17 / 25
ミリー視点
しおりを挟む私はミリー・カヌス。
ウィリデ侯爵家で働く侍女。実家のカヌス男爵家は貴族とは名ばかりで領地も何もない末端の貧乏貴族だ。
私はお行儀学校を卒業した後、すぐにウィリデ侯爵家に勤めることになり、その家のひとり娘であるアリア様に小さな頃から仕えてきた。
アリア様はプライドが高くて、気難しい。侯爵家の甘い教育のせいだろう。
他にも何人もの侍女が居たが、皆長くは続かずに辞めてしまって、私一人だけが残った。
そんな彼女は類稀なる美女。デビュタントを迎えると同時に社交界の華として常に注目を浴びてきた。
皆がひれ伏して当然、そんな感覚のまま成長したお嬢様は、気に入らない令嬢がいると、意地悪をしていた。
私は昔からそんなお嬢様に命じられて、色んな事をしてきた。他の令嬢のドレスを汚したり、不名誉な噂を流したり……。
でも、こんな……犯罪の加担をさせられるなんて……
「お久しぶりです。ミリー嬢」
「グラディウス公子……」
侯爵家からの用事で商家までのお遣いに出た後、帰り道で声を掛けられた。
私に声を掛けてきたのは、グラディウス公爵家の嫡男シリル様。
今、お嬢様が熱を上げている人だ。
私はお嬢様に命じられ、グラディウス公子の恋人に薬を盛った。彼女を救護テントに置き去りにして、魔物に襲わせる計画だった。
お嬢様はグラディウス公子を自分の婚約者にするために、フラヴィア様が邪魔だと考えたようだった。
けれど……
本当はどんなことをしても、王太子殿下やグラディウス公子がお嬢様を選ぶことは無いと私は思っていた。
一見、お二方ともお嬢様に対して友好的な態度だが、彼らがお嬢様を見る目。その奥には嫌悪感がはっきりと見て取れる。
お嬢様は明らかに嫌われているのに、どうしてそれに気づかないのだろう。
だからといって、私がお嬢様に意見出来るはずがない。
私は命じられるまま、グラディウス公子の恋人フラヴィア様に睡眠薬を盛った。
狩猟会では魔獣が結界を突き破り大きな騒ぎとなったが、フラヴィア様は無事。それどころか怪我人も出なかった。
私は計画が失敗したことで内心ほっとしていた。けれど、グラディウス公子が私に会いに来たってことは、お嬢様の仕業だってことがバレた?
「今からウィリデ侯爵邸に戻るのですか?」
グラディウス公子は鋭い人物。全て見透かされているようで、思わず目を反らせた。
「え、ええ」
「差し出がましいようですが、僕は戻らない方が良いと思いますよ?」
「……どうしてですか?」
「狩猟会での事件の捜査が進んでいます。ウィリデ侯爵を拘束するための手続きも進んでいますよ。明日には拘束されると思いますね」
「何故、私にそれを?私は侯爵家の人間ですよ?」
「調書を読んで、僕だったら貴女の口を封じるな、と」
「……そう……ですか」
そうかもしれない。ウィリデ侯爵ならそうするだろう。
けれど私にはウィリデ侯爵家に戻る他、選択肢はない。
「家族の事、ですよね?」
「え?」
「カヌス男爵家はグラディウス公爵家で守りますよ。貴女が気にしているのは家族のことでしょう?」
え?何故それを……。
確かに私はウィリデ侯爵家を裏切ったことで家族に報復されることを恐れていた。
「私はフラヴィア様に薬飲ませたのに、どうしてそこまで……?」
恋人を殺されそうになったのに……?
私が知る彼は、人に同情するような性格では無い。他人に関心なんか無さそうで、夜会でもいつもつまらなさそうにしていた。
「僕は別に貴女に同情しているんじゃありませんよ。個人的にはヴィアを殺されそになって非常に腹立だしいです。ただ、僕の好きなフラヴィアって女性は命令されて薬を盛った貴女に同情すると思うので」
彼は淡々と話を続ける。
「彼女、自分はお人好しじゃないなんて思ってるみたいですけどね、僕からみれば底無しのお人好しなんです。まあ、そこがヴィアの可愛いところなのでいいですけど……。彼女に悲しい思いはして欲しくない。僕の目的はそれだけですよ」
彼は冷たく私を見据える。そして小さく息を吐いた。
「で、どうします。僕はグラディウス公爵家の庇護下で証言した方がいいと思いますけどね。何よりもご家族のためですよ」
そう言われて心を決めた。
私は自分の名誉のためにも、プライドのためにも、今までのことを全て証言して然るべき罰をうけよう。
「グラディウス公子についていきます。証言もします。その代わり、家族のことはお願いします」
「良かった」
私はグラディウス公子に連行されて、王宮へと向かった。
85
あなたにおすすめの小説
地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする
志熊みゅう
恋愛
伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。
貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?
すれ違いから始まる逆転ラブコメ。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる