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7章 赤い珠が映す空想未来
一寸先は深淵 2
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およそ二ヶ月の間、紅玉が行った数々の可愛い悪戯は生者たちの間で生活を脅かす恐ろしい何かとして広まっていく。
傍で見ていた紅玉はなんとも言えない達成感に満たされて人々が噂で恐れている様を笑顔で眺めていた。
眠っている人の耳元で囁いて起こすと言うのも考えたが、聞こえない人が多かった。時々、紅玉の笑い声が届く時もあったが、そういう人は敏感な人か死期が近い人で見た目では判別がつかない。
「ふふっ次はどうしようかなぁ。人を転ばしたみようかな」
同じ悪戯を続けるのもつまらない。何をしようか何をしたら怖がるか、今ならとびっきりな発想で多くの人々を恐怖に陥れられそうだ。
「こら」
悪いものに取り付かれたように笑う紅玉を背後から声をかけてきた。
声が高くなってもそれが影弥のものだとわかった紅玉は振り返った。その姿は女性となっている。
「調子に乗るんじゃない」
「その姿でいるの珍しいね」
「向こうは俺の女性の姿を知らないからね」
彼なりの身の隠し方らしい。
女性になった影弥の姿は何度か見たことがある。だが、一度抜けた器は二度目は使えない。その上その器を用意するのもひと苦労だ。なのでなかなか器を変えようとしない。
「それに女性のほうが恐怖を煽りやすい」
町から町へと短期間で噂が広まったのは影弥のお陰でもある。噂を面白おかしくなるように人々に話していた。
影弥が持つ独特な空気と全く同じ台詞で噂を話せばほとんどの者が怪異を恐れた。
「ところで未来視は続けているかい」
紅玉が楽しむ姿を見るのは影弥としても嬉しいのだが、調子に乗りすぎるところがある。悪戯を楽しみすぎて蝶男に先手を打てる唯一の手段である未来視を疎かにしていないか懸念していた。
「もちろん」
影弥の懸念はその通りで、悪戯に夢中になっていた紅玉は忘れていた。
ほんの少し声が上がったのを影弥は聞き逃さなかった。表情筋も硬くなっている。この場合は何か隠している時が多い。
「それよりもさ」
紅玉は嘘を言及される前に切り出す。
「噂も充分に広まったしさ、しばらく様子見しようよ。適当なところで宿とってさ」
そしてその間に未来視をする。
紅玉の思惑通りに影弥の思考はあっさりと上書きされた。
「そうだね。けど宿は駄目だよ。人目につくとこは避けないとね」
女性の姿になった影弥なら蝶男には気づかれないだろうが、紅玉は一卵性の双子だ。妹と顔立ちが似ている。
快適な宿暮らしに慣れてきたのに久々の野宿と聞いて紅玉はげんなりと口を開いた。しかし、それも致し方ないと諦めてそれに従う。
悪戯作戦は秋の初めから実行し、噂が有名になったところで身を隠すために山に籠った。影弥は蝶男の動向が気になるのか紅玉を残して町に出るようになった。
一人残されるようになった紅玉は山道の小さな洞穴にある地蔵の隣に居座り、木々の枯葉を眺めていた。
今も昔も留守番をさせられている。
あの砂浜と違うのは、紅玉には未来視という役割があることだ。自分を見てくれない相手とのかけっこよりも有意義な留守番だ。
何もできない焦燥があったから他の子たちに混ざって遊んで不安を紛らわせていた。未来視ができるようになってからは別の焦燥に駆られていた。
正体のわからない焦燥だ。からくりの歯車がずっと紅玉の後で鳴って止まない。その音を意識すると瑠璃色の瞳を持った少女が脳裏を過ぎった。
その少女と歯車が紅玉の焦燥を駆り立てる。
それを無理に目を逸らし、未来視をする。
未来視は良いも悪いも変わらない。背中合わせの希望と絶望が見える。
未来が見えるならもっと詳しく見えたらいいのに。
「これでいいんだよね」
赤眼の男は順当に逃避の準備を進めている。蝶男の邪魔も入っていないようだ。なら悪戯作戦はうまくいったのだろう。
未来視で一番見えないのは蝶男だ。なぜだか蝶男の未来が見えにくい。赤眼の男や妹の未来でしか蝶男の動きを読むしかない。
次に奴がどう動くのかわかればこんなに悩まずに済むのに。
傍で見ていた紅玉はなんとも言えない達成感に満たされて人々が噂で恐れている様を笑顔で眺めていた。
眠っている人の耳元で囁いて起こすと言うのも考えたが、聞こえない人が多かった。時々、紅玉の笑い声が届く時もあったが、そういう人は敏感な人か死期が近い人で見た目では判別がつかない。
「ふふっ次はどうしようかなぁ。人を転ばしたみようかな」
同じ悪戯を続けるのもつまらない。何をしようか何をしたら怖がるか、今ならとびっきりな発想で多くの人々を恐怖に陥れられそうだ。
「こら」
悪いものに取り付かれたように笑う紅玉を背後から声をかけてきた。
声が高くなってもそれが影弥のものだとわかった紅玉は振り返った。その姿は女性となっている。
「調子に乗るんじゃない」
「その姿でいるの珍しいね」
「向こうは俺の女性の姿を知らないからね」
彼なりの身の隠し方らしい。
女性になった影弥の姿は何度か見たことがある。だが、一度抜けた器は二度目は使えない。その上その器を用意するのもひと苦労だ。なのでなかなか器を変えようとしない。
「それに女性のほうが恐怖を煽りやすい」
町から町へと短期間で噂が広まったのは影弥のお陰でもある。噂を面白おかしくなるように人々に話していた。
影弥が持つ独特な空気と全く同じ台詞で噂を話せばほとんどの者が怪異を恐れた。
「ところで未来視は続けているかい」
紅玉が楽しむ姿を見るのは影弥としても嬉しいのだが、調子に乗りすぎるところがある。悪戯を楽しみすぎて蝶男に先手を打てる唯一の手段である未来視を疎かにしていないか懸念していた。
「もちろん」
影弥の懸念はその通りで、悪戯に夢中になっていた紅玉は忘れていた。
ほんの少し声が上がったのを影弥は聞き逃さなかった。表情筋も硬くなっている。この場合は何か隠している時が多い。
「それよりもさ」
紅玉は嘘を言及される前に切り出す。
「噂も充分に広まったしさ、しばらく様子見しようよ。適当なところで宿とってさ」
そしてその間に未来視をする。
紅玉の思惑通りに影弥の思考はあっさりと上書きされた。
「そうだね。けど宿は駄目だよ。人目につくとこは避けないとね」
女性の姿になった影弥なら蝶男には気づかれないだろうが、紅玉は一卵性の双子だ。妹と顔立ちが似ている。
快適な宿暮らしに慣れてきたのに久々の野宿と聞いて紅玉はげんなりと口を開いた。しかし、それも致し方ないと諦めてそれに従う。
悪戯作戦は秋の初めから実行し、噂が有名になったところで身を隠すために山に籠った。影弥は蝶男の動向が気になるのか紅玉を残して町に出るようになった。
一人残されるようになった紅玉は山道の小さな洞穴にある地蔵の隣に居座り、木々の枯葉を眺めていた。
今も昔も留守番をさせられている。
あの砂浜と違うのは、紅玉には未来視という役割があることだ。自分を見てくれない相手とのかけっこよりも有意義な留守番だ。
何もできない焦燥があったから他の子たちに混ざって遊んで不安を紛らわせていた。未来視ができるようになってからは別の焦燥に駆られていた。
正体のわからない焦燥だ。からくりの歯車がずっと紅玉の後で鳴って止まない。その音を意識すると瑠璃色の瞳を持った少女が脳裏を過ぎった。
その少女と歯車が紅玉の焦燥を駆り立てる。
それを無理に目を逸らし、未来視をする。
未来視は良いも悪いも変わらない。背中合わせの希望と絶望が見える。
未来が見えるならもっと詳しく見えたらいいのに。
「これでいいんだよね」
赤眼の男は順当に逃避の準備を進めている。蝶男の邪魔も入っていないようだ。なら悪戯作戦はうまくいったのだろう。
未来視で一番見えないのは蝶男だ。なぜだか蝶男の未来が見えにくい。赤眼の男や妹の未来でしか蝶男の動きを読むしかない。
次に奴がどう動くのかわかればこんなに悩まずに済むのに。
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