糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
3 / 644
1章 神様が作った実験場

彼女の日常について 3

しおりを挟む
 

 学校というものは苦手。部活と勉強、将来への希望。卒業したら捨てるものばかりを強要してそれに全力を注ぐよう仕向けられる。少しでもそこからはみ出ると普遍を求める人々によって整えられる。学校は人を機械化させる工場でしかない。
 その工場の教室に入ると統一化された賑わいで息苦しくなる。不良品のあたしはどこにも属せず、どこにもなじまず、ただ独りでいた。
 「清音きよね!ノート貸してよ!」
 席の近くで、クラスでも目立つ女子たちが地味な子に集っている。
 目線だけを向けてみると3人グループの1人と目があった。
 彼女は山田 彩でグループのリーダー格だ。あたしを睨むように見つめた後、岡崎 清音を嘲笑う。
 岡崎 清音はあたしより地味で抵抗のない大人しい子。あれはあたしの身代わりだ。
 一人でいるのもまた世間からはみ出た行為になる。そういう人は彼女たちの標的にされやすい。だから、あたしは自身の学生生活を守る為に清音というクラスメイトを見殺していた。
 彼女がいじめの犠牲になってくれたお陰であたしの学生生活は平穏になる。だからといって感謝も同情もしない。
 清音が3人のお友達にノートを渡してチャイムが鳴る。あのノートは一時限目から使うものだ。それを要求してくる自称友達と抵抗しない子。これが学校を物語る構図になっている。
 これも毎日繰り返す雑音だらけの日常。
 時折、考えることがある。この世界は生きるほどの価値があるのかな、と。
 同じ時間に起きて同じところへ行き、同じ部屋に長時間閉じ込める。無気力な教師は無駄な浪費を繰り返して生徒は知らない間に個性を殺される。
 皆、無個性になって生きている。
 教鞭に立つあいつも教科書を盗られて悔しがるあの子もその子を揶揄って楽しむ彼女たちも何も考えてない。惰性に過ごしてしているだけ。
 個性もないから大それた望みも持てない。だから他のものにに縋って依存する。
 夢を持てと個性を示せと無個性の他人は言う。いや、指示している。誰かが個を示せば無個性の他人はその背中についていくだけ。そんな楽な人生を皆、望んでいる。
 あたしはは他人に縋るような厚い面を持っていないし、大それた志も持ち合わせていない。
 縋ることもなく未来を期待させるような夢も持たなくて良い静寂が欲しい。
 そう、あの世界。あの世界なら独りで静かに暮らせる。誰もいない完璧な静寂。あたしはそれを求めていた。
 数学の一限目は楽でいい。与えられた数式で与えられた問題を解くだけだから。
 自前に出された課題を求めた教師は清音を指定する。
 清音は立ち上って答えようとするも、その答えを書いたノートは手元にない。結局、何も答えられず「忘れてきました」と耳を赤くして小さく言う。教室の片隅でクスクスと笑う声がした。
 くだらないな、と思いながらペンを回す。窓を打つ雨粒は勢いを止まらず、過度に水分を吸ったグラウンドは黒く湿っていた。教室に溜まっていく湿度に嫌気が差して、早くも梅雨明けを望む。
 数学、生物、現国、体育と続き、その次が古典。昼食をとってからの授業は眠くなりやすい。その上、退屈な古典。サボりたくなるのは必然だった。
 古典で納得いかないのは日本語を覚えているのにわざわざ昔の言葉を覚えなちゃいけないこと。なんの役に立つのよ。
 真面目に受けるのも馬鹿らしなって、学食で昼食を済ましても教室には戻らなずに屋上に続く階段を上った。といっても屋上のドアはいつも鍵がかかっているし、開けたとしても雨が降っているから外には出たくない。
 あたしは屋上ドア前で隠れるように座り、止む気配のない雨の音を聞いていた。
 目をつぶれば、コンクリートにぶつかる水音がポツポツと聞こえてくる。身体の奥底まで浸透されていくようだった。
 水面に落ちて波紋を作る様を暗闇の中で漂うように感じていると心地よくなってきて、夢に誘われるように身を委ねた。
 そうしてやってきた睡魔に従って夢へと落ちた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...