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幼少期
30~ステラの話~
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ある時、貧しい村で子供が生まれた。
その子供は、幸か不幸か瞳も髪も光を通さないほどの漆黒を持っていた。
父親はだれかわからなかった。
女は突然襲われたのだ。
生みたくはなかったが世間体を気にした女は一人で子供を産んだ。
生まれてきたのは、この世界ではほとんどいない「黒」を持つものだった。
悲鳴を上げた母親は早々に教会に駆け込んだ。
もちろん子供を手放すためだ。
母親が貴族であれば子供は歓迎されたことだろう。
だが、娘は貧しい村の娘。学などほとんどない。
ただ、知らないものは恐ろしいもので、周りにいない色を恐れたのだ。
教会の司祭は子供を手放すという母親をなだめ引き取りを拒否しようとしていた。
子供の色を見るまでは――
司祭は目の色を変え、母親に大金を握らせ子供を奪うように引き取った。
母親は喜んで大金を受け取り帰っていった。
教会の司祭は真っ黒の彼を見てあることを思いついた。
漆黒は魔力が豊富な証。
魔力が常に作り出され、枯れることはない。
子供から魔力を奪い、貴族とのつながりを作ることで教皇となることを夢見た司祭は、ほかの司祭の目を盗み彼を監禁した。
数年後――
王族にかくまってもらい、地位を得た彼は、高位司祭として王都の教会に勤めていた。
暗い檻の中で魔道具によって魔力をただ吸われる彼の瞳には何も映っていなかった。
怒りも悲しみも絶望も。
ただの無だ。幸せな日々を知らないから。
暴力を振るわれることはなかったが、彼の存在などなかったように誰も彼を構わない。
他者との触れ合いを知らない彼は感情さえ失った。
そもそも、最初からなかったかもしれない。
彼は魔力を吸われることに何も感じていなかった。
ただ、日々を過ごすだけだ。
そんな生活が10年続いた。
成長するにつれ魔力がさらに増えた。
魔道具では吸いきれないほどの量だ。
それがある時、溢れた。
魔導具にひびが入り、音を立てて魔導具が落ちた。
その瞬間、屋敷中の窓が、扉が、屋根が壊された。
魔力を狙って魔物が集まってきたのだ。
途端に上がる悲鳴と轟音。
まさに地獄絵図だ。
それを見ても彼は何も思わなかった。
ただ、襲い来る魔物の攻撃をよけようと腕を払った。それだけで檻はいとも簡単に壊れた。
急に手に入れた自由に彼は動けなかった。
それでも魔物は襲ってくるので追い立てられるように外に出た。
大量の魔物に誰も彼に構う人はいなかった。
彼を知るものはすでに死んでいた。
男の死体を横目に彼は廊下を進む。
助けを呼ぶ声も聞こえたが、彼はそれらを素通りした。
助けたくなかった、などの理由ではない。
何が起きているのか、何から逃げまどっているのか、彼はわからなかった。
時折魔物が襲ってくるが、彼にとっては風が吹くくらいの感覚だ。
教わらずとも魔法は使えたし、魔力は彼を盾のように守ってくれていた。
魔物からも炎からも。
あちこちから火の手が上がり人々の悲鳴が聞こえた。
魔物が自分を狙っているなど知らなかった。
ただ、静かな場所に行きたかった彼はゆっくりとした足取りで屋敷を出た。
初めての外。彼の知らない世界。
空は暗かったが、後ろを見れば炎に包まれ昼のように明るかった。
肉の焼ける匂いにわずかに眉間にしわを寄せ、屋敷に背を向けた。
もう彼は振り返らなかった。
魔力がある限り生き物は生きられる。
魔道具のなくなった今、彼を縛るものはなくなった。
ただ、一つ誤算があるとすれば…魔力の制御の仕方を知らなかったことだろう。
魔物を追い払うのに無意識に魔法を使い、無駄に魔力を垂れ流す。
その魔力に魔物が集まる。
きりのない作業が一時間、二時間、三時間と続いた。
その結果、初めて魔力が少なくなった。
魔力だけで生きていた彼にとって魔力の減りは体力を減らし、空腹感まで訴える。
何も食べなくても生きていけた彼にとっては自分に何が起きているのかわからない。
ただ、魔力だけはどんどん減っていく。
気付かないうちに彼の無限とも思えた魔力は底を突こうとしていた。
突然、感じる浮遊感。
まさに今、自分を襲おうとする魔物の姿を最後に彼の意識は途切れてしまった。
その子供は、幸か不幸か瞳も髪も光を通さないほどの漆黒を持っていた。
父親はだれかわからなかった。
女は突然襲われたのだ。
生みたくはなかったが世間体を気にした女は一人で子供を産んだ。
生まれてきたのは、この世界ではほとんどいない「黒」を持つものだった。
悲鳴を上げた母親は早々に教会に駆け込んだ。
もちろん子供を手放すためだ。
母親が貴族であれば子供は歓迎されたことだろう。
だが、娘は貧しい村の娘。学などほとんどない。
ただ、知らないものは恐ろしいもので、周りにいない色を恐れたのだ。
教会の司祭は子供を手放すという母親をなだめ引き取りを拒否しようとしていた。
子供の色を見るまでは――
司祭は目の色を変え、母親に大金を握らせ子供を奪うように引き取った。
母親は喜んで大金を受け取り帰っていった。
教会の司祭は真っ黒の彼を見てあることを思いついた。
漆黒は魔力が豊富な証。
魔力が常に作り出され、枯れることはない。
子供から魔力を奪い、貴族とのつながりを作ることで教皇となることを夢見た司祭は、ほかの司祭の目を盗み彼を監禁した。
数年後――
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暗い檻の中で魔道具によって魔力をただ吸われる彼の瞳には何も映っていなかった。
怒りも悲しみも絶望も。
ただの無だ。幸せな日々を知らないから。
暴力を振るわれることはなかったが、彼の存在などなかったように誰も彼を構わない。
他者との触れ合いを知らない彼は感情さえ失った。
そもそも、最初からなかったかもしれない。
彼は魔力を吸われることに何も感じていなかった。
ただ、日々を過ごすだけだ。
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それがある時、溢れた。
魔導具にひびが入り、音を立てて魔導具が落ちた。
その瞬間、屋敷中の窓が、扉が、屋根が壊された。
魔力を狙って魔物が集まってきたのだ。
途端に上がる悲鳴と轟音。
まさに地獄絵図だ。
それを見ても彼は何も思わなかった。
ただ、襲い来る魔物の攻撃をよけようと腕を払った。それだけで檻はいとも簡単に壊れた。
急に手に入れた自由に彼は動けなかった。
それでも魔物は襲ってくるので追い立てられるように外に出た。
大量の魔物に誰も彼に構う人はいなかった。
彼を知るものはすでに死んでいた。
男の死体を横目に彼は廊下を進む。
助けを呼ぶ声も聞こえたが、彼はそれらを素通りした。
助けたくなかった、などの理由ではない。
何が起きているのか、何から逃げまどっているのか、彼はわからなかった。
時折魔物が襲ってくるが、彼にとっては風が吹くくらいの感覚だ。
教わらずとも魔法は使えたし、魔力は彼を盾のように守ってくれていた。
魔物からも炎からも。
あちこちから火の手が上がり人々の悲鳴が聞こえた。
魔物が自分を狙っているなど知らなかった。
ただ、静かな場所に行きたかった彼はゆっくりとした足取りで屋敷を出た。
初めての外。彼の知らない世界。
空は暗かったが、後ろを見れば炎に包まれ昼のように明るかった。
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もう彼は振り返らなかった。
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ただ、一つ誤算があるとすれば…魔力の制御の仕方を知らなかったことだろう。
魔物を追い払うのに無意識に魔法を使い、無駄に魔力を垂れ流す。
その魔力に魔物が集まる。
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その結果、初めて魔力が少なくなった。
魔力だけで生きていた彼にとって魔力の減りは体力を減らし、空腹感まで訴える。
何も食べなくても生きていけた彼にとっては自分に何が起きているのかわからない。
ただ、魔力だけはどんどん減っていく。
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まさに今、自分を襲おうとする魔物の姿を最後に彼の意識は途切れてしまった。
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