男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

文字の大きさ
12 / 20

道中記・最後の町プドット

しおりを挟む
殿下から手紙が届いた。

とうとう最後の町プドットに着いたようだ。

此処で殿下はライルにプロポーズする。

殿下は宿で自分の部屋にライルを呼び出す。そして部屋に訪れたライルに跪いて、プロポーズし、ティシアリュルとの婚約は解消してみせると宣言するのだ。

「はぁー。」
部屋に飾られた花の枯れた部分をブチブチ千切りながら溜め息を吐いてばかりいる。ヨシュンが心配してくれるが止めようがない。
「殿下がもうすぐ帰っていらっしゃるのに、お嬢様の表情は冴えませんわね。」
だって、婚約解消間近なのよ?
「殿下が帰って来て、お嬢様の人気ぶりをみたら嫉妬しますでしょうね。」
この侍女は何を的外れな事を……。
「嫉妬なんて…なさらないわよ。」
「そうでしょうか?王宮内でも殿下の筆まめな様子は噂になっておりました。陛下や王妃様への報告より、お嬢様へのお手紙の方が多かったそうですわ。」
「そうなの?」
後ろ暗い事があるからだと思う。
「はぁー。」また大きな溜め息を吐いてしまった。

殿下の帰還の日が決まって連絡が届いた。視察も公のものなら盛大に迎えるが、今回は一応お忍びであるため王宮内で内輪だけの慰労会を行う。それでも私は婚約者として迎えに出なければならない。だが、 
「ヨシュン、私殿下の迎えに出たくない。」
「珍しいですね。お嬢様の我が儘なんて。旦那様に伝えておきますわ。」
殿下はライルを専属の護衛に指名して、帰還後は毎日共に過ごすのだ。
二人が並んでいる姿なんて見たくない。

殿下視点

この町で最後の視察になる。この町に来た目的は国境警備の為の国の補助金が正しく使われているかを見ることにある。
兵士の装備品や人数などを見てまわるが、特に不自然なところはみられなかった。

これで帰還出来る。会えなかった間にティシアリュルに対しての恋心が募ってしまった。
どこを見ても彼女を思い出す私はかなりの重症だろう。
彼女が王宮で立ち上げたサークルも気になる。
ティシアリュルは意識していないようだが、彼女の人気はかなりのものだ。
氷の美姫なんて言われているが、本人非公認のファンクラブがあるくらいだ。
私が王都にいる間は目を光らせていたが、今はどうなっているか……。
見張って居ないと奴らはティシアリュルの使用済みティーカップを集めたりし出す。
一度彼女の私物をファンクラブに横流ししている侍女を、侯爵に言って専属から外して貰った事があった。
今の侍女は問題ない。彼女を魔の手から守ってくれている筈だ。

私はティシアリュルの事を考えながらもなんとか視察を終えた。

ライルがチラチラと私を見ているのが不快だ。
ライルはこの町に来てからずっとソワソワ落ち着きがない。

ライルが男装までしてこの視察に同行した理由が分からない。帰還後の処遇をどうするかブルドとズッブュルと話し合った。
剣の腕も気配を消す能力も高くない為、目的及び依頼人が判明するまで、私の護衛として側に置く事にした。

「はい。光栄です。これからも宜しくお願いします。」
「ああ。」
ライルは専属の護衛になることを伝えると嬉しそうに破顔した。



その夜、ライルは私の部屋に訪れた。
「どうした?」
「あ、あの、殿下から呼び出されたかと思って。」
「いや。呼び出していないな。」
ドアを閉めようとするとライルが慌てる。
「あ、護衛の事で聞きたい事があって……。」
「こんな夜更けにか?」
非常識な時間の来訪に私の雰囲気も剣呑となる。
「い、いえ。また明日聞きます。」
ライルは肩を落として、部屋に戻って行った。


    
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

初恋の呪縛

緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」  王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。  ※ 全6話完結予定

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

ロザリーの新婚生活

緑谷めい
恋愛
 主人公はアンペール伯爵家長女ロザリー。17歳。   アンペール伯爵家は領地で自然災害が続き、多額の復興費用を必要としていた。ロザリーはその費用を得る為、財力に富むベルクール伯爵家の跡取り息子セストと結婚する。  このお話は、そんな政略結婚をしたロザリーとセストの新婚生活の物語。

処理中です...