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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 3
しおりを挟むあっさりと離島に着くと土と木で作られた竪穴住居があり、入り口から長い階段を降りていけば本殿とは別構想の地下がある。人工で造られたビーチのようで現世から流れてきた液体が絶え間なく波となって押し寄せては引いている。
光弥にとってそこはゴミ処理場のイメージが強い。
現世から流れて漂流場に溜まるほとんどの魂は人の形に戻っておらず、固形と液体の間のようなスライム状の黒い物質としてとどまっている。
多くの人間は敢えて考えないようにしているが、現世では日常茶飯事に人が死んでいる。竪穴に溜まる魂の数は千はくだらない。
蝶男の計画ではハザマを崩壊させた後現世に行く予定らしい。
光弥が聞いているのはそこまでだ。現世で何をするのかは知らない。おそらく瑠璃を探すのだろう。
地獄にもハザマにも瑠璃はいなかった。だとすれば行方知れずになった彼女の行方は現世だ。
なんとなくそうだろうなと軽く想像はできていたものの光弥にはもう関係のない話だ。
現世に着いたら荒野は母に会うのだ。病床で眠るもう1人の自分を依代にして母と呼べる人と暮らすのだ。
漂流場は現世とハザマとの少ない接触地点だ。そこから現世に行くのだ。
だが、光弥の楽天的思考を否定するように清音が呟く。
「カンダタがいない」
「は?」
光弥からアホな声が漏れる。
悪夢に夢中になって目を覚ます様子がなかったカンダタは重荷にしかならない。
この大荷物を清音は漂流場に投げ捨てた。どうせカンダタも現世に連れて行くつもりだったので問題はないと判断していた。
波は黒く、水面はそこが見えない。カンダタは髪も衣類も黒い。見つけにくいだけだと思われる。
清音はそれも踏まえて確信して言っているのか。なんだか不安が募る。不安要素が多い。
「夢見草の効果が予想より早く切れたのかも」
そう考えるのが妥当だろう。しかし、そこもまた光弥の不安を募らせる。
離島に着き、階段を下った。移動手段も小舟で行けば障害物が少なく見渡が良い。階段だって一本道だ。そこまですれ違った人はいない。
「私とアカメ君は建物の周りを見てくる。やっぱり待って。やっぱりアカメ君一人で行って。私と光弥はここで探す」
「え、ちょっと」
清音の指示に反対したかった。建物の影に隠れていたなら光弥たちともすれ違わないだろう。探すのは1人で充分だ。
ただ、彼女と2人きりになるのは何かと気まずくうるさく気怠い。しかし、抗議できる理想的な言い分を持ち合わせていない。
感情論だけでは聞き入れてくれない。清音も光弥の表情から心の内を察していたが、無視してアカメの少年を行かせる。
落ち着きのない心持ちで漂流場の水面に入る。黒い水面は髪の毛やら目玉やら内臓やらが浮いては沈んみ、粘着質の液体はズボンの裾に張り付く。
水面に沈んでいるであろうカンダタを探す気にはなれず、また清音と二人っきりの時間は拷問に近いものがあった。
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