには応えず、鬼らしい形相で牙を剥く。
「そこにいるんだね?」
清音は蝶男の声色で呟く。
「いつか僕が知らない君の思い出を聞きたいな」
「ハク!」
これまで積まれてきた怒りが清音に向けられている。飼い馴らした憎悪が我慢の限界だとハクの魂を飲み込もうとしていた。
あたしだってハクと同じだ。怒りのままに蝶男に鉄槌を下して、腹を裂いて、全部の内臓を抉り出したい。あたしよりも奪われたものが多く、苦痛を百十年も与えられたハクなら暴走したくもなる。
けれど、それは今じゃない。
「戻ってきて!影弥が積み上げたものが無駄になる!」
倒れていたケイが起き上がる。ハクは清音の前から動こうとしない。
あたしだけでも行かないと。
ハクを置いて行きたくはない。けれど、あたしが蝶男の手中に落ちるわけにもいかない。
今までビルからビルへの移動だったのにここにきて、オフィスとは程遠いダンスホールに着いた。次はに行くのかわからない。
迷うなと本能が警報を鳴らす。身体を回転させて、清音に背を向ける。
「いいったっあああっ!」
後から聞こえてきたのは清音の悲鳴。
驚いて足を止め、振り返る。
「あああっ!いだいいだいっいだあいっ!」
遅れない上げた清音の悲鳴は痛みを訴えて、あたしを睨む。
まるであたしに憎しみを込めているかのよう。清音の頭や腕はあたしのせいじゃない。
清音が大声で訴えていると壁際の鏡からケイが現れた。あたしたちを追いかけてきた。
傷だらけの清音と絶妙のタイミングで現れたケイ。自傷行為の意図を知るには充分の要素だった。
「助けてっ!瑠璃がっ!」
無惨な痕を見せられて、ケイは激昂する。
「るううりいいいい!」
首の血管が浮き出るほどの怒声を浴びせて、清音を追い越して向かってくる。
迷っていられなくなって、あたしは目先に入った鏡へと走り出す。
「清音を放置していいのっ?」
僅かでも思いやりが残っていることを祈り、ケイに訴える。
自称行為でやったと信じてもらうより清音の保護を優先させようと訴えたけれど、あたしの声は虚しく届かなかった。
走っていても追いつかれるのは時間の問題で、ケイはあたしの襟首に触れる。
「ハク!」
その合図を待っていたハクはあたしが息を吸いかけた時にはケイに牙と鉤爪を向いて襲いかかっていた。
肩に牙を、脇腹に鉤爪を食い込ませて、あたしから離す。ケイからしてみれば見えない敵からの攻撃に戸惑っているはず。彼は成す滑りもなく投げらる。
これには痛い演技をしていた清音も演技していることを忘れて、目を見開く。
ハクはあたしにしか認識できない存在だ。あたし以外の人がハクを見ることはできないし、触れない。ハクもあたし以外の人は触れない。それは蝶男も知っている。
けれど、それが無効になる条件がある。それは対象物に白糸が括ってあること。
白糸で繋がれば、ハクは対象物に触れることができる。
ケイの異変は清音が黒蝶化していると知った時からわかっていた。
嗅覚は機能しなくなっているし、“白い刀をあたしに託す”という存在理由も失っている。
ケイに責められた時、密かに白糸を括っておいてよかった。
清音の差し金でいつ襲ってくるかわからない。だから、あたしは切り札としてハクに合図を出す機会を窺っていた。
ケイは大理石の上を滑って行き、鏡に衝突する。鏡はクモの巣状の罅を作って、横倒れになったケイの上に欠片が散らばる。
塊人だからこの程度では消滅しないけれど、大ダメージを与えた。今のうちに別の鏡へと移動しないと。
「ハク!行くわよ!ハク!」
あたしはハクに呼びかけて戻ってくるよう促す。
ハクは鼻息を荒らげて、清音と対峙する。白い背中から湯気が上がっていた。興奮して体温が高くなっている。
「ハク!」
あたしの呼びかけには応えず、鬼らしい形相で牙を剥く。
「そこにいるんだね?」
清音は蝶男の声色で呟く。
「いつか僕が知らない君の思い出を聞きたいな」
「ハク!」
これまで積まれてきた怒りが清音に向けられている。飼い馴らした憎悪が我慢の限界だとハクの魂を飲み込もうとしていた。
あたしだってハクと同じだ。怒りのままに蝶男に鉄槌を下して、腹を裂いて、全部の内臓を抉り出したい。あたしよりも奪われたものが多く、苦痛を百十年も与えられたハクなら暴走したくもなる。
けれど、それは今じゃない。
「戻ってきて!影弥が積み上げたものが無駄になる!」
倒れていたケイが起き上がる。ハクは清音の前から動こうとしない。
あたしだけでも行かないと。
ハクを置いて行きたくはない。けれど、あたしが蝶男の手中に落ちるわけにもいかない。
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