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1章 神様が作った実験場
彼女の日常について 4
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あたしが見る夢はいつも同じ、はずだった。
闇の静寂にサーチセンサーのような無数の糸。
一本の白い糸を辿って着くのは地獄のはずなのに今回だけは違った。
水の音がする。足元からも水の感触が伝わる。感触がある夢はこれが初めてね。不思議だわ。
途方もない暗闇と水平線が続く世界を照らすのは淡く光る白い蓮。点々と咲いて優しく灯っていた。
ここも地獄?それとも天国?
不意に誰かがあたしを呼ばんだ。細く小さい弱った声でうまく聞き取れなかった。でも、確かに呼ばれた。
見渡してみてもどこかに誰かがいるわけじゃない。
「ねぇ、誰?」
問いかけた声は反響したまま、水平線と白蓮の世界は黙する。
不意に感じた視線。振り返ってみるとそこに白い何かがあった。
こんな曖昧な表現しかできなかったのはその何かは遠くて小さかったから。2本足でたっていること、でも、人の形はしていないことは、ぼんやりとしたシルエットでわかった。
こいつがあたしを呼んだの?
遠くにあるシルエットをよく見てみようと目を懲らしめる。すると、またあたしを呼ぶ。今度は強く、野太い、男性の声で聞き覚えがある。その正体は。
「瑠璃!」
古典を教える坂本の怒鳴り声でようやく夢から覚めた。
あぁ、そうだった。サボっていたんだわ。
「古典は終わったぞ」
あたしの眠りは深かったらしく、チャイムが鳴っても戻って来ないあたしを坂本はわざわざ起こしに来た。
「真面目に受けてもらいたいんだがな」
坂本はしかめっ面に腕を組み、あたしを責める。
「なら、面白い授業にするべきでしょう。少なくとも、古典はあたしにとっては子守唄です」
「またお前は」
坂本はクラスの担任もしていて、あたしの不躾な態度にもそれなりの注意をする。
「あたしなんぞに貴重な時間を割かず、その愛はほかの生徒に注いでやってください。あたしは先生の愛がなくとも生きていけますので」
坂本は大きな溜め息を吐く。面倒な生徒に対する溜め息だった。
「そうか。わかった。なら代わりに労働をくれてやろう。クラスのテキスト運び、お前がやれ」
冗談じゃない。すぐに反論しようとするも坂本はその前に制する。
「サボったら成績下げるぞ」
なんて横暴なんだろう。職権乱用だわ。
「次はちゃんと受けろよ」
杭を一本刺して立ち去っていく。睡魔はすっかり消えてしまってあたしは立ち上がり、気怠い思いをぶら下げながら教室に戻った。
そして、放課後の報酬のない労働を強要された。
「ありがとうな」
テキストの山を苛立たしく雑に置いて坂本を睨む。
言いたいことはたくさんある。でも、職員室の真ん中で目立つことはしたくない。さっさと帰ろう。そして本屋に寄ろう。
別れの挨拶はせずにその場を去ろうとするも、坂本が呼び止める。
「笹塚」
「苗字はやめてください」
つい、言葉を返す。それも、迅速かつ強調して修正を求める。親と同じ名で呼ばれるのはどうしようもなく、吐き気がする。
「そうだったな。瑠璃は古典と歴史以外の科目はいいんだ。この2教科さえ乗り越えれば俺は何も言わない」
「それはよかったです。けれど、一生できなさそうなので無駄なアドバイスになりましたね。それではさようなら」
早口で、無理矢理に会話を終わらせようとするも坂本はまだ言い足りないらしい。待てと言ってあたしを止めるも、口籠って言葉を選ぶように考える。
「用がないなら帰りますよ」
「だから待てって。そうだな。あぁ、と、これを渡したかったんだ」
坂本が渡してきたプリントを受け取ると、一行目に書かれた文に思わず声が出た。
「スクールカウンセラーの案内?」
「SHLで話したろ。来週からうちの高校に配置することになってな。いい機会だから受けてみないか?その、瑠璃は協調を学ぶべきだと、思うんだ。確かに、お前の家庭環境には同情する。でもな、高校生となったら自分の性格は家庭のせいにはできない。人付き合いは鏡と向き合ってるのと一緒だ。だから」
「先生」
ぴしゃりと先生の話を遮った。自身の家庭について他人にとやかく言われたくない。況してやあたしは自身の性格を悔やんだこともない。あたしの性格が他人を遠ざけるのなら好都合なのよ。
「あたしよりもいじめを気にかけたらどうです?」
無理にでも話題を変えたかった。家庭については口論もしたくない。
「山田たちか。彼女たちとは昨日話をつけた」
「そうだったんですか。彼女たち、注意だけじゃ物足りないみたいですよ」
それだけを言い残して、あたしはほそ笑みながら去る。坂本はその真意を突き止めようとしたけれど、また足止めされるのはごめんだ。これ以上時間を消費されたくない。
闇の静寂にサーチセンサーのような無数の糸。
一本の白い糸を辿って着くのは地獄のはずなのに今回だけは違った。
水の音がする。足元からも水の感触が伝わる。感触がある夢はこれが初めてね。不思議だわ。
途方もない暗闇と水平線が続く世界を照らすのは淡く光る白い蓮。点々と咲いて優しく灯っていた。
ここも地獄?それとも天国?
不意に誰かがあたしを呼ばんだ。細く小さい弱った声でうまく聞き取れなかった。でも、確かに呼ばれた。
見渡してみてもどこかに誰かがいるわけじゃない。
「ねぇ、誰?」
問いかけた声は反響したまま、水平線と白蓮の世界は黙する。
不意に感じた視線。振り返ってみるとそこに白い何かがあった。
こんな曖昧な表現しかできなかったのはその何かは遠くて小さかったから。2本足でたっていること、でも、人の形はしていないことは、ぼんやりとしたシルエットでわかった。
こいつがあたしを呼んだの?
遠くにあるシルエットをよく見てみようと目を懲らしめる。すると、またあたしを呼ぶ。今度は強く、野太い、男性の声で聞き覚えがある。その正体は。
「瑠璃!」
古典を教える坂本の怒鳴り声でようやく夢から覚めた。
あぁ、そうだった。サボっていたんだわ。
「古典は終わったぞ」
あたしの眠りは深かったらしく、チャイムが鳴っても戻って来ないあたしを坂本はわざわざ起こしに来た。
「真面目に受けてもらいたいんだがな」
坂本はしかめっ面に腕を組み、あたしを責める。
「なら、面白い授業にするべきでしょう。少なくとも、古典はあたしにとっては子守唄です」
「またお前は」
坂本はクラスの担任もしていて、あたしの不躾な態度にもそれなりの注意をする。
「あたしなんぞに貴重な時間を割かず、その愛はほかの生徒に注いでやってください。あたしは先生の愛がなくとも生きていけますので」
坂本は大きな溜め息を吐く。面倒な生徒に対する溜め息だった。
「そうか。わかった。なら代わりに労働をくれてやろう。クラスのテキスト運び、お前がやれ」
冗談じゃない。すぐに反論しようとするも坂本はその前に制する。
「サボったら成績下げるぞ」
なんて横暴なんだろう。職権乱用だわ。
「次はちゃんと受けろよ」
杭を一本刺して立ち去っていく。睡魔はすっかり消えてしまってあたしは立ち上がり、気怠い思いをぶら下げながら教室に戻った。
そして、放課後の報酬のない労働を強要された。
「ありがとうな」
テキストの山を苛立たしく雑に置いて坂本を睨む。
言いたいことはたくさんある。でも、職員室の真ん中で目立つことはしたくない。さっさと帰ろう。そして本屋に寄ろう。
別れの挨拶はせずにその場を去ろうとするも、坂本が呼び止める。
「笹塚」
「苗字はやめてください」
つい、言葉を返す。それも、迅速かつ強調して修正を求める。親と同じ名で呼ばれるのはどうしようもなく、吐き気がする。
「そうだったな。瑠璃は古典と歴史以外の科目はいいんだ。この2教科さえ乗り越えれば俺は何も言わない」
「それはよかったです。けれど、一生できなさそうなので無駄なアドバイスになりましたね。それではさようなら」
早口で、無理矢理に会話を終わらせようとするも坂本はまだ言い足りないらしい。待てと言ってあたしを止めるも、口籠って言葉を選ぶように考える。
「用がないなら帰りますよ」
「だから待てって。そうだな。あぁ、と、これを渡したかったんだ」
坂本が渡してきたプリントを受け取ると、一行目に書かれた文に思わず声が出た。
「スクールカウンセラーの案内?」
「SHLで話したろ。来週からうちの高校に配置することになってな。いい機会だから受けてみないか?その、瑠璃は協調を学ぶべきだと、思うんだ。確かに、お前の家庭環境には同情する。でもな、高校生となったら自分の性格は家庭のせいにはできない。人付き合いは鏡と向き合ってるのと一緒だ。だから」
「先生」
ぴしゃりと先生の話を遮った。自身の家庭について他人にとやかく言われたくない。況してやあたしは自身の性格を悔やんだこともない。あたしの性格が他人を遠ざけるのなら好都合なのよ。
「あたしよりもいじめを気にかけたらどうです?」
無理にでも話題を変えたかった。家庭については口論もしたくない。
「山田たちか。彼女たちとは昨日話をつけた」
「そうだったんですか。彼女たち、注意だけじゃ物足りないみたいですよ」
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