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7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 13
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乳母さんが待っている塀に帰る。
私の怒りが帰りたいと言う願いに変わって、その強い気持ちで私は走った。
枯れた木々の間を走り、滑りそうな雪原を走る。
塀の壁はすぐに現れた。視界半分でも馴染みのある色の壁を見ると喜びで体が震えた。
身体に矢を二本刺したまま、片手に兄を抱えて壁を上った。
瓦屋根を超えるといつもの庭があり、やっと帰って来れた安堵がどっと溢れた。
乳母さんは庭の真ん中でぐるぐると回って、私たちを待っていた。
鬼の姿の私を見つけると、怒鳴って探せと言った乳母さんではなくなり、歓喜で涙した。
瓦屋根から降りると全身の力が抜けて、兄を腕から降ろす。私の身体が縮み、刺してあった矢が抜け、白い肌が人間らしい色へと戻る。
やっと人の姿に戻れた。化け物から七つの子供に戻ると乳母さんに抱き締められたくて見上げる。
けど、歓喜して震えていた乳母さんがさんは青褪めて震えていた。
乳母さんが冷たい地面に膝をついて兄を抱きしめた。兄の腕がぶらりと下がっていて、眠っているようだった。
どうして眠っているんだろう。塀の中に帰れて安心したのかな。私もどっと疲れた。
鬼の時には感じなかった寒さが戻ってきて、全身に血がついていることに今更気がついた。
胸から膝まで生暖かい血がべったりとついている。自身の手のひらを広げると同じように真っ赤だった。
私もいっぱい血を流した。でもこれは別のものだと直感していた。
乳母さんたちを見れば二人を中心に広がるように血溜まりができていた。
直感ではわかっていたのに、いや違うと頭の中でたくさん否定した。
愕然とした様子で混乱していると息子を抱いて蹲っていた母が、息子を殺した化け物を睨んだ。
「化け物がっよくもっ」
鬼のような金切り声を乳母さんから聞いたのは初めてだった。
「違うっそんな」
つい否定してしまったが、私しかいないと私でもわかった。
殺意を向けられて強くなって、矢が兄にも飛んで、守らないと焦って。興奮して。
鉤爪で兄を引っ掻いた時もも、強く抱きしめた時も気づかなかった。そのぐらい興奮していた。
「たす、た、たす、けよう、と」
弱々しい私の言い分は通用せず、兄を地面に降ろし、大股で私に近寄る。大人の力で子供の髪を鷲掴みにして持ち上げると地面に叩きつけた。
鼻頭が折れて、熱くてどろりと血が流れた。
「なんで殺したのっなんで殺したのっ」
髪を持ち上げて、ぷちぷちと数本ほど毛が抜けた。
「ごめんなさいごめんなさい」
私はひたすらに謝るしかできなかった。そうすれば乳母さんの金切り声も全身の痛みもなくなると思った。
けど、謝罪で兄が元気になるはずもなくて、私が「ごめんなさい」と繰り返すほど、乳母さんの怒りが高まった。
「お前が死ねっ」
乳母さんが髪の毛を離すと腹を蹴った。
私を纏う服はなく、肌で受けた蹴りは狩人が放った矢より落とし穴の底にあった竹槍よりも痛かった。
唾を吐きだして、衝撃で胸の辺りがじんじんと震えていつもの呼吸ができない。
もうやめて欲しいと言いたかったけど、乳母さんが馬乗りになって私の首を絞めた。
ぽっきりと折れてしまいそうな小さく細い首を乳母さんは出せる限りの力を出して柔らかい肌を締める。
「返せ、私の子をっ返せっ」
乳母さんが何か言っている。言っているけど、体内で響く心臓の音がうるさくて聞こえない。
「こんなことになるならっこんなことになるならっ」
泣きながら怒鳴る乳母さんは謝っているようにも見えた。
私も乳母さんに謝りたかったけど、呼吸すらもできない。涙で潤んだ視界では乳母さんの顔すらも見えない。
息もできないほどに絞められていた首が不意に楽になった。
乳母さんの叫び声が聞こえたけど、呼吸を取り戻すのに精一杯で、馬乗りになっていた乳母さんの体重がなくなったのも考えられずにいた。
咳き込んで震える私に優しく羽織が被せられた。泥と涙と涎で汚くなった顔で見上げれば初めて見る男が微笑んで私を見ていた。
私の怒りが帰りたいと言う願いに変わって、その強い気持ちで私は走った。
枯れた木々の間を走り、滑りそうな雪原を走る。
塀の壁はすぐに現れた。視界半分でも馴染みのある色の壁を見ると喜びで体が震えた。
身体に矢を二本刺したまま、片手に兄を抱えて壁を上った。
瓦屋根を超えるといつもの庭があり、やっと帰って来れた安堵がどっと溢れた。
乳母さんは庭の真ん中でぐるぐると回って、私たちを待っていた。
鬼の姿の私を見つけると、怒鳴って探せと言った乳母さんではなくなり、歓喜で涙した。
瓦屋根から降りると全身の力が抜けて、兄を腕から降ろす。私の身体が縮み、刺してあった矢が抜け、白い肌が人間らしい色へと戻る。
やっと人の姿に戻れた。化け物から七つの子供に戻ると乳母さんに抱き締められたくて見上げる。
けど、歓喜して震えていた乳母さんがさんは青褪めて震えていた。
乳母さんが冷たい地面に膝をついて兄を抱きしめた。兄の腕がぶらりと下がっていて、眠っているようだった。
どうして眠っているんだろう。塀の中に帰れて安心したのかな。私もどっと疲れた。
鬼の時には感じなかった寒さが戻ってきて、全身に血がついていることに今更気がついた。
胸から膝まで生暖かい血がべったりとついている。自身の手のひらを広げると同じように真っ赤だった。
私もいっぱい血を流した。でもこれは別のものだと直感していた。
乳母さんたちを見れば二人を中心に広がるように血溜まりができていた。
直感ではわかっていたのに、いや違うと頭の中でたくさん否定した。
愕然とした様子で混乱していると息子を抱いて蹲っていた母が、息子を殺した化け物を睨んだ。
「化け物がっよくもっ」
鬼のような金切り声を乳母さんから聞いたのは初めてだった。
「違うっそんな」
つい否定してしまったが、私しかいないと私でもわかった。
殺意を向けられて強くなって、矢が兄にも飛んで、守らないと焦って。興奮して。
鉤爪で兄を引っ掻いた時もも、強く抱きしめた時も気づかなかった。そのぐらい興奮していた。
「たす、た、たす、けよう、と」
弱々しい私の言い分は通用せず、兄を地面に降ろし、大股で私に近寄る。大人の力で子供の髪を鷲掴みにして持ち上げると地面に叩きつけた。
鼻頭が折れて、熱くてどろりと血が流れた。
「なんで殺したのっなんで殺したのっ」
髪を持ち上げて、ぷちぷちと数本ほど毛が抜けた。
「ごめんなさいごめんなさい」
私はひたすらに謝るしかできなかった。そうすれば乳母さんの金切り声も全身の痛みもなくなると思った。
けど、謝罪で兄が元気になるはずもなくて、私が「ごめんなさい」と繰り返すほど、乳母さんの怒りが高まった。
「お前が死ねっ」
乳母さんが髪の毛を離すと腹を蹴った。
私を纏う服はなく、肌で受けた蹴りは狩人が放った矢より落とし穴の底にあった竹槍よりも痛かった。
唾を吐きだして、衝撃で胸の辺りがじんじんと震えていつもの呼吸ができない。
もうやめて欲しいと言いたかったけど、乳母さんが馬乗りになって私の首を絞めた。
ぽっきりと折れてしまいそうな小さく細い首を乳母さんは出せる限りの力を出して柔らかい肌を締める。
「返せ、私の子をっ返せっ」
乳母さんが何か言っている。言っているけど、体内で響く心臓の音がうるさくて聞こえない。
「こんなことになるならっこんなことになるならっ」
泣きながら怒鳴る乳母さんは謝っているようにも見えた。
私も乳母さんに謝りたかったけど、呼吸すらもできない。涙で潤んだ視界では乳母さんの顔すらも見えない。
息もできないほどに絞められていた首が不意に楽になった。
乳母さんの叫び声が聞こえたけど、呼吸を取り戻すのに精一杯で、馬乗りになっていた乳母さんの体重がなくなったのも考えられずにいた。
咳き込んで震える私に優しく羽織が被せられた。泥と涙と涎で汚くなった顔で見上げれば初めて見る男が微笑んで私を見ていた。
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