559 / 644
6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
改変 12
しおりを挟むなぜあの時斬らなかったのだろう。
あの場から離れずこの男を斬ればよかった。
白い刀の切っ先を蝶男に向ける。
50年越しの後悔が遅れながらにやってきた。その後悔は50年分の恨みを爆発させる。
白い刀を構え、瞬発的に飛躍した。狙うのは蝶男の首だ。
後先を考えない白い切っ先が下から上へと弧を描く。
弧の線に奴の血が混ざるのを願ったが、線が首に届く前に蝶男の身体は黒く染まると無数の蝶となって霧散した。
黒蝶の群れはケイから離れ、通路の奥へと逃げる。
「ケイ待って」
飛躍から着地し、蝶の群れとなった蝶男を追いかけるつもりでいた。だが、呼び止めながらケイの背中に抱きついてきた。それと同時に強い衝撃があった。
振り返ればケイの背中を刺した清音がいた。
身体の痛覚は生者と比べれば少ない。このぐらいでは致命的な傷には至らない。なのにケイを刺したのが清音だと認識した途端、自然と手の力が抜けた。
「刀を!」
床に刀が落ちると清音が叫んだ。
そして驚き、呆然としていた赤眼の少年が指示した通りに動き、夢見草の効果がきれたケイに近づくのは恐ろしかったが、落ちた刀を拾う。
「ごめんね」
眉を垂らし、微笑みながらナイフを抜く。身体に空いた穴から血が漏れる。
蹌踉めき、そのまま倒れそうになる。脚の力も抜けつつあった。しかし、前のめりになると白い刀を持った少年が目に入り、倒れそうになった脚は力強く踏みとどまった。
あれは影弥の形見だ。影弥がケイに託し、ケイが瑠璃に託すように影弥が頼んだものだ。影弥の形見でもあり、遺言でもあるのだ。
中腰になりながら離れようとする少年の首根を掴み、シャッターが降りた壁に叩きつけた。こうした暴力に対して少年は恐怖しかない。痛みではなく、恐怖により身体が固まる。
折角手に入れた白い刀を手放す。早く取り返せねばとケイは焦り、刃を掴んだ。
清音はケイの背中に飛び移った。右腕はしがみつくように首に巻きつき、ナイフを持った左手でケイの胸を貫く。
そこはケイの急所とも言える場所でもあった。そこを清音が狙ってきた。
ナイフを抜き、清音は一度目よりも深く刺そうとナイフを掲げる。新しくできた穴から血が漏れる。精力が失っていくのを感じる。
大きく息を吐き吸いながら清音の頭を鷲掴みにする。腰を屈め、背中にしがみつく清音を床へと引きずり下ろした。激しく背中をぶつけられた清音だったが、つかさず白い刀の柄にしがみつく。
清音を蹴って剥がそうと考えた。
「やめてっ!」
必死にしがみつき、泣きながらも訴える清音はケイの闘気を下げ、蹴ろうとして足が下がってしまう。
この清音は別人だ。本人そっくりに乞うてもそれは蝶男が操って動く清音だ。
下りかけた脚がまた上がり、力強い脚は白い刀の身幅に当たる。白い刀は上身の半ばで2つに折れた。清音は柄、ケイは刃先の方を得る。
「すまない」
操られた清音を見つめ、清音本人に対して伝える。
清音はもう現世では生きていられない。彼女の魂はこちら側のものになり死者となった。
黒蝶に支配され、本人の自覚がないままに黒く侵食された魂を救う術はない。
助けてもらった恩を返したいと守りたいと思えた少女は守れずに死んだ。
柄にしがみついていた清音は身体の支えを失い、床に倒れる。
それを横目にケイは背を向け走り出した。
蝶男は追わない。ケイがやるべきことは復讐でも懺悔でもないと己の存在理由が告げていた。
清音が狙って刺した左胸は僅かに核を外した。塊人に「死」はない。身体が欠損したとしても代わりのものを接げば良い。だが、核を失えば身体も思考も保てない。これが塊人の消滅だ。
走りながらも感じるのは核から流れる精力みたいなものが漏れる感覚。空いた穴を埋めるものを探したほうが良いが、残念ながら時間がない。
疲労を感じないケイの身体が重い。恐らくこれが「怠さ」と「疲労感」と言うものだろう。
ケイを追いかけるものはいなかった。しかし、地下の出口である階段を前にした時、扇風機女子が立ちはだかる。
「どけ」
息切れの低い声が鼓膜に響く。折れた白い刀の刃を強く握った。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる