男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

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道中記・ポッカの町

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殿下の手紙が届いた。

ポッカの町に着いたらしい。

殿下は今頃ライルを正妃に迎える為の計画を立てている筈だ。
手紙は減るのかと思ったけど、今まで通り続いている。 

今回の手紙と一緒に小さな石が散りばめられたネックレスが届いた。 

小説では、他の二人の護衛には別の用事を言いつけて、ライルと殿下は町に出て、デートのように散策を楽しむことになっている。

殿下は前日からワンピースを準備していて、ライルにワンピースを着るようにお願いする。
ライルは渋々応じるが、久しぶりのスカートに女性らしい気持ちが甦る。

諦めると宣言したにもかかわらず、殿下が人目を憚らずに口説いてくるのでライルは恥ずかしくて仕方がない。
町で買い食いをしたり、芝居小屋に入ったりして楽しむうちに殿下の気さくな一面に触れ、ライルは益々恋心を募らせてしまう。
私は小説の中でも、この町での二人のイチャイチャが堪らなく好きだった。だから事細かに覚えている。
ライルは「これを着けて。命令だよ。」
と甘い声で殿下の瞳の色のペンダントを贈られる。
殿下もお揃いのデザインでライルの瞳の色のペンダントを購入して自分で着ける。
このお揃いのペンダントで他の二人の護衛も殿下とライルの関係に気がついて二人の協力者となる。 
ライルは騎士服の中にペンダントを隠していたけれど、わざとらしい偶然で二人の護衛に見つかってしまうのだ。

私に届いたネックレスに殿下の瞳の色の石は付いていない。
そのネックレスを見つめて思わず溜め息を吐いた。


私はモヤモヤしたものを抱えながらも勉強に精をだす。
今日はケンデリック語を学んでいる。ケンデリック語は発音の種類が多く難しい。

最近サークル活動で親しくなったファービョン公爵子息がケンデリック語を教えてくれると言うので、他の令嬢も誘って勉強会を行っている。
やたらと声を掛けてくる貴族令息が増えたので、もしかしたら私と殿下の婚約解消が近いとの噂が拡がっているのかもしれない。
殿下は水面下で婚約解消の準備を進めている筈だ。

殿下視点

今日はポッカの町を散策予定だ。王都から離れているこの町では私の正体に気付く者もいないだろう。

私は露店で小さな弓を的に当てたり、籠にボールを入れるゲームを楽しんで、取った景品の多さを護衛二人と競争して楽しんだ。
ライルはゲームは好まないようで見ているだけだった。
露店で売っている串焼きはどれも美味しかったし、庶民の娯楽を大いに楽しんだ。
ふと、アクセサリーの店が視界に入った。

ブルドとズッブュルの生温かい視線を感じながらその店に入る。
パッと目に飛び込んできたのは、私の瞳と同じ色の石をあしらったネックレス。
ティシアリュルに贈りたいが……。
独占欲を表すこのような贈り物を喜ぶとは思えない。

私は店内を見回り、色んな色の小さな石が散りばめられたネックレスと細いチェーンが幾重にも重なったブレスレットを手に取ってみる。

主張の激しくないこういう控えめなデザインが好みだよな?
そう思って悩んでいると、ライルが、おずおずと差し出してきたのは一番最初に目にしたネックレス。
「僕はこれが素敵だと思います。」
「ティシアリュルはこういう大きい石は好まない。」
「えっ?ティシアリュル様へですか?」
ライルは目を丸くして驚く。
「誰だと思ったんだ?母上か?母上へ自分の瞳の色の石は流石に気持ちが悪いだろう。」
「そ、そうですね。」
「差し出がましいぞ。」ブルドが窘める。
「あっ、はい。すいませんでした。」
ライルは慌てて謝ると、それ以降話すことは無かった。


    
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