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それから・・・(終)
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いよいよバルとの結婚の日を迎えた。
一週間前から体調を万全に整えるため、薬草スープを飲み、行動範囲を制限され、毎日、揉まれたり、擦られたり、塗られたり、蒸らされたりした。
今は包まれている。何にって?
何だかいい匂いの蒸しタオルに、だ。
昨日はまだ日の明るい内に寝かされ、夜更けに起こされこうして準備している。
ハードだ。
そうやって花嫁衣装に身を包み化粧を施せば、「誰?」と思うほどの仕上がりで、侍女達の手腕に感動する。
「リュル、綺麗だよ。僕だけの世界一の花嫁だ。」
バルは私の姿を見ると、花が咲いたように晴れやかに笑う。
勿論バルも王族らしく凛としていてとても格好いい。
「バルも素敵です。見惚れそうです。」
「ふはは、嬉しいな。リュルの隣に立てることが心底嬉しいし幸せだ。」
「私も、バルの隣に立っているのが自分なんて、夢のようです。」
「さぁ、行こう、花嫁どの。」
「はい。旦那様。」
私はバルにエスコートされ会場に向かう。
結婚式は荘厳な雰囲気の中執り行われ、私は無事に王太子妃となった。
王国中がお祝いムードで、庶民も仕事を休み、未来の国王陛下夫妻を見るために王宮前の広場に集まった。
バルコニーから見上げる空は透き通るようにどこまでも青く澄んでいた。
人々のざわめきと喧騒の中、祝砲が鳴り響く。
「この平和な国を、私たちは守っていくんだ。大変だろう。普通の貴族に嫁いだ方が楽かもしれない。けれど、私に協力してくれ。共に過ごしたい。」
国民に向かって手を振り、視線を前に向けたままバルが言った。その声は静かだが力強い響きがある。
「はい。どこまでもついていきます。」
私はバルと繋いでいる手に力を込めて応えた。
疲労困憊でヘロヘロの私を、再び侍女たちが取り囲み磨き上げる。
そして私は薄衣を着せられ褥へと放り込まれた。
★☆★
初夜を終えた翌日、起き上がる事の出来ない私はあの日の告白を盛大に後悔することになった。
どうして「一滴も。」なんて言ったのだろう。
ワードのチョイスを間違った……。
バルは一語一句詳細に覚えていて、「溢さない」と言った私を一晩中攻め立てた。
「おはようリュル。愛してるよ。」
「…お、はよう。」
「今日は一日ゆっくり休んでね。」
バルはわたしにキスを落とすと身体を起こしてベッドを降りた。
その筋肉質な身体が朝日に照らされ、私は昨夜の色々を思い出して照れてしまう。
シャワーを浴びるため、ガウンを羽織り歩いていく彼の背中をぼんやりと眺める。
愛情を注ぐってそういう意味だったのだろうか?
初心者にはハードだ。
★☆★
「まだか?入っては駄目なのか?リュルの苦しむ声が聞こえる。」
「駄目です。お産場は女性にとっての戦場です。妃殿下からも、殿下を中に入れないようにと言われております。」
「………。」
「んぎゃあーんぎゃあー。」
「っ!」
「産まれたようですわ。殿下おめでとうございます。今、中の様子を確認して参ります。」
バルデンミドレアは忙しなく室内を歩き回る。
「殿下!男の子です。妃殿下もお元気で、今産後の処置が終わりましたらお会いになれますよ。」
「ああ、良かった。無事か。」
妊娠経過は順調だと侍医に聞いてはいたが不安だった。
「バル。」
「ありがとう。良くやってくれた。」
ティシアリュルは疲れながらもどこか達成感に満ちた表情をしていた。
「赤ちゃん、可愛いわね。ふふっ。」
「ああ、元気な男の子だそうだ。リュルは辛くないか?大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。」
「良かった。」
ティシアリュルのこの小さな身体で出産はどれほど大変だっただろう。一先ず安堵の息を吐く。
☆★☆
「ベイク、レイ、ミュゼ、エグザ、みんな集まってー。」
最初の出産の苦しみも何のその、彼女は子育てを精力的にこなし、4児の母となった。
我が王家は賑やかで、後宮内では子供達が走り回っている。
「ねぇ、バル。私本当に幸せだわ。私を幸せにしてくれてありがとう。」
「私も幸せだ。」
ガーネット王宮で働く者達は夫婦仲が良く、労働意欲も高い。
貴族達は他国との交易を積極的に行うようになり、ガーネット王国は豊かで平和な一時代を築いた。
この王宮内の雰囲気を作り出した当事者である王太子夫婦は、今日も人目を憚らずに仲睦まじく過ごしている。
そして今も、王太子妃は王宮内で働く人の恋のキューピットとして暗躍していた。
ー完ー
読んでいただきありがとうございました。
一週間前から体調を万全に整えるため、薬草スープを飲み、行動範囲を制限され、毎日、揉まれたり、擦られたり、塗られたり、蒸らされたりした。
今は包まれている。何にって?
何だかいい匂いの蒸しタオルに、だ。
昨日はまだ日の明るい内に寝かされ、夜更けに起こされこうして準備している。
ハードだ。
そうやって花嫁衣装に身を包み化粧を施せば、「誰?」と思うほどの仕上がりで、侍女達の手腕に感動する。
「リュル、綺麗だよ。僕だけの世界一の花嫁だ。」
バルは私の姿を見ると、花が咲いたように晴れやかに笑う。
勿論バルも王族らしく凛としていてとても格好いい。
「バルも素敵です。見惚れそうです。」
「ふはは、嬉しいな。リュルの隣に立てることが心底嬉しいし幸せだ。」
「私も、バルの隣に立っているのが自分なんて、夢のようです。」
「さぁ、行こう、花嫁どの。」
「はい。旦那様。」
私はバルにエスコートされ会場に向かう。
結婚式は荘厳な雰囲気の中執り行われ、私は無事に王太子妃となった。
王国中がお祝いムードで、庶民も仕事を休み、未来の国王陛下夫妻を見るために王宮前の広場に集まった。
バルコニーから見上げる空は透き通るようにどこまでも青く澄んでいた。
人々のざわめきと喧騒の中、祝砲が鳴り響く。
「この平和な国を、私たちは守っていくんだ。大変だろう。普通の貴族に嫁いだ方が楽かもしれない。けれど、私に協力してくれ。共に過ごしたい。」
国民に向かって手を振り、視線を前に向けたままバルが言った。その声は静かだが力強い響きがある。
「はい。どこまでもついていきます。」
私はバルと繋いでいる手に力を込めて応えた。
疲労困憊でヘロヘロの私を、再び侍女たちが取り囲み磨き上げる。
そして私は薄衣を着せられ褥へと放り込まれた。
★☆★
初夜を終えた翌日、起き上がる事の出来ない私はあの日の告白を盛大に後悔することになった。
どうして「一滴も。」なんて言ったのだろう。
ワードのチョイスを間違った……。
バルは一語一句詳細に覚えていて、「溢さない」と言った私を一晩中攻め立てた。
「おはようリュル。愛してるよ。」
「…お、はよう。」
「今日は一日ゆっくり休んでね。」
バルはわたしにキスを落とすと身体を起こしてベッドを降りた。
その筋肉質な身体が朝日に照らされ、私は昨夜の色々を思い出して照れてしまう。
シャワーを浴びるため、ガウンを羽織り歩いていく彼の背中をぼんやりと眺める。
愛情を注ぐってそういう意味だったのだろうか?
初心者にはハードだ。
★☆★
「まだか?入っては駄目なのか?リュルの苦しむ声が聞こえる。」
「駄目です。お産場は女性にとっての戦場です。妃殿下からも、殿下を中に入れないようにと言われております。」
「………。」
「んぎゃあーんぎゃあー。」
「っ!」
「産まれたようですわ。殿下おめでとうございます。今、中の様子を確認して参ります。」
バルデンミドレアは忙しなく室内を歩き回る。
「殿下!男の子です。妃殿下もお元気で、今産後の処置が終わりましたらお会いになれますよ。」
「ああ、良かった。無事か。」
妊娠経過は順調だと侍医に聞いてはいたが不安だった。
「バル。」
「ありがとう。良くやってくれた。」
ティシアリュルは疲れながらもどこか達成感に満ちた表情をしていた。
「赤ちゃん、可愛いわね。ふふっ。」
「ああ、元気な男の子だそうだ。リュルは辛くないか?大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。」
「良かった。」
ティシアリュルのこの小さな身体で出産はどれほど大変だっただろう。一先ず安堵の息を吐く。
☆★☆
「ベイク、レイ、ミュゼ、エグザ、みんな集まってー。」
最初の出産の苦しみも何のその、彼女は子育てを精力的にこなし、4児の母となった。
我が王家は賑やかで、後宮内では子供達が走り回っている。
「ねぇ、バル。私本当に幸せだわ。私を幸せにしてくれてありがとう。」
「私も幸せだ。」
ガーネット王宮で働く者達は夫婦仲が良く、労働意欲も高い。
貴族達は他国との交易を積極的に行うようになり、ガーネット王国は豊かで平和な一時代を築いた。
この王宮内の雰囲気を作り出した当事者である王太子夫婦は、今日も人目を憚らずに仲睦まじく過ごしている。
そして今も、王太子妃は王宮内で働く人の恋のキューピットとして暗躍していた。
ー完ー
読んでいただきありがとうございました。
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