518 / 644
5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
欲しいもの 5
しおりを挟む
そうして悩んでいるうちに鉄夫人が先に動く。鬼の殲滅に飽きた鉄夫人は次の獲物を探し、吊り下げ灯の周囲を探る。
奴が指先摘んで持ったのは切れたの布切れだった。
瑠璃の衣服の切れ端。カンダタがそれを直感したのは単純であった。目的地である広間まで来れるものは限られているからだ。
カンダタと瑠璃が別れた時はどの囚人よりも大広間に近かった。瑠璃の悪運の強さとずる賢さなら切り抜けられる。
そうした直感があったが、楽観的で希望的な推測だと言うことには目を瞑った。
鉄夫人は切れ端を嗅ぐとその臭いを辿り、吊り下げ灯から離れる。鉄の巨人は一枚の鏡と付き合う。
瑠璃はあの鏡を潜ったのだろう。カンダタにはありがたい情報だが、鉄夫人にとっては悩ましいはずだ。
人間の大きさで合わされている姿見だ。鉄夫人が潜るのは不可能だ。
鉄夫人の身体の節々からぱきぱきと氷を割ったような音が鳴る。音だけでは鉄の皮に亀裂が入ったのかと思えるが、巨大な影の様子を伺うとそうでもない。
左肩が異様に上がり、右肩が異様に下がり、首と腰を異様な角度で捻る。全ての関節を外し、鉄の皮を伸ばす。瞬く間にねじり棒のように長く細くなった鉄夫人はすんなりと姿見に入っていく。
ビルとビルとの間でもあれで移動していたのだろうか。
鉄夫人は瑠璃を迫っているのだからカンダタは鉄夫人をことにする。その背後で光弥が「待って」と泣き出しそうな声で引き止めるが、ここまでくると彼はいらないので相手しないことにする。
「待てって!」
聞く耳を持たないカンダタに焦り苛立ち、駆け寄る。足音でそれがわかるも態度は変わらなかった。カンダタにも焦りがあったからだ。
「なあっ!」
苛立ちと焦りからどこか悲観し乞う切羽詰まったものになってくる。
そうなればカンダタにも同情というものが生まれ、耳だけならば、傾けてもいいとほんの少しだけ歩調を緩めた。
途端、項に電撃が走った。首から体内に迸る電流は神経を狂わせ、筋力を失う。
立つこともできなくなり、成す術もなくカンダタは冷たい大理石の上に倒れた。
突然の出来事だった。首が回らない。電撃は一瞬であったが、狂わせられた神経はすぐには治らない。
目線だけを上げた。光弥の片手にはスタンガンが握られ、無感情にこちらを見下ろす。そこに焦りや苛立ち、快楽、優越といったものがない。
「これで二度目だね」
冷淡となった光弥は静かに告げる。
「必要なら行動不能にしてくれって頼まれたんだ」
困惑するカンダタの為に弁解するように言っているが、内容が理解できない。
またやられた。油断していた。ビルから突き飛ばしてでも離れるべきだった。
「ごめんね。俺も必死なんだ」
筋力はまだ取り戻せない。動かせない身体と裏腹に心は焦燥だけが膨張していた。
奴が指先摘んで持ったのは切れたの布切れだった。
瑠璃の衣服の切れ端。カンダタがそれを直感したのは単純であった。目的地である広間まで来れるものは限られているからだ。
カンダタと瑠璃が別れた時はどの囚人よりも大広間に近かった。瑠璃の悪運の強さとずる賢さなら切り抜けられる。
そうした直感があったが、楽観的で希望的な推測だと言うことには目を瞑った。
鉄夫人は切れ端を嗅ぐとその臭いを辿り、吊り下げ灯から離れる。鉄の巨人は一枚の鏡と付き合う。
瑠璃はあの鏡を潜ったのだろう。カンダタにはありがたい情報だが、鉄夫人にとっては悩ましいはずだ。
人間の大きさで合わされている姿見だ。鉄夫人が潜るのは不可能だ。
鉄夫人の身体の節々からぱきぱきと氷を割ったような音が鳴る。音だけでは鉄の皮に亀裂が入ったのかと思えるが、巨大な影の様子を伺うとそうでもない。
左肩が異様に上がり、右肩が異様に下がり、首と腰を異様な角度で捻る。全ての関節を外し、鉄の皮を伸ばす。瞬く間にねじり棒のように長く細くなった鉄夫人はすんなりと姿見に入っていく。
ビルとビルとの間でもあれで移動していたのだろうか。
鉄夫人は瑠璃を迫っているのだからカンダタは鉄夫人をことにする。その背後で光弥が「待って」と泣き出しそうな声で引き止めるが、ここまでくると彼はいらないので相手しないことにする。
「待てって!」
聞く耳を持たないカンダタに焦り苛立ち、駆け寄る。足音でそれがわかるも態度は変わらなかった。カンダタにも焦りがあったからだ。
「なあっ!」
苛立ちと焦りからどこか悲観し乞う切羽詰まったものになってくる。
そうなればカンダタにも同情というものが生まれ、耳だけならば、傾けてもいいとほんの少しだけ歩調を緩めた。
途端、項に電撃が走った。首から体内に迸る電流は神経を狂わせ、筋力を失う。
立つこともできなくなり、成す術もなくカンダタは冷たい大理石の上に倒れた。
突然の出来事だった。首が回らない。電撃は一瞬であったが、狂わせられた神経はすぐには治らない。
目線だけを上げた。光弥の片手にはスタンガンが握られ、無感情にこちらを見下ろす。そこに焦りや苛立ち、快楽、優越といったものがない。
「これで二度目だね」
冷淡となった光弥は静かに告げる。
「必要なら行動不能にしてくれって頼まれたんだ」
困惑するカンダタの為に弁解するように言っているが、内容が理解できない。
またやられた。油断していた。ビルから突き飛ばしてでも離れるべきだった。
「ごめんね。俺も必死なんだ」
筋力はまだ取り戻せない。動かせない身体と裏腹に心は焦燥だけが膨張していた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる