糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

命の重さ 5

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 蝶男は彼を通して私を監視している。私が逃げようとしたり、すぐに捕まえるはず。
 鬼にはなれない。子にどんな影響があるかわからないし、鬼になって塀を超えたとしても身重で逃避行はできない。
 蝶男が出産を待っているのはこの子を何かしらに利用する為だ。
 蝶男の企みを知らない。これまで知ろうともしなかった。録なものではないとわかっていたからだ。けど、これだけは許さないし、させない。
 出産した直後。逃げられる機会はそこだけだ。
 出産した後の母体は疲労が酷いと乳母が話していた。でも、鬼になれば身体も回復するはず。
 となれば、塀を出た後の食料などの荷物が必要になる。
 白蓮と一緒に夜逃げした時、白蓮は何を準備していたか。
 食料と火打石と、円形の金属も必要だと言っていた気がする。
 外のことは何も知らない。外で生きるのに必要なものは知らない。
 とりあえず、食料は絶対必要になる。
 私は彼ばかり家事をやって暇だからと料理ぐらいはさせてほしいと頼み、料理をする傍ら日持ちしそうな食べ物をこっそり持ち出した。
 たびに必要になるものを思いつきで持ち出して、昔猫たちがいた軒下の隠れ家に仕舞った。
 出産したら鬼になって子を抱える。それから隠した荷物を回収し、無理そうなら諦める。
 外は怖いものだと乳母に教えられて育った。実際にそうだった。外に出れば人は私を怖がって攻撃する。
 それは私が鬼になったのが原因だった。鬼を見て人は怖がる。
 私が鬼にならなければ彼らが襲ってくることもない。外の人よりも怖いのは蝶男だ。奴がこの世の物よりあの世の物よりも怖い。
 腹は大きくなって起きるのも立つのも寝るのも歩くのも大変だ。
 食事だけは自分で用意するといっても少し歩くと息切れをしてしまう。
 子供が腹の中を蹴り回ってその痛みで蹲る。そうすると死んだ男が手を差し伸べて私を立ち上がらせようとするが、邪魔だと言うように払い退ける。
 腹を抱えて自分で立ち上がり、歩くとまた子供が元気に動く。
 内臓や骨が響いて、これがまた痛かったがそれが堪らなく嬉しかった。
 生きてる、元気だと知らせる動きだ。
 「元気ね。私がいるから寂しくないよ」
 痛みで顔が歪む。
 何とか囲炉裏について腰を下ろす。少しは楽になったが、子供は元気なままだ。
 「そろそろ眠ってくれないかな」
 お腹に手を当ててあやすようにぽんぽん叩く。
 それでも子供は元気が良い。
 「退屈なら昔話でもしましょうか。あなたの父親の話よ」
 子供を揺らすように身体を揺らして白蓮との出会いを語る。話しているうちに子供は静かに眠りについた。
 春を告げる小鳥がさえずる。
 その時が近づいているのだとわかった。
 心待ちにしているのか、恐れているのか、私の感情なのに判断できなかった。
 感情の整理は追いついていない。でも、子供に会いたいその気持ちが一番強いのは確かだった。
 腹を蹴って落ち着かない。白蓮と私との思い出は語り尽くしたから兄から聞いたおとぎ話や白蓮から聞いた外の話をした。
 生まれてくる子には笑って欲しいからなるべく楽しい話をした。
 私とこの子で外で生きていけるか不安が強い。私は外の生き方を知らない。
 そういう不安はなるべく心の奥底に仕舞い語り続けた。
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