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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 12
しおりを挟む玄関に立ち、漠然とする頭を少し揺らしながら寝起きの思考が回復するのを待った。
しばらく沈黙し、頭が起き始めたところで暗闇の部屋の攻略に頭を使う。
考えがまとまると暗闇の部屋に向かう。短時間で何度も死んでいると慣れてしまい、死の恐怖は薄れてしまった。
室内の暗闇をまさぐり、人形の感触を探る。前回と同じように進めば人形がカンダタを捕らえにくるが、敢えてその場に留まり、自ら接触を試みていた。
左手がゴムの感触を捉えた。細さと柔らかさからして腕だろう。カンダタが掴んでも動く気配はない。
左手で人形の顎、肩、足を滑らせように触れる。両手両足は揃っている。
人形を押し倒し、馬乗りになる。
首筋をなぞり脈を測る。掛け衿の下に手を潜り込ませ、胸を触れてみる。少しべたついたゴムの感触は人肌のものとは程遠い。
その調子で胸から腹とまさぐるが、珠が埋められているような痼りはない。
どの部屋も玉は鬼の体内から出た。こいつは鬼が化けた人形ではないのか。
カンダタが押し倒し馬乗りになっても抵抗しない。この部屋の人形は動いて当然だと言うのに人形のまま沈黙するのはおかしな話だ。本物の人形のようだ。
この人形も地獄のシステムの一部だ。動く条件があるはずだ。ねじ巻きと歯車で作動する絡繰の関係性と似ている。暗闇の部屋の人形たちは「部品」が必要なのだ。この場合、「状況」が「部品」になる。
一寸先の闇の中、カンダタが見遣ったのはその先にある閉ざされた扉だ。
人形の上から退き、カンダタは暗闇の中を駆け出した。その最中でいくつかの人形の手がカンダタを掠めたが、どの人形も捉えられなかった。
神風になった気分で駆け、暗闇に隠れたドアノブを回す。扉に鍵はなく、外側の向きで開く。扉向こうの部屋に転がり込もうとしたその直前に鬼の金切り声を聞いた。
振り向けば大きく聞く顎を開き、犬歯から喉仏までの口腔が丸見えになっていた。いくつもあった人形の中の1体だけ鬼が混ざっていたらしい。
咄嗟に身を屈め、カンダタの頭は大きな顎から逃れるが、鬼の本体から避けきれなかった。
鬼の胴体に衝突する。開かけた扉を背にし、今度はカンダタが押し出された。
鬼はカンダタの動きを封じようとしたが、全体重がのしかかってくる前にカンダタは股下を滑り、鬼の背後に立つ。そのまま背に飛び乗り、首に腕を巻きつかてから絞める。
喉に空気が通らなくなり、鬼は苦しいながらも呼吸を妨げるカンダタを払おうと胴を振るい、鉤爪をひっかけようとする。
暴れてもカンダタは落とされず、背中は鉤爪が届かないところであり、カンダタの衣を破いただけであった。
暴れれば暴れるほど体内の空気も少なくなる。鬼の動きは次第に鈍くなり、最後に泡を吹いた。床に倒れる寸前でカンダタは背中から降りた。
改めて室内を見渡す。そこにあるのは家族で囲む食卓と情報を与えるテレビと食を支える台所。どこからどう見ても居間だ。だが、やはり人の温もりらしきものはない。
カンダタが見て回ったどの部屋よりも大きい。
部屋の確認よりも先に鬼の腹に爪を立て裂く。中から出てきたのは赤色の珠。文字は「色」だ。
拾い、粉になるのを確認する。ふと周囲が明るくなったような気がした。
少しだけ明るくなったのはテレビに電源が入ったからだ。テレビの目に座る紅柘榴がいた。今までそこに彼女はいなかった。
テレビの画面は青くなったり、カラーバーだったり、モノスコープだったりと画面が切り替わっている。
テレビの前に置いてあるソファには紅柘榴が座っている。深く項垂れ、表情は長く乱れた黒髪によって隠れている。
カンダタは一歩一歩じっくりと味わうようにソファに近づきながら紅柘榴を観察するも髪の毛一本も揺れない。
人形と同じ置物だ。そう思えてしまうほど、座る彼女は静かであった。
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