63 / 644
1章 神様が作った実験場
魂のプログラム 11
しおりを挟む
あたしは一人、広い部屋をうろうろと歩き回り、脱出口を脳内で探す。
そうね、弥の話を整理しましょうか。あいつは白糸と白鋏の全てを話していない。でも、いくつかヒントはあった。「エスパーまがい」「空間さえも切ってしまう」
話の端々にそう言っていた。
それってあたしには念動力とか千里眼みたいな能力があるってことよね。どちらもあたしはできない。白糸は物をくっつけるぐらいしかできないし、白鋏も物を切るだけ。
物を切る。空間を切る。もしかして。
ちょっとした発想の転換。本当にそれができるのかさえ怪しい。
障子越しの天鳥を伺う。陰のシルエットとして映る彼女はあたしを気にしていないようだった。本心からあいつらを信じていると勘違いしているみたいね。
奴らからしてみればあたしは一般的な女子高生で、浅はかで未熟だと見下している。
その油断が脱出の好機だった。ほかに思いつく案もない。
あたしは白鋏を握る。
実在しているものを想像したほうがわかりやすいわね。なら、試しにハクを想像してみよう。
繋がって。深呼吸をして祈る。
布を切る感覚で何もない空間を裂く。
肩と同じくらいの高さに白鋏を構えて宙に刃をたてたまま、床まで下げる。
白い刃は通るとまさに空間をさくようにして楕円形の白い物体が浮かんだ。高さはあたしの肩と同じ。幅は1m。厚さは紙よりも薄い。
何に例えるべきかしら。得体の知れないその物体を恐れながらも観察してどう対応すべきなのか考えた。
あたしの考えが正しいのならこの先にハクがいるはず。
思い切って発光する楕円へと飛び込む。
着地は最悪だった。
脚が地に着いたと思ったら、その地は円形になっていて。あたしは謎の円形に体重を乗せたまま転がってバランスを整えられずに床に腰をぶつける。
痛みで唸っているとハクがきょとんとした顔であたしを見ていた。
寝殿でカンダタを探しているハクがあたしの目の前にいる。あたしの思いつきは正しかったみたいね。白鋏はテレポートの能力があった。
「あんたがさっさと戻ってくれば腰をぶつけずに済んだのに」
ハクが悪いわけでもないのに眉と頭を下げる。一応、詫びているようね。
「まぁ、いいわ。ここはどこなの?」
立ち上がって周囲を確認する。あたしが飛び込んだ楕円形の光はなくなっていて、妙な部屋があたしたちを囲む。
あたしが見てきたのは障子やすだれで区切られた部屋なのにハクがいたそこは襖が囲む部屋だった。その一面にはお札が貼られて戸を閉じてある。畳には無数の花瓶が立てられていて、ひと瓶に一輪の彼岸花が生けていた。
あの札は何?やばいものでもいるわけ?
固く閉ざす襖を不気味に想いながらも眺めていると奥からゆっくり小さな泣き声が流れてくる。すずり声、潜り声、様々な音が重なった泣き声だった。4、5人ぐらいかしら、いや、もっといるわね。
彼岸花、襖を閉じる札。背筋に走る悪寒はその先の危険を報せる。
「行こう、ハク」
反対側の襖を開ける。ここは嫌な感じがする。
「ハク、早く」
あたしと違ってハクはお札で閉じた襖が気になるらしい。
「ハク!」
度目の呼びかけでやっと応えてくれた。後悔を残す足取りであたしの後を付いてくる。
天井の電光、床に敷かれた緑の保護シート。間違いない。ここは寝殿の地下ね。
古臭いのはこの気味の悪い部屋だけであとはあたしの時代にあるものばかり。
「それで、カンダタは見つけたの?」
ハクにお願いしていたものだ。するとハクはまた申し訳ないと頭を下げる。
やっぱり、頼るんじゃなかった。
「別にいいわよ。期待していたのはあたしだし。頼んだあたしが悪かったのよ。それにこれがあればなんとかなりそうだし」
白鋏があればこの問題も解決できる。これでカンダタを見つけて、さっさとここから離れよう。
白いハサミ一本で解決できるはずがないとハクは疑いの目をこちらに向ける。
「疑えばいいわ。あたしは先に言ってるから」
さっきと同じように白鋏で空間を裂いて別の場所へと移動する。
今度はカンダタを想像させて。
裂かれた隙間から光が漏れる。また転びたくなかったあたしは慎重に片脚からゆっくりと入れる。足裏の感触を確かめる。
ちゃんとした床みたいね。周囲に物も段差もない。身体を潜らせて移動先へと着く。
ここも地下みたいね。でも、カンダタはいない。
ハクの疑いの目がより一層強くなる。睨みつけるハクの目はあたしに文句を言っている。
「何よ。文句なら聞かないわよ」
そこは神経質な白の廊下が一本続いている所だった。汚れは許さず、窓一枚もつけられない。
真っ白の通路が伸びているだけのそこは案内されてない場所だった。全てを乗り潰すような白い静寂に圧倒されて一歩踏み出すのを恐れる。
震えているようなゆっくりとした足取りで真っ白な床を踏む。
中に入れそうな部屋はいくつもあったけれど、ドアを開ける勇気はなかった。そうして怯えながら宛てもなくカンダタを探しているうちに奥へと迷い込んで、ついには行き止まりになった。
行き止まりといってもドアが1つあって、いつでも中に入る人を待っていた。「子供部屋」と言う文字が白に統一された完全な空間に不釣り合いな気がしてきて不気味だった。
行く場所もなく、あたしはドアノブを回した。
静かにドア開いて、静かに侵入する。家具のように鎮座するそれらに目を見開いた。
肘置きと足拘束ベルトがついた椅子、壁にかけられた鉄製の刑具。店に並ぶのは爪を剥ぐ道具と皮剥ぎ用のナイフ。
純白には似合わない道具ばかり。
私は暴力的な道具たちを見渡しながら棚の隣にある机の引き出しを開ける。
中にはメスやハサミ、見たことのない小道具がきれいな列を作って並んでいる。
医者や拷問官が使えそうなものの中に声を録音するレコーダーがあった。再生ボタン押してみれば幼い少年の叫び声だ純白の拷問部屋に響く。
ハクは肩を震わせて聞きたくないと耳を塞ぐ。
思ったより大きな音声はうるさく、耳障りですぐに停止ボタンを押す。
「別のところを探したほうがよさそうね」
眉を垂らして今にも泣きそうになっているハクに言う。
引き出しをしまって子供部屋から出る。
とにかくカンダタを探さないとね。
そうね、弥の話を整理しましょうか。あいつは白糸と白鋏の全てを話していない。でも、いくつかヒントはあった。「エスパーまがい」「空間さえも切ってしまう」
話の端々にそう言っていた。
それってあたしには念動力とか千里眼みたいな能力があるってことよね。どちらもあたしはできない。白糸は物をくっつけるぐらいしかできないし、白鋏も物を切るだけ。
物を切る。空間を切る。もしかして。
ちょっとした発想の転換。本当にそれができるのかさえ怪しい。
障子越しの天鳥を伺う。陰のシルエットとして映る彼女はあたしを気にしていないようだった。本心からあいつらを信じていると勘違いしているみたいね。
奴らからしてみればあたしは一般的な女子高生で、浅はかで未熟だと見下している。
その油断が脱出の好機だった。ほかに思いつく案もない。
あたしは白鋏を握る。
実在しているものを想像したほうがわかりやすいわね。なら、試しにハクを想像してみよう。
繋がって。深呼吸をして祈る。
布を切る感覚で何もない空間を裂く。
肩と同じくらいの高さに白鋏を構えて宙に刃をたてたまま、床まで下げる。
白い刃は通るとまさに空間をさくようにして楕円形の白い物体が浮かんだ。高さはあたしの肩と同じ。幅は1m。厚さは紙よりも薄い。
何に例えるべきかしら。得体の知れないその物体を恐れながらも観察してどう対応すべきなのか考えた。
あたしの考えが正しいのならこの先にハクがいるはず。
思い切って発光する楕円へと飛び込む。
着地は最悪だった。
脚が地に着いたと思ったら、その地は円形になっていて。あたしは謎の円形に体重を乗せたまま転がってバランスを整えられずに床に腰をぶつける。
痛みで唸っているとハクがきょとんとした顔であたしを見ていた。
寝殿でカンダタを探しているハクがあたしの目の前にいる。あたしの思いつきは正しかったみたいね。白鋏はテレポートの能力があった。
「あんたがさっさと戻ってくれば腰をぶつけずに済んだのに」
ハクが悪いわけでもないのに眉と頭を下げる。一応、詫びているようね。
「まぁ、いいわ。ここはどこなの?」
立ち上がって周囲を確認する。あたしが飛び込んだ楕円形の光はなくなっていて、妙な部屋があたしたちを囲む。
あたしが見てきたのは障子やすだれで区切られた部屋なのにハクがいたそこは襖が囲む部屋だった。その一面にはお札が貼られて戸を閉じてある。畳には無数の花瓶が立てられていて、ひと瓶に一輪の彼岸花が生けていた。
あの札は何?やばいものでもいるわけ?
固く閉ざす襖を不気味に想いながらも眺めていると奥からゆっくり小さな泣き声が流れてくる。すずり声、潜り声、様々な音が重なった泣き声だった。4、5人ぐらいかしら、いや、もっといるわね。
彼岸花、襖を閉じる札。背筋に走る悪寒はその先の危険を報せる。
「行こう、ハク」
反対側の襖を開ける。ここは嫌な感じがする。
「ハク、早く」
あたしと違ってハクはお札で閉じた襖が気になるらしい。
「ハク!」
度目の呼びかけでやっと応えてくれた。後悔を残す足取りであたしの後を付いてくる。
天井の電光、床に敷かれた緑の保護シート。間違いない。ここは寝殿の地下ね。
古臭いのはこの気味の悪い部屋だけであとはあたしの時代にあるものばかり。
「それで、カンダタは見つけたの?」
ハクにお願いしていたものだ。するとハクはまた申し訳ないと頭を下げる。
やっぱり、頼るんじゃなかった。
「別にいいわよ。期待していたのはあたしだし。頼んだあたしが悪かったのよ。それにこれがあればなんとかなりそうだし」
白鋏があればこの問題も解決できる。これでカンダタを見つけて、さっさとここから離れよう。
白いハサミ一本で解決できるはずがないとハクは疑いの目をこちらに向ける。
「疑えばいいわ。あたしは先に言ってるから」
さっきと同じように白鋏で空間を裂いて別の場所へと移動する。
今度はカンダタを想像させて。
裂かれた隙間から光が漏れる。また転びたくなかったあたしは慎重に片脚からゆっくりと入れる。足裏の感触を確かめる。
ちゃんとした床みたいね。周囲に物も段差もない。身体を潜らせて移動先へと着く。
ここも地下みたいね。でも、カンダタはいない。
ハクの疑いの目がより一層強くなる。睨みつけるハクの目はあたしに文句を言っている。
「何よ。文句なら聞かないわよ」
そこは神経質な白の廊下が一本続いている所だった。汚れは許さず、窓一枚もつけられない。
真っ白の通路が伸びているだけのそこは案内されてない場所だった。全てを乗り潰すような白い静寂に圧倒されて一歩踏み出すのを恐れる。
震えているようなゆっくりとした足取りで真っ白な床を踏む。
中に入れそうな部屋はいくつもあったけれど、ドアを開ける勇気はなかった。そうして怯えながら宛てもなくカンダタを探しているうちに奥へと迷い込んで、ついには行き止まりになった。
行き止まりといってもドアが1つあって、いつでも中に入る人を待っていた。「子供部屋」と言う文字が白に統一された完全な空間に不釣り合いな気がしてきて不気味だった。
行く場所もなく、あたしはドアノブを回した。
静かにドア開いて、静かに侵入する。家具のように鎮座するそれらに目を見開いた。
肘置きと足拘束ベルトがついた椅子、壁にかけられた鉄製の刑具。店に並ぶのは爪を剥ぐ道具と皮剥ぎ用のナイフ。
純白には似合わない道具ばかり。
私は暴力的な道具たちを見渡しながら棚の隣にある机の引き出しを開ける。
中にはメスやハサミ、見たことのない小道具がきれいな列を作って並んでいる。
医者や拷問官が使えそうなものの中に声を録音するレコーダーがあった。再生ボタン押してみれば幼い少年の叫び声だ純白の拷問部屋に響く。
ハクは肩を震わせて聞きたくないと耳を塞ぐ。
思ったより大きな音声はうるさく、耳障りですぐに停止ボタンを押す。
「別のところを探したほうがよさそうね」
眉を垂らして今にも泣きそうになっているハクに言う。
引き出しをしまって子供部屋から出る。
とにかくカンダタを探さないとね。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる