後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
24 / 79

第24話 あやかしの仕業か、人間の仕業か

しおりを挟む
「李昭容様。今夜の皇帝陛下の夜伽に選ばれました事をご報告しに参りました」
(夜伽……という事は作戦会議ね)
「了解いたしました」

 龍環の夜伽相手に選ばれた桃玉は宦官2人を見送り、椅子に座る。

(夜伽に選ばれるのは久しぶりの気分になるなあ……)
「桃玉様。入浴の準備を進めておきますね」

 女官からの言葉に桃玉はぜひお願いします。と返事をした。

(もうそんな時間か)
「桃玉様。そろそろ夕食をお召し上がりになりますか?」
「う――ん……まだお腹空いていないから、もう少し後でも構いませんか?」
「ええ、大丈夫でございますよ」
(ちょっと散歩でもしようかな……でももう外は暗くなってるし、こんな状態で外を歩くのは危ないし、照天宮の中だけにしておこう)

 桃玉は女官1人を付けて部屋を出て照天宮の中を歩く。廊下では女官や下女があちこち早歩きで移動する姿がちらほら見受けられた。

「ねえ、あの女の芸人が亡くなったのって誰の仕業だと思う?」

 ふと、桃玉の左前方で3人程、40代くらいのちょっと小綺麗な見た目の下女が集まって話をしているのが見えてきた。彼女達は空っぽになったお膳を持っている所から、照天宮の妃か女官の誰かが食事を終え、厨房にお膳を下げに行っている場面である事が理解できる。

「私、あやかしのせいだと思うのよ。あの龍羽池昔から人魚がいるって噂、あったのを覚えてるのよ」
「それは私知らなかったわ……あなたはそういや子供の頃から宮廷で働いているんだっけ?」
「そうよ。でも今は分からない。その噂も私が子供の時の話だったから……」
「子供の頃の噂なら、どうせ大人の作り話でしょ? 言う事を聞かせる為の脅し文句に決まってるわよ」
「え――? 私はそうは思えないけど……」
(へえ……やっぱり噂、あったんだ)
「あの、ちょっとお話お伺いしても構いませんか?」
「り、李昭容様……!」

 お膳を落としそうになるくらい驚く下女をなんとか落ち着かせた桃玉は、彼女達がお膳を厨房へ返しに行った後下女達が寝泊まりする大部屋へ移動し、そこで話を聞く事にした。
 大部屋は下女が寝泊まりする部屋なだけあって、簡素な部屋。しかもそんな大部屋を家具で仕切って使っているのだ。だが部屋自体は綺麗に片付けられている。

「あの、さっきのお話……詳しくお聞かせ願えませんか?」
「ほら、あんたよく知ってるんでしょ? 李昭容様に全部言っちゃいなさいって」

 下女の1人が、先ほど人魚がいるといった下女に小声でささやく。ささやきを聞いた下女は、緊張の面持ちで頷いた。

「わ、分かりました……! ちょっと話は長くなりますが」
「いえ、構いません。お願いします」

 下女の話をまとめる。彼女は幼い頃、寝付く事が出来なかったので大部屋から出て外を1人ほっつき歩いていた。
 すると龍羽池の目の前で、50代くらいの小柄でやせ気味の宦官に見つかってしまったのである。そのまま当時の下女は、宦官に叱られて大部屋へと戻されてしまったのだった。

 ――あの龍羽池にはな、人間を食べる人魚がいるんだよ。1人でほっつき歩いていたら、池の中に引きずり込まれて食べられるかもしれないんだぞ?

 宦官はそうこんこんと彼女に言い聞かせた。彼女がこれまで人魚に食べられた者はいるのか? と問うと宦官はこれまで妃達が何人か食べられたと答えたという。

「……というお話でございます。本当に人魚がいるのか否かはわかりません」
「お聞かせして頂き、ありがとうございました。今、この話を知っている人はどれくらいいらっしゃいますか?」
「そこまでいらっしゃらないかと存じます。先々代の皇帝陛下の時代のお話ですから……あの宦官も既に亡き人でございますし」
「そうなのですか……」
(となると、知っている人は限られてくる、か……)
「ありがとうございます。では、これにて……」

 下女達の住まう大部屋から自室へと戻った桃玉は、夕食を頂く事にした。夕食は白菜と肉団子入りのスープに鳥肉の唐揚げをはじめ豪華な品が並ぶ。

(いつ食べても美味しいな……自作の料理とは全然違う)
「そういえば、妃が厨房に立って料理を作る事って……」
「まずありませんね」
(やっぱり。でも……たまには自分で作ってみたいな)

 夕食を食べおえ、入浴を終えた桃玉。前回と同じように裸にされて布団にくるまった状態で皇帝の閨へ移動した。

(これ一生慣れないな……)

 布団でくるまれた状態で閨の上にいる桃玉。人払いをした龍環によって布団をほどかれ、寝間着に着替えた。

「すみません、お待たせしました」
「ううん、大丈夫。……桃玉。彼女の名前は確か花だったか。彼女の死の原因は何だと思う?」
「……それについて、興味深い話を聞きました。龍羽池には人魚がいるという噂です」
「人魚?」
「はい。人間を食べる人魚がいると……」

 桃玉は下女から聞いた話を龍環に全て聞かせた。話を聞き終えた龍環はあぐらをかいて腕組みをし、大きく何度も首を縦に振った。

「……やはり、あの水龍表演で見たものは、あやかしかもしれない……」
「龍環様……」
「桃玉、君はどう思う? 花を殺したのはあやかしの仕業か、はたまた人間の仕業か」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...