糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

白い鬼、幼い記憶 2

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 「紅柘榴」
 庭に散らばった血とそこら中に広がる臭いに嫌厭しながらも彼女は私の名を呼んだ。
 人間の姿に戻ると白鬼の時には気にならなかった寒さや口内の生臭さの気持ち悪さが押し寄せてくる。
 舌や歯茎にべったりとこびりついたや髪の毛を取り除こうと口の中に指を突っ込ませた。
 歯茎に挟まった毛髪をとりたいが、この季節に全裸は寒い。私は身体を震わせると小さくくしゃみをした。
 「寒いでしょう。中に入りなさい」
 「でも、くちん、なんかが」
 口に指を入れたまま喋ったからうまく伝わらない。
 「中できれいにしましょう。早くしないと風邪ひくわ」
 その人は縁側の上で手招きをしていたから大人しく従う。
 「中に入ったらすぐ身体を洗って服を着てあったかくして、うがいも忘れないで」
 「わかってる」
 縁側をよし登りながら私は小言に答えた。なんだか寒さが増したように思える。
 そのまま中に入ろうとする勢いの私を「待って」と止めた。
 「上がる前に足を拭いて。泥まみれだわ、あと口周りも」
 そう言いながら手拭いを渡され、言われた通りに足と口を拭く。
 「ありがとう、乳母さん」
 私は彼女をそう呼んでいる。そう呼ぶように言われた。どうして、と聞いたら母親ではないからと答えられたから、そう呼びなさいと言われた。
 でも、血の繋がった母親も同じようなことをするんだろうなと密かに思っている。それを言えば乳母さんはまた困ったように笑うから言わない。
 「綺麗になった。行きなさい」
 乳母さんが微笑みかけて、つられて私も笑い返したあと急いで部屋の中へと急いだ。
 床には私が脱ぎ捨てた帯や着物などがあった。それを手に取り、袖を通す。一人で切れるようになったのはつい最近で言えば山のように素早く着れない。
 「紅柘榴っまだかっ早くしないとっ」
 襟元を正しているとどたばたと大きな足音を立てながら声を荒らげて近づいてきた。
 戸を開けてしまいそうな気配がする。それを乳母さんが止める。
 「まだ着替えてるの。入らないで」
 「なんだよ、まだかよ」
 「もうちょっと、まって」
 帯を巻きながら戸の向こうにいるであろう兄に声をかける。
 「囲炉裏で餅を焼いてるぞ。早くしないと焦げちまう」
 餅と聞いて今まで感じなかったのにいきなり空腹になった。
 「焦げる前に俺が全部食っちまうからな」
 「まってよ」
 またどたばたと床が揺れ、今度は遠ざかっていく。
 空腹と餅がなくなるとで私は急いで帯を巻いて結ぶ。
 足を走らせ戸を開け、その囲炉裏に向かおうととしたところ「待ちなさい」と乳母さんが慌てて私の手を掴んだ。
 「襟が崩れている」
 慌てていたから襟は広がり大きく胸が開いていた。
 乳母は襟を正し、その短い時間で間近にある乳母の顔を眺めていた。
 「餅の前にちゃんとうがいするのよ」
 乳母が優しく背中を押して、私は餅欲しさに走った。
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