8 / 15
8.王太子殿下の友情
しおりを挟む「いくらなんでも、自分の顔も見られない妻を娶る気は無いですよ。望まぬ妻を押し付けられないように、今まで準備をしてきました。その件については、父上にも口出しさせる気は無かったです。」
レオンハルト様は怒っている様子も無くて、淡々とコーチス伯爵令嬢に説明しているが、彼女は顔を附せて細かく震えていた。
まるで化け物扱いじゃない?
よく結婚するだの覚悟だの言ったわね?
「レオンハルト様、顔合わせの日の事は申し訳ありませんでした。」
コーチス伯爵令嬢は怯えたような声を絞り出した。
「いえ。もう終わったことです。」
「やはりご気分を害されたんですね……。」
こんな態度を取られて、レオンハルト様が傷付かないとでも思っているのだろうか?
なんて心の中で突っ込む。
「貴女や貴女の父上は私が結婚を望んでいると思っていたようですが、私は生涯独身でも構わないと思っていたのです。跡取りには従兄弟がいますし、養子でもいい。昔貴族がなんとしてでも結婚を急いだのは独身だと爵位継承が出来なかったからです。もう法律改定の準備はしました。先の議会で女性の爵位継承と共に認められるようになります。私は生涯独身でも問題無かったのです。」
声を荒げることもない。
彼は言い聞かせるよう優しくコーチス伯爵令嬢に語り掛けた。
「そんな……はじめからそう言ってくだされば……。」
「縁談の申し込みはしなかったし、もっと愛想笑いしたと?」
「……そういう訳では……。」
会話中も彼女は俯いたままで、レオンハルト様と一度も目を合わせる事は無かった。
コーチス伯爵令嬢が退室した後、レオンハルト様は申し訳なさそうな表情で私の前に来て話をしてくれた。
「すみません。貴女に私の後始末をさせることになってしまって。」
「……いえ。」
「私は彼女に一回も惹かれた事はありません。恋心を持ったのはミュウ様が初めてです。」
「え?」
甘い言葉に顔を上げれば心配そうに私を見つめる彼が!!
おっと、心臓が口から飛び出しそう。
ゴクリと生唾を飲んで彼を見る。
そんな私を見てレオンハルト様はフッと表情を崩して頬を撫でてくれた。
「好きですよ。感情が全部顔に出るその素直な所も。」
え?
私、どんな顔してた?
思い出せなくて恥ずかしい。
ヨダレ垂らしてないならいいけど……。
ちょっと焦った私を部屋に残して、レオンハルト様は執務に戻っていった。
ー・ー・ー・ー・ー
今日は延期になっていた国王陛下との謁見がある。
本当は直ぐに会う予定だったのたが、鉱山の事故があり、そちらへの視察が急遽決まったそうだ。
国王陛下の視察ともなると準備に時間を要するが、フットワークの軽い今の陛下は、国民には大人気らしい。
ゴルゾン殿下が謁見の間への案内役を引き受けてくださり、部屋まで迎えに来てくれた。
謁見室までの道すがら、殿下はレオンハルト様の事を教えてくれた。
「レオは私の自慢の友人であり、側近なのだ。」
「この国ではレオの顔を恐ろしくて見れない女性も多い。けれど、あいつは腐ることなく、努力を続けてあの地位まで上り詰めた。」
「努力?」
「ああ、次の議会で結婚しないと爵位を継げないとの法律が大昔からあってな、もうすぐでそれを改定することになる。」
「法律を……。そんなこと可能なんですか?」
「貴族を一人一人説得して回ったのだ。爵位継承について定めた法律の、継承の条件を変更するのだ。女性でも独身でも爵位を継げるようになる。」
レオンハルト様有能っ!!
凄いわっ。
「宰相の息子だから、宰相補佐官をしている訳で無い。今の王宮は実力主義だ。能力は自分で証明してきた。沢山の偏見の中、努力してきた姿を私は知っておる。どうか、レオンハルトを幸せにしてやって欲しい。」
そう言うと、ゴルゾン殿下は王族としてでは無く、友人としてのお節介だと柔らかく微笑んだ。
王族らしい威風堂々とした殿下のそんな笑顔は以外で、とても印象に残った……。
220
あなたにおすすめの小説
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる