魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫

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青年期

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魔王――。

この世界の悪。滅ぼすべきもの。
いくつもの厄災を引き起こし、そのたびに多くの被害を出した。

魔王を滅ぼすために勇者パーティーが組まれたが、あっけなく倒された。
一時は封印とまでいったらしいが、それも気休めにしかならず。
完全に倒すまではいかないようだ。


その実態はほとんどわかっていないらしい。
いつ生まれたのか。どうして生まれたのか。
魔物なのか、人なのか。
生き物ですらないのか。

魔王のもとに行って生きて帰ってこられた人がいないために……


――というのがこの世界の一般常識。子供でも知っている。

ちなみに俺は知らなかった。
ロット君に「誰でも知っていると思いますけど」とわざとらしい前置き付きで教えてもらった。
あれは絶対に馬鹿にしていた。

解せぬ。



ここからはステラから聞いたゲームの話。

――魔王は昔の王族から生まれた。
ネロと同じように魔力が多く生まれたために周りから恐れられた。
黒を持つものを初めてみた民は彼を"化け物"と呼んだ。

当時の王、つまり彼の父親は息子に玉座を奪われることを恐れ、殺そうとした。
だが、王宮内の第二の勢力が王子を王に祀り上げようと画策し殺されることは免れた。

別邸で育てられた王子は、普通の日々を送ることもできなかった。
何度も暗殺者を差し向けられた。
何を食べるのも恐ろしくなった。
夜も眠れない。いつ刃が振りかざされるのかわからないから。
実の父親によって差し向けられた者たちは倒しても倒してもウジのように湧いて出てきた。

周りの者はどんどん減っていった。
味方をしていた者も、兄も、姉も、弟も。
使用人も、支持していた者もいつの間にか消えた。

殺され、殺し……。
敵味方の区別がつかなくなった。

ついに、王子は別邸にいるものをすべて殺してしまった。
周りは台風が過ぎたかのように荒れているのに王子には傷一つついていなかった。

一人空に獣のように吠えた。
その頬は涙に濡れていた。

血の海となったかつての家を冷たい瞳で見上げ……もう振り返ることはなかった。


向かったのは王宮だった。
すでに王宮の周りは魔法使いや騎士団、魔法の精鋭たちが王を守っていた。
強張った顔をした者、勇ましく立ち向かおうとしてくる者、固まったように震える者、大剣を振り回し叫ぶ者。
顔つきは様々だが、皆一様に刃を王子に向けていた。

それらを一瞥した王子は、無表情で右手をスッと掲げた。

何が来るのかと警戒する間もなくあたりは音を立てて沈んだ。
王宮を囲むように地面が落ちたのだ。
堀ができたように王宮だけが取り残された。

轟音と共に足元が一瞬にして無くなり、騎士たちはあらがうすべなく落ちた。

真っ黒な瞳でその様を見下ろした。
上に飛んで来ようとするものや下から魔法を放ってくるものもいたがそれもすぐになくなった。
誰しも隣にいた者が凍り付いていったら何もできなくなるだろう。


王子が手を一振りすれば強固なはずの魔法も魔法使いも簡単に敗れた。

外の音に王は、ただ蹲って震えていた。
その姿に王の威厳などとうに無い。

玉座の間につながる廊下からコツコツと靴の音が響く。
王の口元からもカチカチと音が大きくなっていく。

靴音が近づくにつれ玉座に座っていられなくなった王は、玉座の前に座り込んだ。
周りを守ってくれるものはもう誰もいなかった。

――

その後、王の姿を見た者は誰もいない。
そして王子の姿も。

――
王子は王を殺した後、森の中の屋敷に隠れ住んだ。
王宮とは遠く離れた地で村人ともよい関係を築いていた。

普通の人のように気にかけられることに王子は救われていた。

敵意を向けられることのない平和な時間に、次第に王子の心には平穏が訪れた……かのように思われた。

たとえ、遠く離れた地でも、噂というものはどこまでも追ってくる。
「王が殺された」「黒い化け物によって」「黒って…」

そんな噂が村を包んだ。

昨日まで笑いかけてくれた人が、今日は目を合わせることもなく逃げていく。

噂は瞬く間に広まり、ここでも王子は忌み嫌われるものとなった。
そこにいられなくなった王子は、また家を捨てた。

長い旅路の末、彼は少年から大人になっていた。
何度も期待しては裏切られて……繰り返すごとに心はさらに落ちていった。

人に期待しなくなった彼は、人であることをやめた。


そうして、彼はいつしか魔王と呼ばれるようになった。
――

とまあ、ゲームでは魔王の成り立ちが分かるらしいのだが……

その件の魔王がネロを監禁していた貴族と関わりがあると?
ネロに関わることなら話は別だ。詳しく聞こうじゃないか。

気持ち前のめりになってグレイヴに続きを促す。

「噂とは?」
顔の前で腕を組み真剣な顔つきをしてみる。

「どうやらその貴族が魔王を捕えていたと……だから魔物があの屋敷に集まったのだと噂されている」

え、魔王って捕らえられんの?倒せもしないのに?

……じゃなかった。魔物はネロの魔力に引き寄せられたんだろう。
だから魔王は捕えられてはいない。

「え、それだけ?それでなんでネロが疑われるんですか?」
拍子抜けしてしまい、ふうっと息を吐きだす。

「言っただろう、見るものが見ればわかると。ネロ君は……黒を持つものなんだろう?」

確信を持ったその声に驚くこともなく頷いた。

まあ、認識阻害くらいじゃ隠せないよな。
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みんなの感想(4件)

ruru
2026.01.13 ruru

無事?2人が会えて良かったです。

ネロは我が家の黒猫と同じ名前。黒だとやっぱり付けちゃいますね笑

これからストーリーに出てくるのでしたら申しないのですが、ネロ君の語彙力はどこから?なんだか監禁されてたっぽいし本とか読む環境にもなさそう?ちょっと気になりました。

(因みに私は語彙力ないです。感想短くてすみません笑)

2026.01.13 お鮫

ruruさん、まずはここまで物語を追っていただきありがとうございます。

そうですね。ネロ君監禁されてた割には語彙力が高い。
そこらへんは追々出していけたらと思っています。m(_ _"m)

細かなところまで、読んでいただき本当に感謝です!
更新ゆっくりですが、最後まで追っていただけるように頑張ります!

解除
Adam_TOKYO
2026.01.09 Adam_TOKYO

いつも更新楽しみにしています。ついに…ついに、気持ち的にはやっと!(笑)メイン同士が出逢えた…!!と嬉しくてたまりません!
魔王の息子君との出逢いシーンはいつなんだろう…と焦らされて毎話毎話そわそわしていたのですが、作者様の言葉の紡ぎ方や良い後味の残るようなストーリー展開に惹かれてずっと読み続けていて良かったです…!
ここからにやにやしたりほっこりしてしまうようなシーンが多くなるのかなと益々楽しみです!
物語の完結まで追い掛けて応援し続けたいです!ご自身のペースで、これからも楽しみながら書いてください!

2026.01.09 お鮫

嬉しいお言葉ありがとうございます!
私自身、まだこの二人出会わないっ!と思いながら書いておりました。
諦めずにお読みいただき本当に感謝です。
これからも楽しんでいただけるよう頑張ります!

解除
RIE(*´꒳`*)
2025.12.23 RIE(*´꒳`*)

面白くて一気読みしちゃいました!
魔王になる経緯も気になるしシルヴァと黒髪の青年との邂逅も楽しみです!・:*+.

2025.12.23 お鮫

うわぁー!うれしいです!
励みになります!

解除

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