後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん

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第4話 毒と再会

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 赤くかぶれた手は痛々しく、触る事すらためらってしまうほど。そして触れると手がかぶれ、最悪肉が溶け出していく毒の存在と、宮女が起こしているかぶれ方と全く同じである事。
 それらの知識と記憶が美雪の脳内でありありと浮かび上がった。勿論対処法も一緒に思い起こされていく。

「えっ毒?!」
「毒なら毒消しを塗らないと……! ここまでかぶれていると言う事は、早く対処しないといけません!」

 周囲がざわめきだす。すると花音がこちらへとやって来た。

「美雪さん、何が――」
「花音さん、毒消しがあるような場所ありますか?!」
「えっと、毒消し……それなら治療院があります……! あぁ、すごいかぶれてる……!」
「では行きましょう! 急がなくちゃ!」

 花音に案内され、洗濯場から西にある治療院へと走り出す。なお、新葉は後宮入りしたばかりで治療院の存在を知らなかったらしい。
 治療院は宮女や宦官達為に作られた施設である。なお妃達はというと、専属の医者団が付いている。
 確か妃達の位は皇后を頂点に四妃九嬪二十七世婦……だっけなあ、と美雪は残されている記憶をたどってみた。このうち九嬪より上の位の妃には、妃ひとりにつき医師団が1組つく。
 治療院は朱塗りの豪華絢爛な屋敷が丸々使われており、美雪が訪れると既に数人程列をなして待っていた。

「ここ、いつもはもっと混んでいるみたいですけど、今日はそうでもなさそうですね」
「花音さん、そうなのですか」
「えぇ。ここは診察以外にも鍼灸や按摩の処置も行っていますから」
「大丈夫ですか? 痛みの程は……」

 新葉は大丈夫です。と笑みを見せるが、明らかに自然に出たモノではない。額には玉のような汗がいくつか流れ落ちていく。
 
「大丈夫。必ず治しましょう」

 美雪は彼女を励ますべく、何度も大丈夫だと繰り返す。新葉はその度に咀嚼するように頷いた。

「美雪さん、優しいんですね」
「え」
「まさかすぐにこうして治療院まで連れて行ってもらえるなんて」
「そんな……すべき事をしたまでですよ。毒消しを塗って治療を受ければもう大丈夫ですからね」

 にこっと美雪の顔から笑みが漏れる。それにつられて新葉もふふ……と自然な笑みを見せてくれた。

「美雪さん……まるでお医者様か薬師さまみたいです」
「えっ……」
(私が、医師か薬師……?)

 そうこうしているうちに順番が回って来たので、花音と並んで若葉を先導させる形で薄暗い建物の中へと入った。

「失礼します! この方に毒消しを……!」

 すると、左側の奥にある人物が淡い桃色の着物を着た女性薬師達を集めて何やら話を行っているのが見える。
 人物の衣は水色。あの時着ていたものと同じだ。

「! 朝日さん!」
「っ、美雪……! 久しぶりだな」

 この機会での朝日と再会。美雪の心臓は不安さと期待が入り交ざった独特な鼓動へと変わっていった。
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