魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫

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青年期

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紫の絨毯で見たその人は、遠目から見てもわかるほどにきれいだった。
この世のものではないのかもしれない、そう思うほどに。
初めて見る、白。
真逆の色を持つ人。
背中には翼を隠し持っているに違いない。

きれい、美しい、…触れたい。

そんな感情を抱いたのが初めてで、そんな自分に戸惑った。
まだ、自分に感情が残っていたのかと。

きっと、触れたら消えてしまう。
いや、触れられたとて、自分が触ったらだめだ。
黒く汚れてしまうに決まっている。

みんなそうだった。
真っ黒の髪、真っ黒の瞳。
膨大な魔力を目の当たりにすると人は、本性をむき出しにする。
会う人みんな、おかしくなった。

最初は、優しく接してきた人もしばらくすると欲を出す。

美しい容姿ね。美しい魔力だ。こんな漆黒は見たことがない。
いくらならいい?
魔力を少しだけ…もう少しだけ。
魔力を、もっと、もっと。

もっと。

留まることを知らないように。

吐き気がする。

辛くてたまらなかった。
逃げ出したかった。
あの牢獄から。

だけど、手足には鎖がついていて魔法を使おうにも使い方が分からない。
というよりも、力が出ない。

まるで、首輪をつけられて飼われている気分だった。
実際、そうなのだろう。
飼われていた。鎖につながれ自由のない部屋で。

毎日、体が重たくて動くのさえ億劫だった。

逃げられたとしても…その先はどうする?
どこに行けばいいの。

外の世界を知らないのに。

きっと外に出られたって同じこと。
また、他の誰かに捕まる。
また、閉じ込められる。
また、魔力を取られる。

もう、嫌だ。


1年、2年…5年……10年。

月日だけが流れていく。
状況は何も変わらない。

涙はいつの間にか出なくなった。
声も出さなくなった。
誰にも届くことのない声を出すことに意味なんてないのだから。

もう、どうでもいいや。

見るもの全てが真っ黒で、光なんてどこにもない。

何も考えなければつらくない。
未来を想像しなければ怖くない。
期待しなければ裏切られない。

そう思っていたのに、急に重さがなくなった。

鎖にひびが入っていた。
誰もそのことに気づかない。

それでも、魔力は流れ続ける。

限界だった。

そこらじゅうから音がした。
屋敷全体が揺れた。
次いで聞こえたのは人の声。怒声、悲鳴、泣き声、叫び声。

それらを通り過ぎて…気が付けば外に出ていた。
初めての外、いざ出てみても、心は動かなかった。

なのに、今はいろんな感情が体の中から出ようと沸き出してくる。


天使が近づくにつれその輪郭ははっきりしてくるのにいまだ本当に存在するのかと疑ってしまう。
夢だと言われた方があっさりと信じるだろう。
まだ、自分はあの屋敷でただ、日々を浪費しているのだと。


それか、死んだのかもしれない。

あっさりとその思考にたどり着き納得する。
安心感さえ感じた。

やっとだ、やっと解放されたのだ。
どれだけこの時を待ちわびたか。

ああ、そうだ、きっと死んだのだ。
ずっと森の中を歩き回って魔物に殺されたのだろう。
それでもいい。最後にこんな景色が見られたのなら。
ここまで、生きていたかいがあるというものだ。
消えてしまう前に目に焼き付けるように瞬きもせず見つめ続けた。

心臓がバクバクと耳に響いた。
喜びからか、興奮からか、恐怖からか。


だというのに、目の前の光景はずっと消えてなくならなかった。

真っ白なあの人はいつの間にか触れられる距離まで近くにいた。
消えない?

本当に?

誰なのだろう?
夢ではないの?
どうして助けてくれたのだろう?

疑問は尽きないのにそれらが口から出ることはなかった。

白い彼はどうやら天からのお迎えではないらしい。

色が濃いほど魔力が濃いと聞いたことがある。
なら、彼は?
同じ人なのだろうか?


にこにこと笑い、水色の小瓶を持たせてくる。
魔力、回復、傷。…家。

家?
彼の言った単語が頭の中を回り自分の中で何かが落ちるのが分かった。

この人も魔力目当てなのだろうか?
今度は、この人に監禁される?

…それでもいいか。

この人になら飼われてもいい。

胸に残ったのは、高揚感と喜びだった。

触れたことのない感情をどう処理しようかと、考えていると突然彼は寝っ転がった。

?!

さらには、隣を叩きここに寝ろと言う。

近くにいっていいのだろうか?
手を伸ばせば触れられる距離だ。

無意識に手が伸びそうになった時、「触れないように」という声が聞こえた。

その声に自身の伸びていた手に気が付いた。

やはり、触れたら汚れてしまうのだ。

彼の隣に寝ころぶ。
眠くはなかった。
むしろ意識ははっきりと覚醒している。


――
おはよう!

日に照らされまどろみながら目覚めれば目の前には青空が。
ああ、そういや、野宿したんだっけか。
寒くなくって良かったなぁ。
そう考えながら横を向くと…


「ヒッ!」
思わずひきつった悲鳴が漏れた。

隣に「彼」がいるのは良い。
目を閉じているのであれば俺もビビらなかっただろう。

真っ黒な目がこちらを凝視しているのである。

眠気なんか速攻吹き飛んだ。

瞬きもせずこちらを見据える「彼」にさすがに恐怖を感じる。

感情のない顔で見てくるのでとても怖い。


「お、おはよ」
震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだった。
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