虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ

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【第一部】国家転覆編

25)目覚め

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※11/29 本日2話更新です。こちらからお読みください。


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「グレン!! だーかーらー! なぁんで角が生えてるんだよ角が!」

――なんかあったらカッコいいかと思って!

「馬鹿、お前は角がなくても十分カッコいい立派な天才魔術師だろうが!」

 ちぇっ。角はドーヴィに不評だったみたい。僕は生やしていた黒い角をぶちっともぎ取り、ぺたぺたと足に作り直した。……こねこねするのも、ちょっと飽きてきた。

――……ねえ、ドーヴィ

「なんだ? どうした?」

――僕は、そろそろ起きた方がいいよね

「……そりゃあ、な。じいやもばあやも、他のみんなも、お前のことが心配で心配でたまらないって顔してるぜ」

――そうだね……

「だが、起きたくないなら、別に起きなくてもいい。俺が全部何とかしてやるから、お前は満足するまで眠ってていいんだぞ」

 ドーヴィの言葉はとても甘い。あったかくて、あまくて、きもちがよくて。ちゃんと作った手足とかが、またふにゃふにゃになる。力が抜けるって感じだ。

 でも。さすがに、起きないと。だって僕は、クランストン辺境伯だからね。きっとやらなきゃいけないお仕事もたくさん溜まってるし、領民を不安にさせちゃいけないし。

――ううん、起きる

「そうか」

――……ほんとは起きるの怖い

「だろうなぁ」

――だって……痛くて、怖くて、辛くて……怖かった

 ちゃんとは覚えてないけど僕がぐちゃぐちゃになっちゃった時のやつ。ちょっと思い出すだけで、ぶわーって足元からそれが這い上がってきて、それだけでぶるぶるしちゃう。よくわからないけど、とにかくイヤ。怖い。ヤダ。心臓がドキドキうるさいし、なんだか頭だってくらくらしてきちゃう。

 起きなきゃいけないのに、立てなくなっちゃった。足に力が入らなくて、僕、起きろ起きろ!って言ってるのに、全然、体が言う事聞いてくれない。

「グレン」

――ドーヴィ、どうしよう、僕、起きなきゃいけないのに、立てない。僕、辺境伯だから、立たないといけないのに……

「……ハハッ、しょうがねえなあ。ほら」

 ドーヴィの大きな手が、僕の両手をぐいっと引っ張った。すごく力強くて、僕の体、おもちゃみたいにぽーんって跳ね上がった。ドーヴィ、力強すぎだよ!

――わっ!

 そのまま、すぽん、って、ドーヴィの腕の中に納まったみたい。僕の大好きな場所。あったかくてやさしくてきもちよくて。僕が我慢できなくて、ドーヴィの体に抱き着いた。ぎゅって。ぎゅってしてもらうのもいいし、ぎゅってするのも好き。

「お前が立てないなら俺が支えてやる。これで立てただろう?」

――うん

「……グレン。お前は、何がしたい? 何をやりたい? 俺はお前がやりたいことなら何でも手伝ってやる。お前が幸せになるためなら、何だってやってやる」

――僕がやりたいのは……

 僕がやりたいのは。やらなきゃいけないこと、じゃなくて、やりたいこと、は。

 痛くて、辛くて、苦しかった……あともう一個。僕はあの時、悔しい!って思った。そうだ、僕は思ったんだ。自分が死ぬことより何より、残された人たちを守り切れなかったことが、悔しかった。

――僕は、クランストン辺境伯として、みんなを守りたい。みんなに幸せになって貰いたい。姉上も、じいやも、ばあやも、補佐官の人たちも、騎士の人たちも、城下町の人たちも、村に暮らす人も、みんな。みーんな、幸せになって欲しい。

「……わかった。それがグレンの望みなんだな」

――うん。父上と母上と、兄上の分も。僕が、みんなを守りたい。みんなが守ってくれたみんなを、今度は僕が守りたい。

 ドーヴィが僕の頭を撫でてくれる。これもきもちよくて、すごく好き。

「契約主の、お望みのままに。グレン・クランストンの願いは、この悪魔ドーヴィが叶えよう」

――ドーヴィ

「グレンが皆を守るなら、俺がグレンを守ろう。お前は自分がやりたいように、やればいい」

 俺がお前を守る、そう言ってドーヴィはまた僕のことを強く抱きしめてくれた。優しくて、力強くて、温かい……ううん、とても熱い。僕も、どんどん体が熱くなってくる。怖くて震えてた僕の体が静かになっていく。

「大丈夫だグレン。お前には俺がいる。俺がずっとそばにいる」

 辺境伯になってから、ずっと怖かった。何をするのも怖かった、生きているのが怖かった。父上も母上も兄上も死んでしまって、姉上もいなくなって。何の学も実績もないのに、僕がいきなり辺境伯当主になっちゃって。何をやっても、失敗するんじゃないかって怖かった。僕の指示で誰か死ぬんじゃないかって怖かった。

 他の貴族はみんな敵だった。僕の味方は、僕が守らなきゃいけない人達だった。

 僕は、ずっと、誰かに、『大丈夫』って言って欲しかったんだ。守ってもらいたかったんだ。

――僕は、もう一人じゃない

「そうだ。俺がいる」

――ありがとう、ドーヴィ

 起きても、もう怖くない。ドーヴィがいるから。



☆☆☆


「……マルコ、外のやつらを呼んできてくれねえか」

 グレンの手を握ったままのドーヴィが、静かにそう言った。

「人遣いの荒い悪魔ですね、全く」

 そうぼやきながらも、天使マルコはベッド端から立ち上がり、部屋の扉へと足を向ける。

 同時にずっと眠ったままだったグレンのまぶたがぴくりと動き――ゆっくりと、開かれた。

「ぁ……どー……う゛ぃ……」
「……おはよう、グレン。よく眠れたか?」

 数週間ぶりに見た紫がかった赤色の瞳は、ドーヴィの顔をぴたりと見定める。すぅ、と目が細められ、グレンの口元が柔らかく綻んだ。

「……ちょ、っと……たの、しかっ、た……」
「っ、お前は、ほんとにこっちの気も知らねえで……っ!」

 ドーヴィの声が、涙に揺れたのはグレンの気のせいではないだろう。

「坊ちゃま!」

 マルコに呼ばれた執事のアーノルドと、メイド長のフローレンスが雪崩れ込むように寝室に入ってくる。扉の向こうから、待機していたメイドや騎士が様子を伺う。耳ざとく騒ぎを聞きつけたメイドが廊下の奥からやってくる。

「坊ちゃま、よく、よくぞ、お戻りに……っ!」
「ごめ、ん……ただいま……っ」
「ううっ、うっ、おかえりなさいませ、坊ちゃまっ!」

 フローレンスの泣き声を皮切りに、騒動は次々に使用人の間に広まり――やがて、クランストン辺境城中に、喜びの声が満ち溢れていく。

 歓喜の声は城に留まらず。城下町へと伝わり、さらに長い時間をかけて、辺境中の村に至るまで。

 すべての人々が、クランストン辺境伯の帰還に歓びの声を上げた。


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短いですがキリが良いので
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