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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 9
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カンダタの手は胸から腹に下る。そこで手が止まった。
衣服の上からでもわかる。腹の中に丸い痼りのようなものがある。
痼りの形をより明確に捉えようと腹を強く押す。刹那に紅柘榴が豹変した。
握力が増し、カンダタの手を軽く手折る。視界がひっくり返り、寝台から落とされた。
紅柘榴に押し返されたのだ。馬乗りになり、優位にいたはずのカンダタは自分が力負けしたのだと理解できずにいた。混乱しているせいか折られた腕も痛みを感じない。
気が付けば紅柘榴の手が離れている。カンダタを求め、握っていたその手から鉤爪が生え、白い肌は黒く変色している。
カンダタに跨り、見下ろす瞳は獣の色をした金色。鼻と顎は大きく伸び、口から牙が除き、涎を垂らす。
偽物の紅柘榴が鬼へと変形した。その事実をカンダタは飲めずに鬼を見上げている。
好物を前にした鬼には堪らずにカンダタを食おうとする。
急接近してくる牙。混乱しても本能は動く。カンダタは脚を上げ、精一杯に鬼の腹を蹴った。
抵抗する力は足を飛ばし、寝台の上に転がった。
予想外の脚力に鬼は警戒し、構えながらカンダタを見る。カンダタもまた鬼を睨めつけながら立ち上がり、鬼の動向を計る。
混乱した頭は落ち着き、状況が見えてくる。項の疼きが強くなる。
痼りに触れた途端、鬼に変貌した。これが本来の姿なのだろう。あの痼りに触れたくないようだ。脱出の糸口かもしれない。
姿形が似た紅柘榴だったら躊躇したが、鬼ならばそれもいらない。
全身が疼く。黒蝶が乾いている。カンダタも乾いていた。寝台で身構える鬼は大皿に乗るご馳走に見えた。
暗闇に静寂が戻った。残っている音は粘着音だけだ。
腹を裂き、そこから溢れる腸を掬い、それを口に運ぼうとしてカンダタは我に返った。
急ぎ、口から肉を離して床に投げ捨てる。
自らの行動に嫌悪しつつも裂いた腹の中を弄り凝りを探す。
腹の中には丸い石があった。その桃色の輝きは宝石に近いが、珠の中心には「身」とひと文字だけ書かれていた。
手に持つとそれは粉々に砕けた。手の平に残った粉末を払い、カンダタは寝台から降りた。
折れていたはずの手が治っている。疼きも消えていた。乾き潤を求めるあの衝動はしばらくこないことを祈る。
この寝室には何もない。鬼を倒したことでもしかしたら何か変わるかも起きるかもしれないと一抹の期待で探していたが、変化はなかった。
手掛かりだと思った珠は持った途端に砕けてしまった。
桃色の「身」と刻まれた魂。
他の部屋に行けばまだあるだろうか。
各部屋に入る紅柘榴もまた鬼に変貌するだろう。砕けた珠は手掛かりになるとは限らない。
だが、塊人は鬼を殺せる囚人がいるとは想定していない。
寝室から出る一歩前でカンダタは立ち止まり、振り返る。
埃で汚れた心内は血みどろ色に染まり、黒い肉片が散らばっている。内臓や千切れた腸もある。
これを作ったのは誰か。なぜこんなにも汚れてしまったのか。
やったのはカンダタだ。紅柘榴に似た者を殺したのもカンダタだ。いや、あれは鬼だ。紅柘榴ではない。
そうだ。これでよかったのだ。何も間違っていない。
カンダタは背を向け、一歩踏み出す。
衣服の上からでもわかる。腹の中に丸い痼りのようなものがある。
痼りの形をより明確に捉えようと腹を強く押す。刹那に紅柘榴が豹変した。
握力が増し、カンダタの手を軽く手折る。視界がひっくり返り、寝台から落とされた。
紅柘榴に押し返されたのだ。馬乗りになり、優位にいたはずのカンダタは自分が力負けしたのだと理解できずにいた。混乱しているせいか折られた腕も痛みを感じない。
気が付けば紅柘榴の手が離れている。カンダタを求め、握っていたその手から鉤爪が生え、白い肌は黒く変色している。
カンダタに跨り、見下ろす瞳は獣の色をした金色。鼻と顎は大きく伸び、口から牙が除き、涎を垂らす。
偽物の紅柘榴が鬼へと変形した。その事実をカンダタは飲めずに鬼を見上げている。
好物を前にした鬼には堪らずにカンダタを食おうとする。
急接近してくる牙。混乱しても本能は動く。カンダタは脚を上げ、精一杯に鬼の腹を蹴った。
抵抗する力は足を飛ばし、寝台の上に転がった。
予想外の脚力に鬼は警戒し、構えながらカンダタを見る。カンダタもまた鬼を睨めつけながら立ち上がり、鬼の動向を計る。
混乱した頭は落ち着き、状況が見えてくる。項の疼きが強くなる。
痼りに触れた途端、鬼に変貌した。これが本来の姿なのだろう。あの痼りに触れたくないようだ。脱出の糸口かもしれない。
姿形が似た紅柘榴だったら躊躇したが、鬼ならばそれもいらない。
全身が疼く。黒蝶が乾いている。カンダタも乾いていた。寝台で身構える鬼は大皿に乗るご馳走に見えた。
暗闇に静寂が戻った。残っている音は粘着音だけだ。
腹を裂き、そこから溢れる腸を掬い、それを口に運ぼうとしてカンダタは我に返った。
急ぎ、口から肉を離して床に投げ捨てる。
自らの行動に嫌悪しつつも裂いた腹の中を弄り凝りを探す。
腹の中には丸い石があった。その桃色の輝きは宝石に近いが、珠の中心には「身」とひと文字だけ書かれていた。
手に持つとそれは粉々に砕けた。手の平に残った粉末を払い、カンダタは寝台から降りた。
折れていたはずの手が治っている。疼きも消えていた。乾き潤を求めるあの衝動はしばらくこないことを祈る。
この寝室には何もない。鬼を倒したことでもしかしたら何か変わるかも起きるかもしれないと一抹の期待で探していたが、変化はなかった。
手掛かりだと思った珠は持った途端に砕けてしまった。
桃色の「身」と刻まれた魂。
他の部屋に行けばまだあるだろうか。
各部屋に入る紅柘榴もまた鬼に変貌するだろう。砕けた珠は手掛かりになるとは限らない。
だが、塊人は鬼を殺せる囚人がいるとは想定していない。
寝室から出る一歩前でカンダタは立ち止まり、振り返る。
埃で汚れた心内は血みどろ色に染まり、黒い肉片が散らばっている。内臓や千切れた腸もある。
これを作ったのは誰か。なぜこんなにも汚れてしまったのか。
やったのはカンダタだ。紅柘榴に似た者を殺したのもカンダタだ。いや、あれは鬼だ。紅柘榴ではない。
そうだ。これでよかったのだ。何も間違っていない。
カンダタは背を向け、一歩踏み出す。
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