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三章
僥倖
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この、一つになれる瞬間は、いつも特別だ。ほんのしばらくの間だけ、忠頼が俺の一部になって、俺も、忠頼の一部になれる。
忠頼は俺の腰を掴み、下から突き上げる。
「あ、はぁ……んうぅっ……っ」
獣のような、掠れた呻きが己の口から漏れるのを、俺はただ聴いていた。中を絶え間なく刺激され、俺は何も考えられなくなっていく。
「……っん……」
忠頼が俺を引き寄せる。唇が触れ、再び互いの舌が絡み合う。喘ぎや吐息が混ざりあい、恥ずかしいくらい、大きく聞こえる。けれど、そんなことを気にする余裕は、もうなかった。
俺たちは飽きることなく、上からも下からも、互いを貪った。
快楽の、わずかな切れ間に、五郎兵衛の言葉が浮かんだ。
――子供、か。
俺はふと思う。俺が女だったらよかったのに。そうしたら忠頼のために、俺も子を産んでやれた。
――でも――。
俺はふと、目を薄く開けた。額がくっつきそうなほど、近くに忠頼を見る。
酷く切迫したような、呼吸の音。汗で濡れた掌が、俺の腰を強くつかんでいる感触。
忠頼の双眸は、暗闇の中で、光っていた。その暗い光は、重く、俺の心臓を貫通する。――忠頼は、死の淵に、いるのだ。
そう気が付いた瞬間、俺は体中の血が、ぞわりと波打つのを感じた。
臓腑が絞られるように、苦しくなる。氷のような冷たい恐怖が、背筋を這う。だが――
――僥倖だ。
俺は揺さぶられ続けながら、忠頼をつなぎとめるように、掻き抱いた。
――俺がもし女だったら、忠頼がこうして、死に向かっているのを、同じ恐怖心で感じることは出来なかったろう。
――こうして死の淵で、足掻いて藻掻いて、必死に誰かを求める、この男の、この顔を見ることはなかっただろう。
――今こいつの苦しみを、一番傍で感じているのは、この世でたった一人――俺だけだ。
全てを失おうとしているときに、こんな満ち足りた幸福が訪れるなど、俺は考えたこともなかった。
俺はただただ、今、忠頼とともにいることの喜びに、涙が零れ、身体が震えた。
忠頼が、ふと動きを止める。肩で息をしながら、俺の目じりをぺろりと舐める。
「……っ、いいか」
俺は頷く。忠頼の、俺の腰を掴む手に力がこもる。
忠頼が俺の背を抱え、押し倒すように、俺を仰向けにした。
「ん、ぃっ……んぅっ、ぁ」
忠頼のものが、先程とは違うところを擦る感覚に、俺の全身が、歓喜する。
――もっと。
俺は夢中で、忠頼の腰に足を絡ませた。段々激しくなる忠頼の腰つきに、俺も、自然に己の腰を合わせていた。
汗にまみれた互いの身体が、擦れ合い、奥の奥まで、繋がり、互いに快楽を与えあう。
「……っあ、あっ……っ」
ふいに、快楽の大きな波が来る予兆がして、俺は鳴いた。身体の奥がぎゅうっと締まる。
「――っ」
忠頼が、それを抜こうとするのを、俺は足に力を込めて阻止する。
「やだっ……離す、な……っ」
「……腹が痛くなるぞ、あとで」
俺は子供のように、何度も首を左右に振る。
忠頼は一瞬逡巡し、すぐに俺の言葉に従った。
最初はゆっくりと、だんだん早く、忠頼は腰を動かしていく。
「は、あ……っただより、ただより……っ」
俺は再び、達した。
忠頼が大きく腰を引き、何度もそれを打ち付ける。
目の前がちかちかした。俺はさらに深く、身体の一番奥に響く快感に、揺さぶられ、揺蕩い、陶酔してゆく。
「……ぁあ、……んぅっ、あぅ……っ」
忠頼が激しく腰を打ち付ける音と、俺の喘ぎが重なる。と同時に、忠頼は俺の中に精を吐いた。
忠頼は俺の腰を掴み、下から突き上げる。
「あ、はぁ……んうぅっ……っ」
獣のような、掠れた呻きが己の口から漏れるのを、俺はただ聴いていた。中を絶え間なく刺激され、俺は何も考えられなくなっていく。
「……っん……」
忠頼が俺を引き寄せる。唇が触れ、再び互いの舌が絡み合う。喘ぎや吐息が混ざりあい、恥ずかしいくらい、大きく聞こえる。けれど、そんなことを気にする余裕は、もうなかった。
俺たちは飽きることなく、上からも下からも、互いを貪った。
快楽の、わずかな切れ間に、五郎兵衛の言葉が浮かんだ。
――子供、か。
俺はふと思う。俺が女だったらよかったのに。そうしたら忠頼のために、俺も子を産んでやれた。
――でも――。
俺はふと、目を薄く開けた。額がくっつきそうなほど、近くに忠頼を見る。
酷く切迫したような、呼吸の音。汗で濡れた掌が、俺の腰を強くつかんでいる感触。
忠頼の双眸は、暗闇の中で、光っていた。その暗い光は、重く、俺の心臓を貫通する。――忠頼は、死の淵に、いるのだ。
そう気が付いた瞬間、俺は体中の血が、ぞわりと波打つのを感じた。
臓腑が絞られるように、苦しくなる。氷のような冷たい恐怖が、背筋を這う。だが――
――僥倖だ。
俺は揺さぶられ続けながら、忠頼をつなぎとめるように、掻き抱いた。
――俺がもし女だったら、忠頼がこうして、死に向かっているのを、同じ恐怖心で感じることは出来なかったろう。
――こうして死の淵で、足掻いて藻掻いて、必死に誰かを求める、この男の、この顔を見ることはなかっただろう。
――今こいつの苦しみを、一番傍で感じているのは、この世でたった一人――俺だけだ。
全てを失おうとしているときに、こんな満ち足りた幸福が訪れるなど、俺は考えたこともなかった。
俺はただただ、今、忠頼とともにいることの喜びに、涙が零れ、身体が震えた。
忠頼が、ふと動きを止める。肩で息をしながら、俺の目じりをぺろりと舐める。
「……っ、いいか」
俺は頷く。忠頼の、俺の腰を掴む手に力がこもる。
忠頼が俺の背を抱え、押し倒すように、俺を仰向けにした。
「ん、ぃっ……んぅっ、ぁ」
忠頼のものが、先程とは違うところを擦る感覚に、俺の全身が、歓喜する。
――もっと。
俺は夢中で、忠頼の腰に足を絡ませた。段々激しくなる忠頼の腰つきに、俺も、自然に己の腰を合わせていた。
汗にまみれた互いの身体が、擦れ合い、奥の奥まで、繋がり、互いに快楽を与えあう。
「……っあ、あっ……っ」
ふいに、快楽の大きな波が来る予兆がして、俺は鳴いた。身体の奥がぎゅうっと締まる。
「――っ」
忠頼が、それを抜こうとするのを、俺は足に力を込めて阻止する。
「やだっ……離す、な……っ」
「……腹が痛くなるぞ、あとで」
俺は子供のように、何度も首を左右に振る。
忠頼は一瞬逡巡し、すぐに俺の言葉に従った。
最初はゆっくりと、だんだん早く、忠頼は腰を動かしていく。
「は、あ……っただより、ただより……っ」
俺は再び、達した。
忠頼が大きく腰を引き、何度もそれを打ち付ける。
目の前がちかちかした。俺はさらに深く、身体の一番奥に響く快感に、揺さぶられ、揺蕩い、陶酔してゆく。
「……ぁあ、……んぅっ、あぅ……っ」
忠頼が激しく腰を打ち付ける音と、俺の喘ぎが重なる。と同時に、忠頼は俺の中に精を吐いた。
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