32 / 38
幼少期
31~ステラの話2~
しおりを挟む
突然始まったステラ劇場。
臨場感たっぷりに演じてくれるのはありがたいが、まず何の話なのか説明してほしい。
母上を見た感じ、知っていそうなので初めて聞く話じゃないのだろう。
「ステラ?あのなんの話を…」
「シっ、今いいところなので」
人差し指を口元に持ってくるステラに若干イラっとしつつ、言われるがままに黙ることにする。
ゴホンと咳払いするステラに「どうぞ、続けて」と手のひらをステラに向ける。
――意識を失う直前、最後に見えたのは緑色の瞳だった。
パチパチという音に目を覚ました彼は、自分が寝ていることに気が付いた。
頭上には青い空が広がっており、どうやら一夜明けたようである。
上体を起こし、あたりを見回すと人の気配はなく、すぐ近くに焚火が燃えていた。
この音で目を覚ましたのだろう。
屋敷を出たはいいものの、これからどうすればいいのか全く分からない。
体力も魔力も有り余っている。だが、彼はその場から動けなかった。
困った彼はそのうち人が戻ってくるだろうと、待つことにした。
何時間経ったのか彼には知るすべがなかった。
ただ、空がだんだんと暗くなっていくので随分と経っているのだろう。
どれだけ経っても人も、動物も姿を現さない。
あれだけ空を覆うように魔物がいたというのに今は物音ひとつしない。
空は暗くなっていくのに焚火の火はすでに消えている。
あたりがすっかり暗くなったころ、がさりと葉の踏まれた音がした。
その音のする方に振り向くとぼんやりと明かりが見えた。
「うわっ、びっくりしたぁ。心臓が止まるかと思ったよ。君、真っ黒だから人がいると思わなかったよ。もう少し気配を出してもらえると助かるなぁ」
ははは、と笑いながらその男は現れた。
手にはランタンを持っており男の手元だけがうすぼんやりと見える。
「ずっとここにいたのかい?」
彼はこくりとうなずいた。
「そうか、それは悪いことをしたな。君、どこか行くところは?」
彼は首を振った。
「それなら、うちに来るかい?」
手を差し出す男の手におずおずと自分の手を伸ばした。
「といっても、大きな家じゃないんだ。小さな小屋みたいなところだけど我慢してほしいな」
二人手をつなぎながら男の少し後ろを歩いていく。
10分ほど歩いていくと明かりが見えた。
と言っても、まだ森の中だ。
どうやらそこに住んでいるらしい。
男は小さな家だと言っていたが、彼にとっては大きな家に見える。
彼のいたところに比べればどこだって立派な家だろう。
男は道中いろいろ話しかけてきた。
…が、生まれてこの方外に出たこともない彼は、聞いていることしかできなかった。
ただ、彼の心には何か温かいものが生まれていた。
胸に手を当ててみるが、怪我をしたわけではなさそうだ。
それが何なのかわからなかったが嫌ではなかった。
「さ、ここだよ」
男が扉を開けるとキィっと、木のきしむ音がした。
部屋の中は家具が少なく必要最低限という感じだ。
魔道具によって部屋の暖かさは一定に保たれているようで、木の家だというのに中は温かかった。
彼が部屋に入った瞬間、家中の魔道具が一瞬点滅した。
そのことに男は不思議そうな顔をしたものの、声には出さなかった。
初めて男の全体を見た。
やはり、気を失った時に見たのは彼で間違いないだろう。
新緑色の髪と瞳を持つ美しい男だった。
――
ちょっと待ってくれ。緑色の髪と瞳を持つ男に見覚えがありすぎるんだが。
さすがに流せず待ったをかける。
「ちょっと待ってくれないか。誰の話をしているんだ?」
「シルヴァ様、お分かりになりましたか? そうです、今出てきたのはリュカ様です」
リュカの未来ということか?
それなら、どうして一人で森の中にいるんだ。次期伯爵だぞ。
俺は?どうなっているんだ。
臨場感たっぷりに演じてくれるのはありがたいが、まず何の話なのか説明してほしい。
母上を見た感じ、知っていそうなので初めて聞く話じゃないのだろう。
「ステラ?あのなんの話を…」
「シっ、今いいところなので」
人差し指を口元に持ってくるステラに若干イラっとしつつ、言われるがままに黙ることにする。
ゴホンと咳払いするステラに「どうぞ、続けて」と手のひらをステラに向ける。
――意識を失う直前、最後に見えたのは緑色の瞳だった。
パチパチという音に目を覚ました彼は、自分が寝ていることに気が付いた。
頭上には青い空が広がっており、どうやら一夜明けたようである。
上体を起こし、あたりを見回すと人の気配はなく、すぐ近くに焚火が燃えていた。
この音で目を覚ましたのだろう。
屋敷を出たはいいものの、これからどうすればいいのか全く分からない。
体力も魔力も有り余っている。だが、彼はその場から動けなかった。
困った彼はそのうち人が戻ってくるだろうと、待つことにした。
何時間経ったのか彼には知るすべがなかった。
ただ、空がだんだんと暗くなっていくので随分と経っているのだろう。
どれだけ経っても人も、動物も姿を現さない。
あれだけ空を覆うように魔物がいたというのに今は物音ひとつしない。
空は暗くなっていくのに焚火の火はすでに消えている。
あたりがすっかり暗くなったころ、がさりと葉の踏まれた音がした。
その音のする方に振り向くとぼんやりと明かりが見えた。
「うわっ、びっくりしたぁ。心臓が止まるかと思ったよ。君、真っ黒だから人がいると思わなかったよ。もう少し気配を出してもらえると助かるなぁ」
ははは、と笑いながらその男は現れた。
手にはランタンを持っており男の手元だけがうすぼんやりと見える。
「ずっとここにいたのかい?」
彼はこくりとうなずいた。
「そうか、それは悪いことをしたな。君、どこか行くところは?」
彼は首を振った。
「それなら、うちに来るかい?」
手を差し出す男の手におずおずと自分の手を伸ばした。
「といっても、大きな家じゃないんだ。小さな小屋みたいなところだけど我慢してほしいな」
二人手をつなぎながら男の少し後ろを歩いていく。
10分ほど歩いていくと明かりが見えた。
と言っても、まだ森の中だ。
どうやらそこに住んでいるらしい。
男は小さな家だと言っていたが、彼にとっては大きな家に見える。
彼のいたところに比べればどこだって立派な家だろう。
男は道中いろいろ話しかけてきた。
…が、生まれてこの方外に出たこともない彼は、聞いていることしかできなかった。
ただ、彼の心には何か温かいものが生まれていた。
胸に手を当ててみるが、怪我をしたわけではなさそうだ。
それが何なのかわからなかったが嫌ではなかった。
「さ、ここだよ」
男が扉を開けるとキィっと、木のきしむ音がした。
部屋の中は家具が少なく必要最低限という感じだ。
魔道具によって部屋の暖かさは一定に保たれているようで、木の家だというのに中は温かかった。
彼が部屋に入った瞬間、家中の魔道具が一瞬点滅した。
そのことに男は不思議そうな顔をしたものの、声には出さなかった。
初めて男の全体を見た。
やはり、気を失った時に見たのは彼で間違いないだろう。
新緑色の髪と瞳を持つ美しい男だった。
――
ちょっと待ってくれ。緑色の髪と瞳を持つ男に見覚えがありすぎるんだが。
さすがに流せず待ったをかける。
「ちょっと待ってくれないか。誰の話をしているんだ?」
「シルヴァ様、お分かりになりましたか? そうです、今出てきたのはリュカ様です」
リュカの未来ということか?
それなら、どうして一人で森の中にいるんだ。次期伯爵だぞ。
俺は?どうなっているんだ。
112
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
魔王様の執着から逃れたいっ!
クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」
魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね
俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい
魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。
他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう
だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの
でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。
あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。
ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな?
はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。
魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。
次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?
それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか?
三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。
誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ
『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ
第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️
第二章 自由を求めてお世話になりますっ
第三章 魔王様に見つかりますっ
第四章 ハッピーエンドを目指しますっ
週一更新! 日曜日に更新しますっ!
ループ執愛症候群~初対面のはずなのに、執着MAXで迫られてます~
たぴおか定食
BL
事故で命を落とした高校生は、乙女ゲームの世界に貴族の少年、ルルスとして転生する。
穏やかな生活を送っていたある日、出会ったのは、宮廷魔導師の息子のノアゼル。
彼は初対面のはずのルルに涙ながらに言う…「今度こそ、君を守る。」
ノアは、ルルがゲームの矯正力により何度も命を落とす未来を繰り返し経験していた。
そのたびにルルを救えず、絶望の中で時を遡ることを選び続けた。
「君がいない世界なんて、いらない」
愛と執着を抱えた少年は、何度でもルルを取り戻す。
これは、転生した能天気なルルと、そんな彼に執着するノアが織りなす、激重タイムリープファンタジー。
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
縁結びオメガと不遇のアルファ
くま
BL
お見合い相手に必ず運命の相手が現れ破談になる柊弥生、いつしか縁結びオメガと揶揄されるようになり、山のようなお見合いを押しつけられる弥生、そんな折、中学の同級生で今は有名会社のエリート、藤宮暁アルファが泣きついてきた。何でも、この度結婚することになったオメガ女性の元婚約者の女になって欲しいと。無神経な事を言ってきた暁を一昨日来やがれと追い返すも、なんと、次のお見合い相手はそのアルファ男性だった。
生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない
いいはな
BL
田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。
ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。
そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。
月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。
ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー?
魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。
※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。
※ハッピーエンドです。
※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。
今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。
ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!
或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」
***
日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。
疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。
彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界!
リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。
しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?!
さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……?
執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人
ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー
※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇♀️
※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです
※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます
朝or夜(時間未定)1話更新予定です。
1話が長くなってしまった場合、分割して2話更新する場合もあります。
♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております!
感想も頂けると泣いて喜びます!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる