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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 15
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居間は静寂に戻るの狙われているような視線はまだ感じる。黒蝶の疼きもある。
家の中を全て見回った。荷物置きも手洗い場も探せるところはもうない。
落ち着いた心音が静寂に落とされる。血が巡っているのがわかる。テレビの光に照らされながら呆然と立ち竦んでいた。待っていれば何か変化があるのではないかと思った。
そんなものいくら待ってもやってこない。信じたくない確信が強くなるだけだ。
「ははは」
その確信が事実として受け入れた時、カンダタから乾いた笑いが出た。
どうせ鬼になるのだからと幾度も偽の紅柘榴を殺してきた。必要なことだからと自分の心を騙し、罪に苛むこともせずひたすらに暴虐を繰り返していた。
だというのにカンダタに訪れたのは何か。何もない。それが結果だ。
泣き嘆くのがその場の正解だろうが、幸いにも笑うカンダタに不正解だと指摘するものはいない。
「ははっべに、べにべにっはははっ」
半ば自暴自棄になったカンダタは床に転がり、愛しい人の名を呼びながら狂ったように笑う。
ひとしきり笑い、一部だけ壁紙が剥がれた天井を眺める。
もうここに居座ってしまおうか。
漠然とした思考で浮かんだ一つの案。
ここに自由はない。娯楽もない。だが、幻は抱ける。偽物でも紅柘榴に殺され続けるのも悪くない。
そんな夢想が生まれるとそれを味わいたくなる。これが最善案だと思い込んでしまう。
カンダタも馬鹿げた甘い蜜に酔ってしまいたくなった。
甘い蜜の案に思い耽り、カンダタは瞑る。
少し休んだ後に寝室に向かおう。そこでこの現実を忘れてしまおう。
何もしなくていいと重い荷を下ろせば今まで感じなかった心労が湧き、手足が鉛となって動かなくなる。
このまま一眠りできそうな疲労だというのに、カンダタの奥底では名称がつけられない感情が燻っていた。
何が原動力なのかもわからない謎の感情はそのまま眠ろうとするカンダタを許さず、甘い蜜の案とは別の思考を模索していた。
第7層で目覚めてから途方もない闇を歩いた。テレビが詰まった山を横切り、いくつもの家もあった。
そこまでは何もなかった。カンダタが死んで復活するのは家の中の玄関だ。地獄を作った側の者たちは家中で試練を与えたいのだ。
第6層では、開始地点から逆に行くのが隠された塊人の通路だった。
どちらの層も弥が創ったものだ。ならば、発想が似た層があってもおかしくないのではないだろうか。
玄関はしっかりと調べていなかった。扉の開閉を確認しただけだ。
目を開け、カンダタは立ち上がった。
誰もいないはずの家にすすり声がどこからともなく聞こえてきた。
そういえば、カンダタがこの家に入った時も紅柘榴のすすり声によって惑わされ、導かれるように2階に上がった。
今度はすすり声は聞こえないような素振りで迷いなく玄関に行く。
この層は閉鎖された空間を作っている。その概念を強くさせる為に家の外まで作ったのだ。
外に繋がる扉の前、カンダタはドアノブを握る。閂が通った扉は動かない。
同情を誘うような紅柘榴のすすり声は今も聞こえてくる。
両耳を塞ぎたくなるが、そうすれば、扉は開かない。
扉は開こうと思えば開く。まだ閂が通っているのはカンダタに迷いがあるからだ。
すすり声を聞きながら、扉のその先にあるものを想像する。
蝶男が待っているだろう。清音もケイも奴の手駒になっている。そして、愛しい赤眼の子もそこにいる。
瑠璃もいるだろうか。隣にいれば煩わしいが、いないと背中を押してくれる人がいない。口悪く叱責するあの嫌味が恋しくなる時が来るとは思ってもいなかった。
家中に聞こえる誰かのすすり声は気にならなくなった。
ドアノブを回せばあっさりと開き、外の冷気に少しだけ驚いてしまった。家の臭いと熱気に慣れてしまったせいだ。
扉の先の外にはカンダタが歩いた道は地面ごとなくなっていた。闇の中にぽつりと家が浮いているようだ。
すすり声がしなくなり、カンダタは振り返る。立っていたはずの玄関や廊下、階段はなくなり、四角い石の部屋がひと部屋だけ存在していた。
これが正解なのか、カンダタにはわからない。ただ、戻れる道はなくなったのは確かだ。
腹を括り、息を吸う。吐くと同時に全身の力を抜き、闇の方へと傾ける。カンダタは奈落へ、更に深い地獄へと落ちていった。
家の中を全て見回った。荷物置きも手洗い場も探せるところはもうない。
落ち着いた心音が静寂に落とされる。血が巡っているのがわかる。テレビの光に照らされながら呆然と立ち竦んでいた。待っていれば何か変化があるのではないかと思った。
そんなものいくら待ってもやってこない。信じたくない確信が強くなるだけだ。
「ははは」
その確信が事実として受け入れた時、カンダタから乾いた笑いが出た。
どうせ鬼になるのだからと幾度も偽の紅柘榴を殺してきた。必要なことだからと自分の心を騙し、罪に苛むこともせずひたすらに暴虐を繰り返していた。
だというのにカンダタに訪れたのは何か。何もない。それが結果だ。
泣き嘆くのがその場の正解だろうが、幸いにも笑うカンダタに不正解だと指摘するものはいない。
「ははっべに、べにべにっはははっ」
半ば自暴自棄になったカンダタは床に転がり、愛しい人の名を呼びながら狂ったように笑う。
ひとしきり笑い、一部だけ壁紙が剥がれた天井を眺める。
もうここに居座ってしまおうか。
漠然とした思考で浮かんだ一つの案。
ここに自由はない。娯楽もない。だが、幻は抱ける。偽物でも紅柘榴に殺され続けるのも悪くない。
そんな夢想が生まれるとそれを味わいたくなる。これが最善案だと思い込んでしまう。
カンダタも馬鹿げた甘い蜜に酔ってしまいたくなった。
甘い蜜の案に思い耽り、カンダタは瞑る。
少し休んだ後に寝室に向かおう。そこでこの現実を忘れてしまおう。
何もしなくていいと重い荷を下ろせば今まで感じなかった心労が湧き、手足が鉛となって動かなくなる。
このまま一眠りできそうな疲労だというのに、カンダタの奥底では名称がつけられない感情が燻っていた。
何が原動力なのかもわからない謎の感情はそのまま眠ろうとするカンダタを許さず、甘い蜜の案とは別の思考を模索していた。
第7層で目覚めてから途方もない闇を歩いた。テレビが詰まった山を横切り、いくつもの家もあった。
そこまでは何もなかった。カンダタが死んで復活するのは家の中の玄関だ。地獄を作った側の者たちは家中で試練を与えたいのだ。
第6層では、開始地点から逆に行くのが隠された塊人の通路だった。
どちらの層も弥が創ったものだ。ならば、発想が似た層があってもおかしくないのではないだろうか。
玄関はしっかりと調べていなかった。扉の開閉を確認しただけだ。
目を開け、カンダタは立ち上がった。
誰もいないはずの家にすすり声がどこからともなく聞こえてきた。
そういえば、カンダタがこの家に入った時も紅柘榴のすすり声によって惑わされ、導かれるように2階に上がった。
今度はすすり声は聞こえないような素振りで迷いなく玄関に行く。
この層は閉鎖された空間を作っている。その概念を強くさせる為に家の外まで作ったのだ。
外に繋がる扉の前、カンダタはドアノブを握る。閂が通った扉は動かない。
同情を誘うような紅柘榴のすすり声は今も聞こえてくる。
両耳を塞ぎたくなるが、そうすれば、扉は開かない。
扉は開こうと思えば開く。まだ閂が通っているのはカンダタに迷いがあるからだ。
すすり声を聞きながら、扉のその先にあるものを想像する。
蝶男が待っているだろう。清音もケイも奴の手駒になっている。そして、愛しい赤眼の子もそこにいる。
瑠璃もいるだろうか。隣にいれば煩わしいが、いないと背中を押してくれる人がいない。口悪く叱責するあの嫌味が恋しくなる時が来るとは思ってもいなかった。
家中に聞こえる誰かのすすり声は気にならなくなった。
ドアノブを回せばあっさりと開き、外の冷気に少しだけ驚いてしまった。家の臭いと熱気に慣れてしまったせいだ。
扉の先の外にはカンダタが歩いた道は地面ごとなくなっていた。闇の中にぽつりと家が浮いているようだ。
すすり声がしなくなり、カンダタは振り返る。立っていたはずの玄関や廊下、階段はなくなり、四角い石の部屋がひと部屋だけ存在していた。
これが正解なのか、カンダタにはわからない。ただ、戻れる道はなくなったのは確かだ。
腹を括り、息を吸う。吐くと同時に全身の力を抜き、闇の方へと傾ける。カンダタは奈落へ、更に深い地獄へと落ちていった。
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