後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
11 / 79

第11話 皇太后

しおりを挟む
 あちこち廊下を曲がりくねったり、外に出たりした桃玉一行。ようやく朱龍宮に到着するとそこには既にたくさんの妃や女官達が詰めかけていた。
 桃玉がその様子を緊張のまなざしで眺めていると、左前方から何やら妃同士の諍いが始まる。

「あなた、私の方が位が上なの分かってるでしょ?」
「でもあなた妃になってからずっと皇帝陛下のお渡りが無いじゃない。私は何回もあるのよ?」
「調子に乗らないでくれる?」

 どうやら、どちらが偉いか揉めているようだ。

(関わったら碌な事にならない。無視しよう……)

 揉めている妃達をよそ目に、桃玉はさあっと通り過ぎていくと、妃達が桃玉に気づいてしまう。

「あなたが李昭容様ね!」
(うっそ、バレた!)

 ギョッと引きつった顔をする桃玉。しかし妃達2人はお構いなしに持論を桃玉にぶつけてくる。

「私は倢伃の位で、その女は美人の位! どちらが偉いかは言わなくてもわかりますよねぇ!?」
「でも! 寵愛は私の方が……!」

 無論、倢伃と美人だと倢伃の方が位は上だ。しかし美人の妃は、龍環との夜伽経験のある自分の方が上だと思い込んでいるようだ。
 
(そりゃあ、倢伃の方の方が上だけど……!)
「わっ、あ、あの……!」
「李昭容様はどう思われます?!」
「勿論、夜伽経験のある私ですよね?!」
(ひっ、怖い――!)
「何をしている!」

 後ろから低い女性の声が響き渡った。

「ぢ、ヂィア淑妃様……!」

 美人の妃がカタカタと身体を震わせる。倢伃の妃の顔もみるみるうちに青ざめていく。
 桃玉が後ろを振り返ると、そこには艶やかな紅い装束を身にまとい、宝玉がふんだんに盛り込まれた髪飾りとかんざしで美しく結われた黒髪に猫のようなキリッとした鋭めの紅い瞳、雪のような色白の肌をした背の高い妃・佳淑妃が立っていた。

「もたもたするな! 早く列に並ばんか!」
「はい!」 
(淑妃という事は……四夫人! 昭容である私よりも位が上の妃!)

 倢伃と美人の妃は素早く朱龍宮の中へと消えていった。
 桃玉も慌てて朱龍宮の中へと向かうと、佳淑妃から待て。と声をかけられる。

「は、はいぃっ!」
「貴女が昭容の李桃玉か? 今日後宮入りしたと聞いたが」
「は、はいぃ! はじめまして! 李桃玉と申します!」

 慌てふためく桃玉は深々と頭を下げながら、佳淑妃に挨拶をする。佳淑妃はふうっ……。と息を吐きながらじっと桃玉を見た。

「貴女をとって喰おうというつもりなど毛頭無いから落ち着け。今後とも昭容として励むように」
「は、はい……!」
「早くいけ。そろそろ時間だ」

 佳淑妃に促されて桃玉と女官達は建物の中に入り、列に加わる。すでにほとんどの妃が指定された位置に立って皇太后が来るのを待っていた。

(思ったより目立つ場所だ……)

 昭容という位だけあり、桃玉の位置は前方の目立つ場所だ。指定された位置に立った桃玉はふうっと深呼吸する。

(緊張が止まらない)
「皇太后陛下のおなりでございます」

 女官の声が響くと同時に妃達は頭を下げるのを見た桃玉はばっと周りと同じように頭を下げた。
 かつかつと鳴り響く靴音は、冷たさを纏っている。

「面をあげなさい」

 自らの椅子の前に立つ皇太后の暗く低い声が、広間中に響いた。桃玉は他の妃と同時に頭を上げる。

「皆さん、お疲れ様でございます」

 40代の中年女性である皇太后は広間にいる女達の中でもっとも豪華な装いに身を包んでいた。美しく結われた髪には宝石や金で作られたかんざしがいくつもあり、耳飾りに首飾り、指輪も贅沢なものだった。
 しかしながら黒い瞳を持つ顔は地味な部類。不細工という程でも無いが群を抜いて美人という訳でも無いし、なんなら龍環とはほとんど似ていない。

(この方が皇太后様、いや陛下……)
「各自、皇帝陛下からご寵愛を受け1日も早く世継ぎを授かるように努力を続けなさい。よろしいですか?」

 皇太后からの言葉に妃達ははい! と大きな声で返事した。

(まだ世継ぎはいないんだ)
「さて、今日はどなたが夜伽役に任ぜられるかが楽しみです」
(それ……私です……! てか、もしかしていつもこうして夜伽役だとバラされるの?! 怖いんですけど!)

 すると、皇太后の左隣にいた中年位の女官が桃玉をちらりと見た後、小声で皇太后にひそひそと話しかけた。

「そう。李昭容が」
「そうでございます」
「李昭容!」
(うわっ、バレた!)

 皇太后が桃玉を呼んだ瞬間、一斉に妃達が桃玉を見た。その視線には殺気と好奇心がそれぞれ入り混じっている。

「李昭容。あなた、今日後宮入りしたようですね?」
「は、はい。さ、さようでございます……」
「なら、この後女官から閨について聞いておきなさい。くれぐれも皇帝陛下のご機嫌を損ねないように」
「は、はい……」
「全く……なぜ皇帝陛下は農民の出である女を昭容に迎えたのか理解に苦しみますね」
(うわっ! やっぱりこうなるかあ……)
「では、皆さん。これで解散と致します。ごきげんよう」

 挨拶は終わったが、桃玉とその女官達は皇太后の命により居残りとなっている。

「あなた。皇帝陛下に一体何をしたのですか?」
「は、はい?」
「皇帝陛下へふしだらに迫ったのでしょう? 農民出身の女が昭容だなんていくらなんでもおかしいです」
「や、その……」

 皇太后の不機嫌さに満ち溢れた視線が、桃玉を捉えて離さない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...