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7章 赤い珠が映す空想未来
一寸先は深淵 6
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人食い塀を調べているうちに廃村には貧しい家族がひそんでいるとわかった。
彼らについてその時、紅玉は特に気にも留めていなかったが、影弥は記憶していて、彼らを囮として使った。
悪党とはいえ、無関係な人たちの命を奪った影弥にもその片棒を担いでしまった自分自身にも生理的な気持ち悪さがあった。
蝶男の目が届かない、山奥の更に深いところまで逃げてきた時には朝焼けの冷たい靄が立ち込めていた。
走り続けていた影弥もやっと立ち止まり、強く掴んでいた握力も緩んだ。
「なんでっあんなことしたのっ!」
鬼のような金切り声をあげれば、影弥は強くする風もなく淡々と答える。
「君の為だ」
「違うっ」
私のせいで死んだ。
殺人を犯した嫌悪を拒絶するように非難する。
「あそこでこうが捕まれば全てが無駄になっていた。あれは必要なことだった」
「知らない知らない知らない知らないっ!」
影弥の言い訳を聞くのも苦しくなってきて、紅玉は耳を塞ぎ、何も見ないように蹲った。
「命は死人のためにあるんじゃない」
喚いていたか金切り声はなくなって、弱々しい今にも消えてしまいそうな声で、影弥ではなく地面に向けていた。
ぽつぽつと涙を落としていたのを影弥は気づいていたが、何も言わなかった。
荒ぶった感情が落ち着いたように見えたが、それはありのままの感情を影弥に伝えるのを諦めただけであり、紅玉を責め立てる嫌悪な罪悪感は変わらず渦巻いていた。
失った命は戻らない。それならば、蝶男に奪われた魂だけでも解放させるのが紅玉の責だ。
涙はなくなり、蹲ったまま未来視をした。
「こう、何をしてる」
紅玉の様子を察した影弥の声を無視する。影弥だって紅玉を理解してくれないのだから無視してもいいのだ。
外界も音など聞き入れる必要はない。耳を塞い手を強くして、可能性のある未来を見る。
紅玉が求める答えは妹も赤眼の男も無事で、蝶男に捕らえられた全ての魂が解放される未来だ。
濁流の泳ぎ方はもう慣れた。どんな流れでも泳げそうだ。
鼻奥が熱い気がするが、気のせいだろう。
「こう、やめるんだ」
強く願い、叫ぶような声で影弥が紅玉の肩を揺さぶり止めようとする。
未来の濁流から掬い出された紅玉は初めて全身に熱が広がっていることに気づき、ふたつの鼻穴から尋常じゃない量の血が流れていた。
自身の身体が異常になってると認識すると熱に侵された頭が意識を遮断させて、目の前が真っ暗になった。
私に何ができたのだろう。
妹の為にあれこれ考えてみたけど、未来はわかるようになったけれど、家にも帰れなかった。
やっぱり、死人は何もできないのね。
雪がしんしんと降る音で目が覚めた。
明るい曇天から真っ白な雪が降っていた。目覚めたばかりの瞳にはその白さがきつく、再び目を閉じてしまう。
「目が覚めたかい」
傍を影弥いて、一時も離れずに紅玉の目覚めを待っていた。
「あれほど控えるようにと言ったのに」
待っている間、心配していたのだろう。影弥の小言には隠し切れない安堵があった。
「どのぐらい寝てたの」
秋から冬になっていたのだ。ほんの数日ではないだろう。
影弥から一か月ほどだと答えられ、重たい氷塊を背負わされたような憂鬱さがした。
ちらりと影弥の様子を伺うも紅玉に拒絶されたことも忘れているのではないかと疑うほどいつも通りだった。
一度覚えた事は忘れないのであの出来事は記憶しているはず。ただ、影弥は嫌われても拒絶されてもいいから紅玉を守る。
そういう性格だと紅玉も理解している。もちろん、影弥がしたことは許されない、窃盗よりも酷い。
人の心は厄介で、紅玉の傍にずっといた影弥を嫌いにはられなかった。
「私は影弥のやり方は嫌いだけど影弥は好きだから」
仲直りのつもりで言ってみた。あれは喧嘩だったのか、紅玉が一方的に怒鳴っただけだったが、とりあえずこれで良しとする。許せるわけではないが。
彼らについてその時、紅玉は特に気にも留めていなかったが、影弥は記憶していて、彼らを囮として使った。
悪党とはいえ、無関係な人たちの命を奪った影弥にもその片棒を担いでしまった自分自身にも生理的な気持ち悪さがあった。
蝶男の目が届かない、山奥の更に深いところまで逃げてきた時には朝焼けの冷たい靄が立ち込めていた。
走り続けていた影弥もやっと立ち止まり、強く掴んでいた握力も緩んだ。
「なんでっあんなことしたのっ!」
鬼のような金切り声をあげれば、影弥は強くする風もなく淡々と答える。
「君の為だ」
「違うっ」
私のせいで死んだ。
殺人を犯した嫌悪を拒絶するように非難する。
「あそこでこうが捕まれば全てが無駄になっていた。あれは必要なことだった」
「知らない知らない知らない知らないっ!」
影弥の言い訳を聞くのも苦しくなってきて、紅玉は耳を塞ぎ、何も見ないように蹲った。
「命は死人のためにあるんじゃない」
喚いていたか金切り声はなくなって、弱々しい今にも消えてしまいそうな声で、影弥ではなく地面に向けていた。
ぽつぽつと涙を落としていたのを影弥は気づいていたが、何も言わなかった。
荒ぶった感情が落ち着いたように見えたが、それはありのままの感情を影弥に伝えるのを諦めただけであり、紅玉を責め立てる嫌悪な罪悪感は変わらず渦巻いていた。
失った命は戻らない。それならば、蝶男に奪われた魂だけでも解放させるのが紅玉の責だ。
涙はなくなり、蹲ったまま未来視をした。
「こう、何をしてる」
紅玉の様子を察した影弥の声を無視する。影弥だって紅玉を理解してくれないのだから無視してもいいのだ。
外界も音など聞き入れる必要はない。耳を塞い手を強くして、可能性のある未来を見る。
紅玉が求める答えは妹も赤眼の男も無事で、蝶男に捕らえられた全ての魂が解放される未来だ。
濁流の泳ぎ方はもう慣れた。どんな流れでも泳げそうだ。
鼻奥が熱い気がするが、気のせいだろう。
「こう、やめるんだ」
強く願い、叫ぶような声で影弥が紅玉の肩を揺さぶり止めようとする。
未来の濁流から掬い出された紅玉は初めて全身に熱が広がっていることに気づき、ふたつの鼻穴から尋常じゃない量の血が流れていた。
自身の身体が異常になってると認識すると熱に侵された頭が意識を遮断させて、目の前が真っ暗になった。
私に何ができたのだろう。
妹の為にあれこれ考えてみたけど、未来はわかるようになったけれど、家にも帰れなかった。
やっぱり、死人は何もできないのね。
雪がしんしんと降る音で目が覚めた。
明るい曇天から真っ白な雪が降っていた。目覚めたばかりの瞳にはその白さがきつく、再び目を閉じてしまう。
「目が覚めたかい」
傍を影弥いて、一時も離れずに紅玉の目覚めを待っていた。
「あれほど控えるようにと言ったのに」
待っている間、心配していたのだろう。影弥の小言には隠し切れない安堵があった。
「どのぐらい寝てたの」
秋から冬になっていたのだ。ほんの数日ではないだろう。
影弥から一か月ほどだと答えられ、重たい氷塊を背負わされたような憂鬱さがした。
ちらりと影弥の様子を伺うも紅玉に拒絶されたことも忘れているのではないかと疑うほどいつも通りだった。
一度覚えた事は忘れないのであの出来事は記憶しているはず。ただ、影弥は嫌われても拒絶されてもいいから紅玉を守る。
そういう性格だと紅玉も理解している。もちろん、影弥がしたことは許されない、窃盗よりも酷い。
人の心は厄介で、紅玉の傍にずっといた影弥を嫌いにはられなかった。
「私は影弥のやり方は嫌いだけど影弥は好きだから」
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