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ブルド視点
しおりを挟む俺は子爵家の三男。いずれは家を出る身のため、幼い頃から鍛練を重ね、今では騎士団でも指折りの剣の使い手となった。
今回、ズッブュル先輩と共にバルデンミドレア殿下の視察に同行することになった。
俺の強さと忠誠心を評価されたようで意気軒昂とする。
もう一人は見たこともない騎士で、細くて女みたいな顔をしていた。いざというときに、影武者に出来るよう、似た背格好の者を選んだと聞いたが……。
「俺はズッブュル、こいつはブルドだ。よろしく頼む。」
「は、はい。僕はライルと言います。よ、よろしくお願いします。」
俺たちの挨拶にライルは肩を跳ね上げて怯えている。
俺たちの見た目は厳つい。目つきが悪いことも自覚しているが、騎士団内で怯える奴は新人ぐらいだ。
どこぞの令嬢かと思うような反応に不安が募る。
大丈夫か?
見た目も身のこなしも強いとは思えない。
ズッブュル先輩は
「もしかしてご令嬢かー?護衛に潜り込んで何する気だ?高位貴族の思惑が絡んでいるかもしれんな。敵意は感じないが……。あーあでもあれじゃー何も出来んよ。」
と放置の姿勢だ。
俺はライルの動向を見張るよう殿下に仰せつかり、ライルの跡をつける。
「えっ!」
「あっ!す、すまん。」
ライルが水浴びをしていた。
他の騎士のように娼館に行ったこともない俺にライルの肢体は刺激的過ぎた。
暫くはライルの顔を見る度に思い出すので、任務に集中するのに腐心した。
王都に戻ってからも監視を続けたが、ある日殿下から捕らえるよう命じられた。
ライルは子供みたいに取り乱し怯えている。
俺が監視をしていたライルは悪いことを企めるような性格では無い。単純に殿下を追いかけ回しているように見えた。
ライルが俺たちを見る視線に胸が痛む。
それでも、私情を挟む訳にはいかない。
数日後ティシアリュル様によりライルはあっさりと牢から出された。
「おー、ライル、っと今はライラか。久しぶりだな。」
ライラが王宮の廊下を歩いている後ろ姿を見掛け、肩を叩こうとして挙げた手を気付かれないようにそっと下ろす。
ライラは貴族令嬢に戻り、ワンピースを着ていた。もう騎士の時のように気安く触ってはいけないだろう。
俺は貴族令嬢から熊のようだと恐れられるような見た目だ。
「ブルドー、久しぶり。今リュルに言われて文化交流のサークルに参加してたの。」
「大変だな。色んな語学も学ぶんだろう?」
「そうよー大変。勉強もだけど貴族の中に混じるのが…。」
「ははは、騎士団の奴らと違って本音と建前を使い分けるからな。」
「何であんなに回りくどい話し方するのかしら?」
「幼い頃からの教育だろうよ。俺はガキの頃から騎士を目指していたが、跡取りの兄は貴族らしいぜ。」
「えっ!ブルドって貴族なの?」
「ああ、一応子爵家の三男だ。いずれは家を出る。」
「そっか、そうなんだね。あーでもやっぱりブルドと話すのは楽だなー。貴族の男ってどーしてあんなに気取ってしゃべるの?もーあそこに居るのも辛いわー。」
ライラは距離を感じるようになった俺とは逆で騒動の後からは随分気安く話すようになった。
「結婚相手を見つけるんだろう?」
「うーん。難しいかもー。あっ、今から家庭教師も来るんだった。急いで帰らなくちゃ。じゃあねー。」
ライラは手を振って去っていった。
ライラはリュルに男爵家に入ってくれるお相手を探すよう命じられ、貴族令嬢としての教育も受け始めたらしい。
ライラの背中を見送りながら、ほんの少し胸が痛むのを感じる。
急いで歩いているのか、慣れないヒールでバランスを崩しかけている。何とか転ばず踏みとどまったようだ。
ライラは危なっかしくて側で支えてやれないことがもどかしかった。視察中は見ていてやれたのに……。
その時俺はライラを見るのに夢中で、すっかり油断していた。
だから、
王妃様付きの侍女が物陰から俺たちの様子を見ていて、王妃様に報告するなんて思わなかった。
後に俺はズッブュル先輩から、殿下と妃殿下が連日のようにライラに俺の良いところを話して薦めていたと聞いた。
俺は熊のような見た目だし、ライラの隣に立つのには相応しくない。
聞いて直ぐに恥ずかしいから止めて欲しいと直訴したが、時既に遅し。
王宮中のお節介な人達のおかげで、今俺とライラは共にいる。
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どうしても我慢出来ず感想を書きます‼️
先日、鍋様の別のお話を読んで、
その後他の作品を読みふけってます❗
どれも凄く好きです‼️
この作品は、ヒロインがヒドインではなく、悪役令嬢と仲良くなり幸せな終わりでとても素敵でした❗
桜様
ずっと前に投稿したお話を見つけて読んでいただきありがとうございます
・*・ ∧,,∧ ∧_∧ ・*・
'. ( 。・ω・)(・ω・。 ) .'
'・ | つ♥と |.・'
*゚' ・。。・゚ '*
τнänκ чöü ♬*゜
とても励みになります。
∧,,∧ ♪
.(´・ω・`) ♪ズンドコ
( つ つ
(((⌒ ) ))
し' u
♪ ∧,,∧ ドコドコ♪
∩´・ω・`)
ヽ ⊂ノ ♪
(( ( ⌒) ))
u し'
∧,,∧ ズンドコドン♪
(・ω・`) /')
⊂⊂:::: _ノ彡
し彡
みんなハッピーエンド✨
こういうお話大好きです♡
小説通りにいかなかったけど、ライラさんも幸せになれそうだし、殿下達もやっとイチャイチャ出来て良かった^ ^
これからも楽しく読ませて頂きます!
ブルーグラス様🌟
感想ありがとうございます
(*u᎑u)感謝♡
大団円って良いですよね。
私も読むときはストレス少なめなお話が好きです。
感想をいただきとても励みになりました
∩🎀∩
(*-・▽・-*)
⭐* 〇💗〇 *⭐
☆。*・:+*゚ ゚*+:・*。☆
🎵 . ThAnK yOu . 🎵
ごちそうさまでした(///ω///)♪
鍋さまの作品2作目です。
全員HAPPYなんて、何と素晴らしいお話でしょうか!
かまくらで暖かいシチューを食べてる感じ?逆に露天温泉でジェラード食べてる感じ?極上の幸せ感半端無いです。
今日まだ何も食べてないですが、この作品だけでホクホクと身体が温まりました。
素敵な作品をありがとうございます。
明日からも更に幸せを味わうべく他の作品を楽しませていただきます。
千夜歌様〜🌟
感想ありがとうございます
(ㅅ•᎑•)♡*.+゜(ㅅ•᎑•)♡*
このお話は悪役なしのお話でした!
基本的にはハッピーエンドが大好きです💖
千夜歌様、このお話も読んでいただいてありがとうございます。
本当に嬉しいです!
ヾ(´︶`♡)ノ ♬