糸と蜘蛛

犬若丸

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1章 神様が作った実験場

魂のプログラム 10

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 腰に走った電撃は体中に麻痺を起こし、脚から力が抜ける。カンダタは床に這うように寝そべる。
  「現代ではこんな護身刀もあるんだぜ」
  光弥は黒く四角いそれを見せびらかして笑う。
  「スタンガンさ。あんたが地獄でヒキコモリをしている間に人類は大きく前進していたわけさ」
  「あ、そこ、に、おとし、たのは、おま、えら、だろ」
  痺れが身体を縛り、舌と顎が思うように動かせない。回らない舌で言葉を吐き出す。抵抗できるものが欲しかった。
  「それは因果応報ってやつさ。生前のあんたが悪いんだ。さて、さっきの回答だけど、現世の魂がハザマに流れて、輪廻に洗われる。俺たちは輪廻を効率よく廻してんのさ。その過程で暴れる奴がいるから大人しくしてもらってる。この部屋にいる奴らがそれさ。感情を抑制しているんだ。あんたみたいな囚人には違うプログラムをすることになってる。俺たちを悪だと言われるのは心外だね」
  カンダタは光弥を睨む。口角が上がった彼の頬を殴りたい。なのに、痺れは無慈悲にカンダタを縛り続け、拳も握れなかった。
  「親父に内緒にしてさ、ショックを与えて追い詰めたら変化があるかなって考えたけど、これも駄目だったな。つまんない人間だね。親父は何に怯えてんだか」
  「な、にを期待、した?」
  「人の皮が剥がれるとこ。皮の下はどんなのがいるんだろうなって。でも、飽きた。魂を読み込めば何かわかるだろ」
  光弥はスタンガンを工具箱にしまうと、代わりにドリルを出す。コードレスの電動ドリルだ。ぐるぐる巻きの錐が高速で回転するその様子は女性の頭部あった穴を連想させた。あの電撃よりも恐ろしいものが光弥の手の中にある。
  身体は動かせない。肘はあげられるがそれだけだ。逃げられない。首だけでも避けようとしても光弥が頭部を抑える。カンダタの顔半分は覆われ、その握力は頬を冷たい床へと押し付ける。
  「やめ、て、くれ」
 懇願しか出なかった。無駄なことだった。
 「ちょっとやりにくいけど我慢してくれよ」
 穴を空けるだけの工具が向けられる。耳障りな音が近づく。光弥の握力が強くなって、皮膚と金属の先端が触れた。ドリルの音とカンダタの悲鳴が重なった。

 騒がしいわね。
 サイレンが離れの館の奥にまで届く。
 障子を開けて外を覗く。するとまた天鳥が目前に現れる。
 「眠れませんか?」
 威圧のない、気遣われた言葉。彼女のそれは偽りだと見抜いていた。彼女の優しさは全て監視から来るものだった。
 「夜もない空なのに寝る必要もないじゃない。それに何よ。あのサイレン。休めないじゃない」
 「申し訳ございません」
 「気分も変えたいし、探索をしてみたいの。中島だけでも駄目かしら」
 「それは危険です。獣が檻から脱走したと報告がありました。ここでしたら安全ですので室内でお寛ぎ下さい」
 申し訳ないと思うなら申し訳ないと言う顔をしてほしいよね。
 アトリは無表情に頭を下げて、すぐに顔を上げる。その顔にも感情はなかった。
「少しくらいいいでしょう?こんなところにいたら憂鬱になるわ」
 貧乏ゆすりをするように片足を揺らして髪を掻き上げる。
「申し訳ございません」
 天鳥がまた頭を下げる。
「危険なな獣ってどんなの?」
「申し訳ございません」
「さっきからそればっかり。何に謝ってるの?」
「申し訳ございません」
 あたしは口を閉ざして天鳥を見る。少し考えてから言っててみる。
「昨晩の夕食はロールキャベツだったの」
「申し訳ございません」
 あたしの独り言でも関係ない。天鳥はあたしに反応して意味もなく謝罪する。あたしの溜息でさえ「申し訳ございません」と返す。
 相手にしたら疲れるわね。
 障子を閉じる。その直後に天鳥は同じ台詞を繰り返して頭を下げる。
 ポンコツな彼女はあたしを外に出すつもりはないらしい。トイレに行こうとしても後ろからついてくる。本当に不快だわ。
 あたしは檻の獣と一緒じゃない。こんな対応なら家に帰すっていうのも怪しくなる。
 奴らがとる行動で考えられるのはこのまま軟禁、もしくは光弥が言っていた魂のプログラム。
 楽なのはプログラムよね。そういう傾向はみられないけれど、兆候があった時にはすでに遅いかもしれない。
 ハクはまだなの?探し物を頼んでからかなりの時間が経っている。ハクを待たずに脱出すべきかしら。
 それ以前にこの部屋から出る術が思いつかない。出入り口には天鳥がいるし。
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