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三章
自分で動いてごらん
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運命が、ぽつり、ぽつりと滴り落ち、目の前の地面に大きな穴を穿っていくのを、俺たちはただ、黙って見守っていた。
ここは、一番暖かく光に満ちた場所であると同時に、濃密な、闇の底だった。
二人なら、怖さを紛らせることができると、初めは思った。でもそれが、ただの幻想であるというのは、すぐにわかった。
俺たちは、抗えない運命の中で、文字通り、指一本さえ動かせないでいる。睦み合っていても、言葉を交わしても、いつも目の端に、死の暗い影がちらつく。
俺は、ゆっくりと息を吐き出し、忠頼にしがみ付いた。そうすることで、忠頼のすべてを、自分の中に永久に保っていられるかのように。
俺は忠頼に訊く。
「してほしいこと、何かないか?」
忠頼は、俺の肩をするりと撫でる。
「もう、十分だ」
「なんでもいいから」
俺は食い下がった。俺の少し切迫した声音に、忠頼は少し考えてから、言った。
「……では、名前を、呼んでくれ」
俺は目を瞬いた。
「それが、願いか?」
「ああ。お前は、こういう時にしか、俺の名を呼ばん」
忠頼は抗議を込めた口調で、そう主張する。「
「そんなこたねえだろ」
「ある」
俺は、耳の下あたりを掻いた。
「だって……しょうがねえだろ。他の従者がいる前で、主の名を呼び捨てで呼ぶ訳にもいかねえし」
「だから、今頼んでいるのだ」
「……じゃ、た……ただより」
俺は少し俯きながら言った。あえて要求されて、相手の名を呼ぶのも、やはりどこか気恥ずかしい。だが忠頼は、すげなく言った。
「足りぬ。もっと沢山、呼んでくれ」
「わかったって。……た……」
俺は、ちらと忠頼を上目づかいに見る。忠頼は、覗き込むようにして、じっとこちらを見ていた。
「そんな見んな。恥ずかしいだろ」
俺は忠頼の胸を押し返すようにして言った。
「そうか?」
「そうだ」
俺は忠頼の唇に、軽く、己の唇を重ねる。それからゆっくりと、忠頼の胸から腹に向かい、指を添わせていった。
「だから――俺が――そう言いたくなるように……したらいいんじゃねえの」
忠頼は、少しの間の後、眉をひそめて言った。
「……そういうことを言うのは、恥ずかしくないのか?」
今度は俺が、声を荒げる番だった、
「てめえな、ひとが一生懸命誘って――」
「冗談だ。わかっている」
忠頼が、俺をたしなめるように、俺の脇腹を撫でた。掌はそのまま、腰や下腹に降りて行く。俺はもぞもぞと身体を捩る。
「――ン……っ」
俺は己の太腿を、忠頼のものに、少し摺りつけるように動かす。忠頼のものが再び硬くなり、俺の内側も、すぐに熱を帯びていく。
「俺の上に、おいで」
くいと手を引かれ、俺は、素直に、忠頼の腹の上に跨る。
忠頼が、潤滑剤を付けた指先で、俺の足の間を、するりとなぞる。
「くぅ……っ」
俺は甘い息を吐く。もうすでに、柔らかくなってしまっているそこは、悦んで忠頼の指を迎入れると、すぐにひくひくと収縮した。
忠頼が囁いた。
「自分で挿れて、動いてごらん」
「えぇ……? 何で……」
忠頼の指が、俺の良いところを、ぐりぐりと擦る。
「俺のしてほしいことを、してくれるんだろう」
「ン……っいい、けど……」
ここは、一番暖かく光に満ちた場所であると同時に、濃密な、闇の底だった。
二人なら、怖さを紛らせることができると、初めは思った。でもそれが、ただの幻想であるというのは、すぐにわかった。
俺たちは、抗えない運命の中で、文字通り、指一本さえ動かせないでいる。睦み合っていても、言葉を交わしても、いつも目の端に、死の暗い影がちらつく。
俺は、ゆっくりと息を吐き出し、忠頼にしがみ付いた。そうすることで、忠頼のすべてを、自分の中に永久に保っていられるかのように。
俺は忠頼に訊く。
「してほしいこと、何かないか?」
忠頼は、俺の肩をするりと撫でる。
「もう、十分だ」
「なんでもいいから」
俺は食い下がった。俺の少し切迫した声音に、忠頼は少し考えてから、言った。
「……では、名前を、呼んでくれ」
俺は目を瞬いた。
「それが、願いか?」
「ああ。お前は、こういう時にしか、俺の名を呼ばん」
忠頼は抗議を込めた口調で、そう主張する。「
「そんなこたねえだろ」
「ある」
俺は、耳の下あたりを掻いた。
「だって……しょうがねえだろ。他の従者がいる前で、主の名を呼び捨てで呼ぶ訳にもいかねえし」
「だから、今頼んでいるのだ」
「……じゃ、た……ただより」
俺は少し俯きながら言った。あえて要求されて、相手の名を呼ぶのも、やはりどこか気恥ずかしい。だが忠頼は、すげなく言った。
「足りぬ。もっと沢山、呼んでくれ」
「わかったって。……た……」
俺は、ちらと忠頼を上目づかいに見る。忠頼は、覗き込むようにして、じっとこちらを見ていた。
「そんな見んな。恥ずかしいだろ」
俺は忠頼の胸を押し返すようにして言った。
「そうか?」
「そうだ」
俺は忠頼の唇に、軽く、己の唇を重ねる。それからゆっくりと、忠頼の胸から腹に向かい、指を添わせていった。
「だから――俺が――そう言いたくなるように……したらいいんじゃねえの」
忠頼は、少しの間の後、眉をひそめて言った。
「……そういうことを言うのは、恥ずかしくないのか?」
今度は俺が、声を荒げる番だった、
「てめえな、ひとが一生懸命誘って――」
「冗談だ。わかっている」
忠頼が、俺をたしなめるように、俺の脇腹を撫でた。掌はそのまま、腰や下腹に降りて行く。俺はもぞもぞと身体を捩る。
「――ン……っ」
俺は己の太腿を、忠頼のものに、少し摺りつけるように動かす。忠頼のものが再び硬くなり、俺の内側も、すぐに熱を帯びていく。
「俺の上に、おいで」
くいと手を引かれ、俺は、素直に、忠頼の腹の上に跨る。
忠頼が、潤滑剤を付けた指先で、俺の足の間を、するりとなぞる。
「くぅ……っ」
俺は甘い息を吐く。もうすでに、柔らかくなってしまっているそこは、悦んで忠頼の指を迎入れると、すぐにひくひくと収縮した。
忠頼が囁いた。
「自分で挿れて、動いてごらん」
「えぇ……? 何で……」
忠頼の指が、俺の良いところを、ぐりぐりと擦る。
「俺のしてほしいことを、してくれるんだろう」
「ン……っいい、けど……」
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