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1章 神様が作った実験場
ずれ 5
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一羽の蝶は誘われるように飛んでいくと棚の陰から手の平が伸びて、蝶は細い指に止まった。
駅の時でもそうだった。こいつははっきりと姿を見せない。
「あんた、何なの?地獄の住人?それとも神様の使い?」
「どちらでもないかな。例えるなら旅行者だ」
男の声色は優しく甘い。でも、その口調はあたしを茶化して見下していた。そこが気に食わなかった。
「大した人ね。あたしたちの行動を観て楽しんでいたの?鬼に食われてしまえばいいのに」
「ひどい言いがかりだ。これでも、君を助けてあげたのに」
どういうことか聞こうした途端、脳裏に浮かぶあの光景。鬼と鬼が殺し合う、不可解な出来事。
「あれ、あなたの仕業?」
「お陰で君は無事だろう」
彼の正体は見当もつかない。鬼を従えているのならカンダタと同じ囚人ではなさそうね。だとしたら、鬼の番人?それとも空の穴にいる神?
身を強張らせて棚の裏側にいる蝶男を睨む。あたしの意図を読み取った彼は慌てて取り繕う。
「害を加えようとか考えていないよ。君を助けたいんだ」
「ありきたりな台詞ね」
「本当さ、アドバイスだってある。空の穴に行きたいなら地下駐車場から行くといい」
蝶男の話を疑いの眼差しで聞く。
「地下は作りが雑だからすぐに着けるはずだよ」
「言われたとおりに動くと思う?正体も見せない男のアドバイスを信じると?」
何がおかしいのか。蝶男は含み笑いをしてさらにあたしを苛立たせた。
「でも、ミステリ感があるほうがわくわくするだろう?」
「笑えない」
「他に行くべき道がないのは確かだろう?あの長い道のりを越えられるはずがない」
蝶男は正しい。百年以上いるカンダタですら空の穴には着けていない。じゃあ、蝶男の助言を信じる?あたしは他人を信じるほど馬鹿じゃない。
悩んで迷うあたしは口を閉ざす。あたしが黙ると代わりにハクが抑えていた憤怒を爆発させた。
ハクは自前の鉤爪と牙で突進し、棚ごと蝶男を押し潰そうとする。
実体を持たないハクでは押し潰すどころか棚にも触れられない。ハクの体は棚をすり抜けて消える。
あたしはハクを追い駆けて向かいの棚へと回り込む。蝶男の顔を拝もうとライトを照らす。
そこにいるはずの蝶男はいなくなって、どこからかあの苛立つ声が聞こえてきた。
「君のお友達にもよろしく言っておいてくれ」
伝えるつもりのない伝言を残して黒蝶と男の言葉は闇の陰に溶けていった。
「何よ。あれ、あんたの知り合い?」
あれほどの憎悪をむき出しにしていたハクだったのにまた呆けた顔に戻って首を傾げる。この鳥頭は嫌悪も忘れてしまうようね。
地下駐車場、ね。
蝶男の助言を信じるわけでもないけれど、ひとつの案として頭の片隅に置いたのは彼の言う通りでこれよりの良案がなかったからだった。
駅の時でもそうだった。こいつははっきりと姿を見せない。
「あんた、何なの?地獄の住人?それとも神様の使い?」
「どちらでもないかな。例えるなら旅行者だ」
男の声色は優しく甘い。でも、その口調はあたしを茶化して見下していた。そこが気に食わなかった。
「大した人ね。あたしたちの行動を観て楽しんでいたの?鬼に食われてしまえばいいのに」
「ひどい言いがかりだ。これでも、君を助けてあげたのに」
どういうことか聞こうした途端、脳裏に浮かぶあの光景。鬼と鬼が殺し合う、不可解な出来事。
「あれ、あなたの仕業?」
「お陰で君は無事だろう」
彼の正体は見当もつかない。鬼を従えているのならカンダタと同じ囚人ではなさそうね。だとしたら、鬼の番人?それとも空の穴にいる神?
身を強張らせて棚の裏側にいる蝶男を睨む。あたしの意図を読み取った彼は慌てて取り繕う。
「害を加えようとか考えていないよ。君を助けたいんだ」
「ありきたりな台詞ね」
「本当さ、アドバイスだってある。空の穴に行きたいなら地下駐車場から行くといい」
蝶男の話を疑いの眼差しで聞く。
「地下は作りが雑だからすぐに着けるはずだよ」
「言われたとおりに動くと思う?正体も見せない男のアドバイスを信じると?」
何がおかしいのか。蝶男は含み笑いをしてさらにあたしを苛立たせた。
「でも、ミステリ感があるほうがわくわくするだろう?」
「笑えない」
「他に行くべき道がないのは確かだろう?あの長い道のりを越えられるはずがない」
蝶男は正しい。百年以上いるカンダタですら空の穴には着けていない。じゃあ、蝶男の助言を信じる?あたしは他人を信じるほど馬鹿じゃない。
悩んで迷うあたしは口を閉ざす。あたしが黙ると代わりにハクが抑えていた憤怒を爆発させた。
ハクは自前の鉤爪と牙で突進し、棚ごと蝶男を押し潰そうとする。
実体を持たないハクでは押し潰すどころか棚にも触れられない。ハクの体は棚をすり抜けて消える。
あたしはハクを追い駆けて向かいの棚へと回り込む。蝶男の顔を拝もうとライトを照らす。
そこにいるはずの蝶男はいなくなって、どこからかあの苛立つ声が聞こえてきた。
「君のお友達にもよろしく言っておいてくれ」
伝えるつもりのない伝言を残して黒蝶と男の言葉は闇の陰に溶けていった。
「何よ。あれ、あんたの知り合い?」
あれほどの憎悪をむき出しにしていたハクだったのにまた呆けた顔に戻って首を傾げる。この鳥頭は嫌悪も忘れてしまうようね。
地下駐車場、ね。
蝶男の助言を信じるわけでもないけれど、ひとつの案として頭の片隅に置いたのは彼の言う通りでこれよりの良案がなかったからだった。
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