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1章 神様が作った実験場
彼女の日常について 3
しおりを挟む学校というものは苦手。部活と勉強、将来への希望。卒業したら捨てるものばかりを強要してそれに全力を注ぐよう仕向けられる。少しでもそこからはみ出ると普遍を求める人々によって整えられる。学校は人を機械化させる工場でしかない。
その工場の教室に入ると統一化された賑わいで息苦しくなる。不良品のあたしはどこにも属せず、どこにもなじまず、ただ独りでいた。
「清音!ノート貸してよ!」
席の近くで、クラスでも目立つ女子たちが地味な子に集っている。
目線だけを向けてみると3人グループの1人と目があった。
彼女は山田 彩でグループのリーダー格だ。あたしを睨むように見つめた後、岡崎 清音を嘲笑う。
岡崎 清音はあたしより地味で抵抗のない大人しい子。あれはあたしの身代わりだ。
一人でいるのもまた世間からはみ出た行為になる。そういう人は彼女たちの標的にされやすい。だから、あたしは自身の学生生活を守る為に清音というクラスメイトを見殺していた。
彼女がいじめの犠牲になってくれたお陰であたしの学生生活は平穏になる。だからといって感謝も同情もしない。
清音が3人のお友達にノートを渡してチャイムが鳴る。あのノートは一時限目から使うものだ。それを要求してくる自称友達と抵抗しない子。これが学校を物語る構図になっている。
これも毎日繰り返す雑音だらけの日常。
時折、考えることがある。この世界は生きるほどの価値があるのかな、と。
同じ時間に起きて同じところへ行き、同じ部屋に長時間閉じ込める。無気力な教師は無駄な浪費を繰り返して生徒は知らない間に個性を殺される。
皆、無個性になって生きている。
教鞭に立つあいつも教科書を盗られて悔しがるあの子もその子を揶揄って楽しむ彼女たちも何も考えてない。惰性に過ごしてしているだけ。
個性もないから大それた望みも持てない。だから他のものにに縋って依存する。
夢を持てと個性を示せと無個性の他人は言う。いや、指示している。誰かが個を示せば無個性の他人はその背中についていくだけ。そんな楽な人生を皆、望んでいる。
あたしはは他人に縋るような厚い面を持っていないし、大それた志も持ち合わせていない。
縋ることもなく未来を期待させるような夢も持たなくて良い静寂が欲しい。
そう、あの世界。あの世界なら独りで静かに暮らせる。誰もいない完璧な静寂。あたしはそれを求めていた。
数学の一限目は楽でいい。与えられた数式で与えられた問題を解くだけだから。
自前に出された課題を求めた教師は清音を指定する。
清音は立ち上って答えようとするも、その答えを書いたノートは手元にない。結局、何も答えられず「忘れてきました」と耳を赤くして小さく言う。教室の片隅でクスクスと笑う声がした。
くだらないな、と思いながらペンを回す。窓を打つ雨粒は勢いを止まらず、過度に水分を吸ったグラウンドは黒く湿っていた。教室に溜まっていく湿度に嫌気が差して、早くも梅雨明けを望む。
数学、生物、現国、体育と続き、その次が古典。昼食をとってからの授業は眠くなりやすい。その上、退屈な古典。サボりたくなるのは必然だった。
古典で納得いかないのは日本語を覚えているのにわざわざ昔の言葉を覚えなちゃいけないこと。なんの役に立つのよ。
真面目に受けるのも馬鹿らしなって、学食で昼食を済ましても教室には戻らなずに屋上に続く階段を上った。といっても屋上のドアはいつも鍵がかかっているし、開けたとしても雨が降っているから外には出たくない。
あたしは屋上ドア前で隠れるように座り、止む気配のない雨の音を聞いていた。
目をつぶれば、コンクリートにぶつかる水音がポツポツと聞こえてくる。身体の奥底まで浸透されていくようだった。
水面に落ちて波紋を作る様を暗闇の中で漂うように感じていると心地よくなってきて、夢に誘われるように身を委ねた。
そうしてやってきた睡魔に従って夢へと落ちた。
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