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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 4
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なるべく彼女の近くに寄りたいカンダタはゴミ袋を脇にどかし、林檎らしき果実を蹴って隅に寄せる。そうして作った隙間に膝をついた。
「君は、紅柘榴か?」
迷った末、声をかける。質問は適当だ。内容が重要ではなく、会話をできるか知りたかった。
紅柘榴に似たものは微動だにせず、切っていた腐肉を見つめる。美しいはずの彼女の黒髪は洗い流さなかった油や頭垢により、ベタつき乱れていた。
手入れを忘れた髪が彼女の顔を隠している。カンダタは首を傾け、その内側を覗こうとする。乱れた黒髪の間から紅柘榴の横顔を捉えた。途端、ぐるりと彼女の顔が回り、カンダタと目が合う。
呼びかけても無反応だったのが、血走った目を合わせにきた紅柘榴に心臓が止まりかけた。
膝をついていたカンダタはその体勢のまま後ろへ退く。紅柘榴は八重歯を剥き出しにし、左手に持った包丁を掲げながら後退していくこちらに襲いかかろうとする。
呼吸も忘れていたカンダタは迫る紅柘榴を見つめるだけしかできなかった。思考を取り戻したのはゴミが詰まったビニール袋が背中に当たり、それ以上退けなくなった時であった。
その時にはすでに遅く、包丁は肩に刺さり、貫く。血が流れ、全身が痺れたような感覚がする。
忘れていた呼吸をしようと口を大きく開く。その隙間を待っていた紅柘榴は右手に持った腐肉の塊を口腔にねじ込んできた。
これもまた予想外であり、口に広がる腐った味を全身で拒絶しようともがく。
口腔から侵入する異物を吐き出そうと喉はえずく。対して紅柘榴は馬乗りになり、逆流してくる腐肉を抑える。
跨る紅柘榴を退かそうとカンダタは肩を押し、腹を押し、足をばたつかせたが、彼女は岩のように重い。カンダタの腕力だでは抵抗にも値しない。
口を閉じようにも彼女の左手が下顎の歯を抑えつけている。無理に開いた喉にまた腐肉を流す。
抵抗なんてものは意味がなかった。手足を動かすだけで紅柘榴の支障にはならなかった。
流し終えた腐肉の次に別の腐肉を流す。カンダタが苦しく叫び吐き出しても紅柘榴は感情を露わにせずに同じ作業を繰り返していた。
抵抗しても更に苦しくだけであった。抵抗が弱まり、腐肉やゲロド状の果物が隙間なく胃に詰まったでは終わらず、紅柘榴の作業は延々に続いた。
異物が流れていき、喉を通り、すぐさま別の異物を押し込まれる。胃が破裂しまいそうになり、異物が誤って気管に侵入しても無慈悲な行為は止まらない。生理的に出た涙で視界が滲む。
胃に入りきらなくなり、痙攣を起こす。えずくとは比べ物にならない嘔気があり、胃に入りきらなくなった異物は一気に逆流する。
吐き出す前に紅柘榴が口を覆うように両の頬を鷲掴みにする。それだけでは止まらず、唇と手の合間から吐瀉物が吹き出した。
紅柘榴の蛮行は止まなかった。
手先が震え、体温が下がっても気管に詰まり呼吸ができなくなったても彼女は怒りで我を忘れたように同じ行為を繰り返す。
カンダタは白目をむき、朦朧とした意識はやがて途絶えた。
「君は、紅柘榴か?」
迷った末、声をかける。質問は適当だ。内容が重要ではなく、会話をできるか知りたかった。
紅柘榴に似たものは微動だにせず、切っていた腐肉を見つめる。美しいはずの彼女の黒髪は洗い流さなかった油や頭垢により、ベタつき乱れていた。
手入れを忘れた髪が彼女の顔を隠している。カンダタは首を傾け、その内側を覗こうとする。乱れた黒髪の間から紅柘榴の横顔を捉えた。途端、ぐるりと彼女の顔が回り、カンダタと目が合う。
呼びかけても無反応だったのが、血走った目を合わせにきた紅柘榴に心臓が止まりかけた。
膝をついていたカンダタはその体勢のまま後ろへ退く。紅柘榴は八重歯を剥き出しにし、左手に持った包丁を掲げながら後退していくこちらに襲いかかろうとする。
呼吸も忘れていたカンダタは迫る紅柘榴を見つめるだけしかできなかった。思考を取り戻したのはゴミが詰まったビニール袋が背中に当たり、それ以上退けなくなった時であった。
その時にはすでに遅く、包丁は肩に刺さり、貫く。血が流れ、全身が痺れたような感覚がする。
忘れていた呼吸をしようと口を大きく開く。その隙間を待っていた紅柘榴は右手に持った腐肉の塊を口腔にねじ込んできた。
これもまた予想外であり、口に広がる腐った味を全身で拒絶しようともがく。
口腔から侵入する異物を吐き出そうと喉はえずく。対して紅柘榴は馬乗りになり、逆流してくる腐肉を抑える。
跨る紅柘榴を退かそうとカンダタは肩を押し、腹を押し、足をばたつかせたが、彼女は岩のように重い。カンダタの腕力だでは抵抗にも値しない。
口を閉じようにも彼女の左手が下顎の歯を抑えつけている。無理に開いた喉にまた腐肉を流す。
抵抗なんてものは意味がなかった。手足を動かすだけで紅柘榴の支障にはならなかった。
流し終えた腐肉の次に別の腐肉を流す。カンダタが苦しく叫び吐き出しても紅柘榴は感情を露わにせずに同じ作業を繰り返していた。
抵抗しても更に苦しくだけであった。抵抗が弱まり、腐肉やゲロド状の果物が隙間なく胃に詰まったでは終わらず、紅柘榴の作業は延々に続いた。
異物が流れていき、喉を通り、すぐさま別の異物を押し込まれる。胃が破裂しまいそうになり、異物が誤って気管に侵入しても無慈悲な行為は止まらない。生理的に出た涙で視界が滲む。
胃に入りきらなくなり、痙攣を起こす。えずくとは比べ物にならない嘔気があり、胃に入りきらなくなった異物は一気に逆流する。
吐き出す前に紅柘榴が口を覆うように両の頬を鷲掴みにする。それだけでは止まらず、唇と手の合間から吐瀉物が吹き出した。
紅柘榴の蛮行は止まなかった。
手先が震え、体温が下がっても気管に詰まり呼吸ができなくなったても彼女は怒りで我を忘れたように同じ行為を繰り返す。
カンダタは白目をむき、朦朧とした意識はやがて途絶えた。
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