糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

邂逅してから 3

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 すっかり春となり、白くて小さな二羽の蝶々が空中で戯れに遊んでいる。
 影弥と一緒にいられるのもこれで最後だ。
手をつないで歩くのもこれで最後だ。
 人食い塀が見えてきた。数年ぶりの塀はやはりぼろくて、静かで不気味だ。
 「帰ってくるんだよ」
 「うん」
 なるべく会話を伸ばして少しでも一緒にいられる時間を稼ごうとしたが、思いつく会話がない。
 「かげ」
 これで最後だと名残り惜しくて呼んでみた。
 影弥は変わらない笑顔で「どうしたの」と聞く。
 「かげは死産してから独りにしないでくれた。守ってくれた」
 瞳が潤んで泣きそうになっていた。最後の記憶が涙であるのは悲しい。だから顔を上げて元気なふりをした笑顔を見せた。
 「ありがとう、行ってきます」
 繋げる手を強く握りそうになったのを影弥は咄嗟に堪えた。強く握ってしまうとすり抜けてしまう。
 「うん、いってらっしゃい」
 どこまでも一緒に行きたかった。互いに交わした挨拶に同じ思いが込められる。
 放したくない手を先に放したのは紅玉。
 身体が離れて、手が離れる。
 紅玉の背中を見守っていたが、彼女は立ち止まらないし、振り向かない。
 君の思うがままに進めばいい。君が望むところへ行けばいい。どうか、あの子の願いが叶いますように。
 存在しない神に影弥は祈った。



 人食い塀に入った。
 人が眺めなくなった庭は花は跡形もなく塵となって代わりに青い雑草にが覆っていた。
 屋敷は人が住まなくなっただけで埃が溜まり、木柱が腐り、屋根は瓦が崩れて穴だらけになっている。
 繋いでくれる手が空き、寂しくなった。持ってきた石を両手で強く握る。
 今なら後戻りできる。
 いや、もう後戻りではできない。紅柘榴と約束したのだから。
 庭を横切り、井戸のところに着く。中を覗くと丸い底なし深淵が襲ってきそうで影弥のもとに帰りたくなかった。
 駄目だ駄目だと叱責して、星空のような青い石を井戸の中に投げた。
 人食い塀は境界線が薄く、干渉しやすいのだと影弥が言っていた。それはあちら側も同じで、生体のない紅玉や小石ぐらいの大きさなら届くらしい。
 あちら側にいる蝶男とは井戸でやりとりをしていた。と紅柘榴が話していた。
 誰も住まなくなった人食い塀から価値が高い石が落ちてくれば蝶男も気づくだろう。
 石は落とした。後は来るのを待つ。
 紅玉は庭に戻り、縁側に三角座りをして待っていた。
 心細くなって、帰りたくなる前に来て欲しい。
 「初めまして久しぶり。やっと会えたね」
 寂しくなる前に憎しみが湧いた。杞憂になってよかった。
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