糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

白い鬼、幼い記憶 3

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 囲炉裏では焼けた餅が香ばしく広がっていた。兄の隣に行きたいの堪えて台所に行くと桶に溜めてある水で口内をすすぐ。
 生臭い血の味がなくなると益々焼けた餅が欲しくなる。騒ぐ胃と共に兄の傍に座った。
 「遅せぇぞ」
 「お餅は」
 「食べ頃だ」
 冷えた身体を温め、表面が膨らんだ餅を眺める。
 兄は箸で餅を突いてから火鉢から皿に移して私に突き出す。
 「食えよ。減っただろ」
 冷えた身体も忘れて箸と皿を受け取る。
 「熱いからな」
 注意されたのに冷ますのも惜しんで餅を食べた。案の定、焼けたばかり熱に舌は驚いた。
 「だから言ったのに」
 呆れて笑う兄を睨み、ふうふうと息をかける。
 最初は時間をかけて食べていたが、慣れてくると頬張れれるようになった。兄は隣で餌をひっくり返しては自分の分を皿に移している。
 私の餅は食べてしまったから半分も残っていない。でも、私の記憶より兄の餅が大きく見える。
 「ずるいっそっちのほうが大きいっ」
 「同じだよ。ずるくない」
 私が兄の餅を奪おうとしたから兄も抵抗して私を押し返す。押して返されての繰り返しで私の足の裏足が火鉢に当たった。
 「二人とも、火事になるよ」
 柔らかく高い声で私たちの喧騒を止める。私たちが同時に振り返れば乳母ではない別の女性がいた。
 「蝶男」
 兄がぽつりと呟いた。身体が固まり緊張しているのが伝わったから私も固まった。
 「何してるの離れなさい」
 後から入ってきた乳母が厳しく言う。餅の取り合いで互いの身体が抱きついたままの状態で固まっていたのを咎めている。
 すぐに兄から離れると乳母が近寄ってきて兄の両頬を包んで顔色を伺う。
 「大丈夫なの、火傷はしてないよね」
 「してないから」
 その様子を傍で見ていると今度は蝶男が私のもとに来くると頭を撫でる。
 「侵入者の駆除お疲れ様。怪我してない?」
 蝶男は気まぐれでいつも家にいるわけじゃない。足音も臭いもなく突然やってくるので私は驚かせられる。だから私は蝶男が苦手だった。
 先程の出来事を蝶男が問うとを閉ざし、私を見た。
 そんな反応を不思議に思いつつも私は笑って頷く。頭を撫でられ褒められるのは素直に嬉しい。
 「何しに来たんだよ」
 兄が聞いてきた。
 蝶男を拒絶する棘を持った言い方だ。それに対して乳母さんが小さく「やめなさい」と呟いた。
 「紅柘榴に協力してほしくてね。一緒に離れに行ってくれるかい?」
 蝶男はそんなもの気にしていない様子だ。
 「え、やだ」
 この時の協力と言うものは大抵楽しくない。しかも「してほしい」とお願いする割にいつも強制だ。
 その上、離れに行くとなると今夜は乳母さんたちと一緒に寝れない。
 離れには座敷牢があって、短くても一晩、長い時は1週間閉じ込められる。座敷牢の硬くて冷たくて眠れないし、蝶男はつまらないし、それで紅柘榴は寂しくなる。
 「紅柘榴、行きなさい」
 乳母さんは必ず蝶男の味方をする。蝶男の言うことは絶対だと私と兄に常に言い聞かせていた。
 でも嫌なものは嫌で、嫌なものは嫌と言うのは悪いことじゃない。
 そう思っても私はまだやっと一人で着付けができるようになった子供で、大人の二人に敵わない。
 「餅を食べてからでもいいだろ」
 兄は大人に対抗してくれる。そうゆう優しさに嬉しくなって胸の奥からくる暖かさを感じる。
 「駄目」
 優しさも胸の暖かさも否定するように乳母さんはきっぱり言い切って、蝶男は私の手を掴むとと立たせる。
 「準備してくれ」
 「はい、ここにいるのよ」
 乳母さんは兄にそう言い聞かせると泊まりに必要なものを取りに行く。
 蝶男に手を引かれ、縋る思いで何を兄を見るも、彼は憐れむだけで何も言ってくれなかった。
 「あぁ、それと」
 囲炉裏から去る前に蝶男は立ち止まると兄に向かって言う。
 「庭の死体は片しておいたよ。君は餅を食べてるといい」
 兄が俯いていて顔が見えない。私は手を引かれるまま連れ去られた。
 離れに行くと後から上が来て、私の着替えを持ってきた。夕食はまたその時になったら持っていくと乳母さんから言えば、食は受け付けないだろうから必要ないと蝶男が話す。
 戸の前でつまらなそうにその会話を聞き流しながら小石を蹴った。
 「庭を綺麗にしてくれてありがとう」
 話が変わり、乳母さんが感謝を伝えると蝶男は変わらない微笑を浮かべながら答える。
 「早く処分しないと君たちは庭に出れないだろうから」
 蝶男が頬を撫でてからその手を乳母さんの後ろ首に回して自身に寄せて耳元で囁く。
 何を言ったのか私には聞こえなかった。乳母さんが笑うの我慢しながら顔を赤くしていたから褒められたのかもしれない。私も乳母さんに「ありがとう」と言われると同じ顔をする。
 赤みが残った顔で私を見る。上機嫌に手を振った。
 「頑張って」
 離れで泊まる時、私はほぼ寝転んでいるから頑張るところはないけれど、たった一言だけでも私は勇気をもらえる。胸が温かくなる。
 「また明日」
 私が手を振って言うと乳母さんは笑顔で小さくて降り返して屋敷に戻り、そんな後ろ姿を見つめながら離れに入った。
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